銀座平野屋女将日記

銀座平野屋210年のあゆみと老舗女将の嫁日記

季節の美ー飾り櫛(その5)-

2019-04-03 | 日記

銀座平野屋には普段お客様の目にはふれないけれど、素敵なものが数々ございます。

それは江戸からの粋を伝える物であったり、先人の技や美を伝えるものであったり様々です。

その中で銀座平野屋には、先人の技が光る逸品もございます。

 

 

今回は「飾り櫛」(その3)(その4)に引き続き、まだご紹介していないもののをご覧いただく存じます。

 ✳︎それ以前の記事はこちらから→(その1)(その2)

 

 

まず1点目

 

「櫛 牡丹高蒔絵」 孝玉作 横9.2×縦4.2cm

木台(木製)で赤の色漆と、左右一部に黒漆が塗られ、

黒漆上に蒔絵をほどこしてあります。

高蒔絵という技法で、牡丹の花が金色で立体的に表現されています。

下の書き付けは先代の覚書で「牡丹高蒔ヱ」とあります。

 *高蒔絵(たかまきえ)=地盛りしたうえに蒔絵を施したもの。

 漆だけで盛り上げる方法や、漆の上に炭粉を巻き付けてさらに高く盛り上げる方法などがあります。


牡丹の花の立体感が出ていますね。

左右の黒に螺鈿の煌きが、全体を引き締めているようです。

  

こちらがもう一つの面。

表裏同じ柄ですが、

 

左に「孝玉」の作者名と花押が入っています。

 

牡丹は初夏の季語です。

初夏の日差しに大柄で目を惹く意匠と、金や赤、螺鈿の色が照り映えて

人目を惹く楽しみが感じられる飾り櫛です。

今でも使えそうな飾り櫛ですね。

 

 

2つ目です。

「櫛  すずらん」横9.5×縦4.5cm

当ブログでは珍しいセル台(セルロイド製)の飾り櫛です。

セルロイド製なので、おそらく明治大正期以降に作成されたものと思われます。 

先代の書き付けで「すゞらん セル」とあります。

 

スズランの花は透し彫りで、葉は線彫りで表現されています。

素材がよくわからないのですが、5つの玉が象嵌(ぞうがん)されています。

初夏に咲くスズランの花とセルロイドの透明感が涼やかな印象です。

暑い夏のお出かけに、涼しげな装いを考えて使われたのでしょう。

 

 

 ✳︎セルロイド=ニトロセルロースや樟脳などから合成される合成樹脂。

  かつて象牙の代用品として開発された。

 加熱するとやわらかくなり成形が簡単なので、量産された。

日本では大正以降、おもちゃに使われたりしたが、

可燃性の物質のため発火の危険性があり輸出が禁止されるようになり、

生産量も減少した。後年プラスチックが出てくると次第に作られなくなっていった。

素材の性質上、べとつくなど長期保存にあまり向かない特徴もある。


✳︎象嵌(ぞうがん)=異なる素材のものをはめ込む工芸の技法のひとつ。

 

 

 3つ目。

「櫛 水仙蒔絵」美明作 横10×縦5×幅0.4cm

 

木台。

金で下地を塗り、その上に金や銀の蒔絵や、赤や黒の色蒔絵、

螺鈿蒔絵を施してあります。

先代の書き付けで「水仙蒔ヱ」とあります。

 

左下に「美明」と作者名があります。

以前ご紹介した『櫛笄 桜』の作者と同じです。

華やかな作風の作者なんですね。

 

南天の赤い実は、縁起のよい厄除けの植物として用いられていました。

水仙の銀色が黒っぽく退色していますが、元々の銀色を想像すると、

金銀赤の華やかな飾り櫛なのです!

縁起物としてお正月などの冬の飾り櫛として使われていたのでしょうね。

 

 

やはり1cm以下の幅にこれだけ細やかな細工が!

日本の職人さんに手抜かりはないんですねー。

 

 

色々な技巧で四季の草花を、小さな櫛の上に表現してきた日本の職人は

やはり見事です。

これを身につけた女性の季節を楽しむ心も素敵ですね。

そして現代の私たちも参考になるものも多く、

良いものはいつの時代も良いものであり続けるんだと

思わせて頂きました。。

 

 

 

 長々と銀座平野屋所蔵の「飾り櫛」をご紹介させて頂きました。

小さな櫛に広がる大きな世界を皆さまに紹介出来たこと、

大変嬉しく存じます。

お読み頂きありがとうございました。

 

 

 

 



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