銀座平野屋には普段お客様の目にはふれないけれど、素敵なものが数々ございます。
それは江戸からの粋を伝える物であったり、先人の技や美を伝えるものであったり様々です。
その中で銀座平野屋には、先人の技が光る逸品もございます。
「飾り櫛」(その3)で
「銀座平野屋で所蔵している櫛笄は、桜や菊が多いように感じます。」と
書きましたので、今回は菊の飾り櫛を中心にご紹介したく存じます。
まず1点目。
「櫛 菊御紋」杉蔵作 横10.5×縦5.3×幅0.8cm
木台(木製の櫛の意)。赤漆で塗られています。
ここに金色の高蒔絵で菊の御紋と、
小さな梅(左)と桜(真ん中と右)が表されています。
合わせて、笹の葉(=竹)が銀と細かな螺鈿の高蒔絵で描かれています。
菊の御紋と梅・桜・竹。おめでたい象徴が揃っているので
お正月や祝い事の席で身に付けたものでしょう。
左に「杉蔵」と作者名が入っています。
もう一つの面。
こちらは描かれたものが少ないので、裏面です。
桜と金銀の高蒔絵の笹がありますね。
*高蒔絵(たかまきえ)とは地盛りしたうえに蒔絵を施したものです。
漆だけで盛り上げる方法や、漆の上に炭粉を巻き付けてさらに高く盛り上げる方法などがあります。
他の櫛よりも厚みがありますが、それでも1cm以下。
ここにも白い色漆で小さな花をかたどっています。
合わせて銀と螺鈿で葉を表現しています。
螺鈿のキラキラが目立ったことでしょうね。
2つ目。
「櫛 菊蒔絵」江戸時代 横8.6×縦3.5cm
鼈甲台(鼈甲製の櫛)。螺鈿蒔絵で小菊が。
金銀蒔絵で秋草が描かれています。
櫛の歯にまで水の流れと秋草が金蒔絵で表現されています。
*裏表とも同じものが描かれています。
少し小ぶりの飾り櫛ですが、黒地に金銀螺鈿の輝きが映え、
存在感がある櫛です。
今身につけても、人目をひくかもしれませんね。
3つ目。
「櫛 菊に几帳(きちょう)」横10.5×縦5cm
鼈甲台の櫛に、金の透し彫りをはめ込んであります。
したがって、裏面も同じ意匠です。
細かな金の透し彫りに、小菊と几帳が配されています。
菊と几帳の意匠は、現代の着物でも古典的な柄として使われていますね。
幅1cm位の中にこれだけの透し彫りは素晴らしいとしか言いようがありません!
✳︎几帳(きちょう)=平安時代以降、貴族の邸宅に置かれた間仕切りの一種。
T字型の棒に絹の布をかけて使われていた。
鼈甲の色の温かみと金が見事に溶け合って、大変綺麗な櫛です。
日本女性の黒髪に金がよく映えたことでしょう。
鼈甲に金をはめ込んでありますが、
作られてからかなりの年月が経っているので外れる恐れもあり、
貴重な飾り櫛だと思います。
これをはめ込んで修理する職人さんが減っているのが現状です。
先日、お祖母様から受け継いだというこれと同じ作りの飾り櫛を、
銀座平野屋にお持ちになったお客様がいらっしゃいました。
聞けば、この金の部分が外れてしまい、知り合いの鼈甲細工のお店に持ち込んだら
修理ができないと言われたとのこと。
そこで銀座平野屋とお付き合いのある鼈甲職人さんのところにお願いし、
元どおりにしてもらったということがございました。
鼈甲自体が希少な材となっておりますので、
このような見事な細工ができる職人さんが減っているのは寂しいことです。
今回は菊の飾り櫛ばかりご紹介いたしましたが、
菊を表現するのにも様々な材や技法が見られ、
日本女性にとって身近で愛された植物だったのがよくわかりますね。
このシリーズ。次回は菊以外の植物の飾り櫛をご紹介いたします。
気長にお待ち下さいね。
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