本日のブログは、もの書き・manakoによる、創作ものがたりです。
素人もの書きの拙い作品なので、「興味ないよ〜」という方は、バックをお願い致します

それでは、はじまりはじまり〜。
『願はくは…〜かぐや姫異聞〜』
「こらっ!!また寝坊かぁ…」
ドタバタとリビングに駆け込んだ私に、同居人(かれ)が呆れ顔を向ける。
私は「エヘヘ…」と笑って誤魔化そうとするが、彼は更にしかめっ面。
「最近、多くないか?どうした、眠れないのか?」
「………」
口籠る私に、彼はため息。
「どうせ、眠れないからって、布団の中で遅くまでスマホ触ってたんだろう…。前から言ってるけど、寝る前にーーー」
ああ…、始まってしまった、彼のお小言。
ただでさえ寝坊して時間が無いのだから、勘弁して欲しい。
そりゃ、寝坊した私が悪いのだけれど。
彼の方が年上のせいか、面倒見が良いというか、お節介というか、少々口煩くて、なんだかお母さんみたいだ。
彼と一緒に住んだら、毎日ラブラブ生活と思っていたのだけれど…。
そう、一緒に住んでいるのだーーー
「起こしてよ…」
うっかり、ポロリとこぼしてしまった心の声に、「しまった」と思ったのは、時すでに遅し。
彼は眉間に皺を寄せて、更に特大のため息。
「一応、一時間前に声は掛けたぞ。けど、起きる気配が無いから、今日は休みなのかと思って…。それに、朝飯が出来たところだから、もう一度、声掛けようかと思ってたところだったんだけど…」
チラリと彼の背後のテーブルに視線を向ければ、湯気の立つ炊きたてご飯に、熱々の味噌汁。今日は焼き魚もある。
ああ、美味しそう…、だけど……
「どうせ、食べてく時間無いんだろう…。ほら」
目に見えてシュンとした私の頭を、彼は大きな手のひらで優しくポンと叩くと、もう一方の手で私の目の前に布包みを差し出した。
「おにぎり。本当は俺の昼メシと思って作ったのだけど。余裕がある時に食べな」
ああ…、前言撤回します。
お母さんじゃない、至れり尽くせりのスパダリ様です!!
「ほら、ぼやっとしてないで、さっさと出ないと遅刻するぞ!!」
包みを見つめ感動に浸る私の背を、彼が押す。
鞄に包みを納め、バタバタと玄関を目指す私は、扉の前でふと彼を振り返る。
その様子に、彼は怪訝な顔。
「おい!!遅れーー」
「ねえ、今日は早く帰って来れる?」
「……あー、年度末だからなあ…。出来るだけ早く帰るようにはするけど…。遅かったら、先に飯食べてて」
そうか、ちょっと残念ーー。
「……手のかかる彼女でごめんね。いつもありがとう!!大好き!!愛してるよ!!行ってきます!!」
そう、一気に口にして、私は家を飛び出した。
閉まる扉の隙間に、顔を真っ赤にして固まる彼の姿がチラリと見えたけれど、私はもう振り返らなかった。
そう、大好きだったよーーー
最近の寝坊の原因は、眠れなかったからだ。
だって、怖かった。
眠ってしまったら、もう二度と彼の顔を見れないような気がして……。
でも、どうせなら、ちゃんと寝て、早起きして、彼と一緒にゆっくり朝食を採れば良かったのかもしれない。
今日が最後の朝というのは、揺るぎようが無かったのだからーーー。
なんで、思い出してしまったのだろう…。
私は、かぐや姫だーーー
世に定着している竹取りの物語の「かぐや姫」とは、少し概念が違うかもしれない。
まあ、あれも様々に解釈があり、実は実話でかぐや姫は宇宙人だなんて説もあるけれど…。
でも、そう遠くもない。
私は、天の高く遥か彼方から、ある使命を持って、この地に遣わされた。
でも、その使命の為には、元の魂のままではダメで、力を磨く必要があるのだ。
この下界は苦界であり、人間(ひと)としてその世界に生きることは、魂の修錬に繋がる。
そうして私は、人間(ひと)の器に、元の魂を深く眠らせて生きてきた。
でも、そもそもが人間(ひと)とは異なる存在なので、人間(ひと)と同じ様に生きるのは難しい。
その最もたるところが、「物想い」することであろうか。
「泣いて」「笑って」、それが出来るのが人間なのだと、私は考えている。
でも、どうしてか、自分にはそれがよく分からなくて、それが欲しいとずっと願っていた。
ずっとずっと人間になりたくて、でも同時に、心の奥底のどこかでそれが手に入らないものなのだと、感じていたのだ。
それでも、あの彼と出会い、少しは人間ぽくなれたかな…と思っていたのだけれどーーー
時が来てしまったのだ。
竹取りの物語でいうところの、天の迎えが来る時がーーー
でも、実際のところは、少し違う。
天の彼方に帰るわけではない。
使命の時が近づいたから、本来の魂を目覚めさせて、生まれ変わりなさいということ。
それは、今の自分の肉体がこの世から消えたり、形が変わったりすることではない。
変わるのは中身だ。
天の羽衣を羽織るーーー
天のモノは、物想いしない。
天に帰って行く、かぐや姫のそれ。
眠れなかった理由。
彼に何か伝えておこうかと、考えたの。
でも、明日、彼の目の前にいるのは、今日と同じ姿をした自分。
魂が違っても、やはり自分なのだから。
きっと上手く演技(でき)るよ。
これからも、側に居たいーー
ただただ、私の我儘で、最後の願いだーーー
2025年3月14日ーー
今宵昇るのは、願いの月だ。
月の暦ならば、如月の望月。
「願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ」
西行法師がそう詠んだ、お釈迦様が入滅された日の特別な月。
現代でも、桜の花には少し早いかな…。
涅槃会ということならば、毎年やって来るけれど、今年の月は少し違う。
皆既月食が起こる。
しかも、月が昇る前に。
東の地域ならば、月食終わりの月が少し拝めそうだが…。
今宵昇る月は、生まれ変わりの月。
変容の時代の流転の月。
目まぐるしく流れ始めた新しい時代の救いであるように。
それが私の使命。
私は、釈迦無き世を生きるものだから。
末法のその先を、見届けなければならないーーー
「彼、帰ってこないなぁ…」
私が帰宅した頃には、天にはすでに新しい月が上っていた。
テーブルには、二人分の夕食。
スマホには「やっぱり遅くなりそう」という彼からの連絡があったけれど…。
最後の晩餐、一緒に採りたかったなぁ…。
もう、すごく眠くて堪らない。
生まれ変わりには、すごくエネルギーが必要なのだ。
だから、すっごくお腹が空くし、眠いのだ。
やっと、ゆっくり眠れる時が来たのだけれど…。
月は昇ってしまった。
呼ばれているーーー
「今日、ホワイトデーじゃん…。まだ、お返し貰って…な……」
重力に逆らえず、とうとう私の目蓋は静かに落ちた。
「ただいまぁ…、て、今日はもう寝てるのか…」
彼が帰ってきて、私の部屋の扉をそっと開けたのは、日付の変わる少し前のこと。
暗い部屋の中、ベッドで布団に包まっている私の姿に、安堵したような、少し残念そうなため息をつく。
彼は静かにベッドの私の側に寄ると、跪いて枕元に小さな四角い包みを置いた。
しばらく、目を閉じた私の顔をじっと見つめていたが、おもむろに口を開く。
「えーと…、朝は愛の告白をありがとう。本当は俺が言わなきゃだったのに…。これ、ホワイトデーのお返しです。俺の方こそ、いつもありがとう。大好き、愛してるよ。これからもずっと側に居て下さい」
彼は、そっと私の頬にキスすると、静かに部屋を出ていった。
「何度生まれ変わっても、上手くいかないのよね……」
私は目を開けて、枕元の包みを手に取り、ため息交じりに小さく呟く。
「でも、私の願いだから…」
そうして私は、もう一度ゆっくり目を閉じた。
「おはよう。今朝は寝坊しなかったんだな。」
翌朝、キッチンで朝食の準備をする私に、後ろから彼の明るい声。
「でも、土曜日だよ。今日も仕事だっけ?」
彼が側に立つ気配に、私は振り向く。
「おはようございます」
私は静かに涼しく微笑んだ。
ー終ー
《あとがき》
うん、いつになく、めっちゃ要素を詰め込んだなぁ…。
そもそも、西行法師の「願はくは〜」の和歌と、今度の月食の月を絡めた物語を書きたいなぁ…と思ったのがきっかけです。
うん、でも、日頃から自分が考えていることばっかりだな…。
主人公ちゃんは、救世主的な何かです。
今の人間の器で、ずっと生きているわけではないので、人間として何度か生まれ変わっています。
なので、竹取物語のかぐや姫も彼女自身です。
でもって、彼は帝の生まれ変わりだったりします。
なので、最後にベッドの中で呟いたのは、そういう意味。
元主人公ちゃんが寝落ちちゃった後、食卓を片付けて、ベッドに入ったのはかぐや姫の人格。
彼の告白も、もちろん起きて聞いていました

人間の人格は、生まれ変わる都度変わりますが、そもそものかぐや姫の魂は一つなので、これまでの記憶も持ってます。
ただ、物想いしなくなるだけ。
最後の描写とか、若干、ホラー…

長編なら、ここまでがイントロダクションでしょうか。
この後、何やかんやあって、最終的にハッピーエンドのラブロマンスになるのか…?
竹取物語を下敷きにして、仏教要素とか盛り盛りだからなぁ…、やっぱり伝奇ものかも。
主人公には、自分の思想を投影しがち。
なので、主人公ちゃんの人間論は、アダルトチルドレンの自分が抱いている違和感とか、苦しさだったりします。
あと、「釈迦無き世を生きるもの」というのは、自分の誕生日が2月16日なので、そういう風に捉えている部分もあるかなぁ…て感じです。
冒頭のシチュエーションですが、自分が応援している動画配信者さんがいて、先日、こんな感じのショート動画をアップされていたので、それを受けての感想という一面も。
彼女の寝坊の理由にも、深い事情があるのよ…という反論。
うん、でも、人生て何があるか分からないもの。
その「おはよう」も、「お休みなさい」も、「行ってきます」も、もしかしたら大切な人と今生の別れかもしれないから。
一瞬一瞬を大切に、悔いのない人生を送りたいものです。
でも、けっこうぐだぐだ無駄な時間を過ごしちゃうのですけどねぇ

より良い人生には、休息だって必要だ!!
数日前の反省も何処へやら、今回、この作品はブログ編集ページに直接打ち込みです。
今回は、下書きもせず。
必要だと思えば、今後、コピーして落としておこうと思います。