旧統一教会の訪問販売部隊 “マイクロ隊” の実態が明らかに…
ノルマ未達は恐怖の「水垢離」「徹夜祈禱」
旧統一教会の活動のひとつに、“マイクロ隊” という信者グループによる訪問販売がある。マイクロとはマイクロバスの略で、実際はハイエースなどのワンボックスカーに乗せられた数人の信者が目的地で降ろされ、珍味や茶、コーヒー、ハンカチなどを売って家々を回る。
“マイクロ隊” は1970~1990年代にかけて教団の主要な資金源であった一方、隊員のほとんどを占める20代初めの信者の信仰心を強める訓練の一環でもあった。
1981年に入信した元信者で、金沢大学の仲正昌樹教授も “マイクロ隊” の一員だった。仲正教授がこう話す。
「私が所属した旧統一教会が学生向けに組織したサークル『原理研(原理研究、英略称CARP)』では、“マイクロ隊” ではなく “Fundrasing(資金集め)” の頭文字を取って “Fの部隊” と呼ばれ、訪問販売に出かけることを “Fに行く” といった言い方をしていました。
そして、訪問販売に行くことは『万物復帰』という、神に近づくための訓練とされていました。
私が乗せられたのは日産のキャラバンです。4~5人が寝袋で横になれるように、床を板敷にしていました。これを “改造する” と言っていました。
さらにキャプテンと、キャプテンが運転しない場合はドライバーが加わり、チームを作ります。チームが5~6つ集まって、ひとつの “Fの部隊” となり、全体を隊長が主管します。
この部隊で一つの県をカバーし、ときには統一教会の青年部と地域が重なってかち合うこともありました。
隊員は18~22歳の学生で、訪問販売は夏休みや冬休みなどの長期休暇をすべてあてておこなわれます。売るのは、スルメイカやカワハギ、昆布などの海産物の珍味。
ちなみに、販売する商品のことを “ブツ” と呼んでいました。一袋500g程度を2500円で売り、キャラバンには数百袋詰め込まれていました。
訪問販売をおこなうあいだ、チームは車で寝泊まりします。なので通常、チームは男女別です。毎朝5~6時くらいに起き、チームで祈祷と聖歌を歌ってから、7時ころに訪問を開始します。
昼食にキャプテンが買ったパンと飲み物を掻き込むわずかな休憩時間を除き、19~20時ころまで家々を渡り歩きます。ノルマが達成できなければ、その後も延長です」
珍味は簡単に売れるものなのだろうか。
「もちろんなかなか売れませんし、しょっちゅう門前払いを食らいます。
各自のノルマは、出発前にキャプテンに宣言することで決まります。1万円のことを『キロ』と呼んでいましたが、隊員は『今日3キロ売ります!』などと告げるのです。
当然、販売が難しいからといって低すぎる目標は口にしづらく、なかには10キロ、つまり40袋くらい売る信者もいます。また、信者は信仰心の強さを示そうとするものなので、前回より多い目標を設定しがちです。
とにかく、朝に宣言した目標に届かなければ夜まで延長して売り続けなければならず、それでも売れなかった場合はペナルティが課されます。
そのペナルティのことを『蕩減(とうげん)条件』と言いました。放蕩を犯した罪を清算するという意味です。蕩減条件には、断食や水垢離(みずごり)、徹夜祈祷などがありました。
訪問販売のトークができなかった私は、せいぜい1日1~2キロを売ればいいほうで、ゼロのときも多かった。なので、私はよく蕩減条件を課され、駐車場などの水道があるところに行って、人に見つからないようにして水垢離をやりました。
結局、私は信仰心が弱いという烙印を押され、病弱な信者が集まるチームに移され、キャラバンに寝泊まりするのではなく “通い” で訪問販売をしました」(仲正教授)
理不尽な課題を与えられても逃げ出さない信者は、やはりマインドコントロールされているのだろうか。
「マインドコントロールや洗脳という言葉はしばしば定義が曖昧なまま使われがちなので注意が必要ですが、目標達成できないのは自分が悪い、自分の信仰が足りないせいだと思わせる仕組みになっているという意味ではマインドコントロールがおこなわれていると言えます。
信者はあくまで自発的に販売目標を設定しているので、それに届かないのは自己責任だと考えざるを得ない。結果、従順で管理しやすい信者を生み出すという意味では、巧妙で狡猾な仕掛けですね」(同)
旧教団を社会学の見地から調査研究してきた、北海道大学の櫻井義秀教授が解説する。
「“マイクロ隊” の訪問販売は、1970年代~1990年代に盛んにおこなわれ、教団の主要な資金源となりました。現在はホームセキュリティーも普及し、訪問販売はしづらくなっているので、そこまで本格的にはおこなわれていないと思われます。
ただ、新人教育のなかで、声がけの練習のため、短期間おこなっている可能性はあります。また、玄関の鍵をかけないような地方では、従来のように続けているかもしれません。
“マイクロ隊” は、収益はもちろんですが、信者が “理不尽な共通体験” を得ることが最大の目的と言っていいでしょう。普通にスーパーで買えるようなものを持っていっても売れるわけがないので、だいたい冷たくあしらわれます。
そこで、教団はこう考えるのです。神様も人々を救おうとしたのに無視されてきた、あなたたち信者も神様と同じ状況なんだ、この体験を通じて神様に近づいているんだ、と。
これは『神体験』とされ、自分がみじめになればなるほど、本物だという考えにすり替わるのです。珍味を売り歩くなんて客観的に見ればおかしいし、人から無視されて当たり前。でも、そのマイナスの意識が消える瞬間があり、そこで人間が変わる。それが統一教会の狙いなんです」
こうした批判を、教団はどう受け止めるのか――。
( SmartFLASH )
【旧統一教会】
女性信者が訪問販売をおこなう「マイクロ隊」の実態を取引業者が初告白
安倍晋三元首相への銃撃事件以降、注目を集める旧統一教会(世界平和統一家庭連合)。数多くの関連会社を抱え、健康食品の販売などで莫大な利益を上げているとされるが、詳しい実態は明らかになっていない。
今回、旧統一教会のダミー会社へ健康食品を納入している製造業者が、筆者の取材に初めて口を開き、内情の一端を話した。
「うちが健康食品を卸すようになって、十数年になります。ある日、突然電話がかかってきて『おたくに製造を頼みたい』と言われました。正直、不審に感じましたが、そのあとすぐにスーツ姿の男性2人がやってきて、話がまとまりました。もちろん、彼らは統一教会だなんて言わないし、そのときは、私も想像だにしませんでした」(製造業者、以下同)
まずは3tの受注からスタート。その後、毎年のように増産し、現在は、当初の生産量の4倍を超えているという。
「カネ払いは決して悪くなく、毎回きっちり精算してくれます。先方の対応も、感じがいいです」
製造業者は、会社から研修も依頼されたという。商品の使用法や特徴を説明するためだ。
「参加するのは4~5人だと思って、軽い気持ちで引き受けたら、とんでもない。なんと50人もいたんです。聴講者は全員女性で、おまけに20代の若い女性ばかりで、ビックリでしました。
女性たちは、男性が運転するマイクロバス数台に分乗してやってきました。班長らしき男性から、しっかり説明を聞くように指示され、真剣にメモを取る女性もいました」
研修は計3回、おこなわれた。女性たちは誰もが礼儀正しく、身だしなみも整っていた。髪を染めている人などはおらず、多くがスッピン。全員が男性幹部の指示に素直に従い、私語も交わさなかったという。
「3回とも顔ぶれが違うんです。よくこんなに若い子が集まるもんだ、と思いました。やがて、彼女たちが統一教会の信者で、“マイクロ隊” の売り子だとわかってきました。なぜわかったかというと、彼女たちはうちが卸した商品を、私の親戚や知り合いの家にまで販売していたからです」
“マイクロ隊” とは、若い女性信者の売り子たちがマイクロバスで移動することから、いつしか呼ばれるようになった名前だ。女性信者たちは、特定の場所で全員、降ろされ、そこから一定の範囲を手分けし、戸別訪問して商品を売り歩く。夕方になると、再び降ろされた場所に集合して、バスに乗って帰る。
“マイクロ隊”について、北海道大学の櫻井義秀教授と大阪公立大の中西尋子研究員による研究書『統一教会』では、こう説明されている。
「マイクロはマイクロバスの略称だが、実際はハイ・クラスの一〇人乗りバンを改造した車に六、七名の信者を乗せて訪問販売部隊として全国を行脚する。後部座席三列分の椅子を倒してその上にカーペットを貼ったベニヤ板を敷き、フラットな空間を作る。昼間はそこに座って移動し、夜間は寝袋を使って鰯の缶詰よろしく頭と足を互い違いにして寝る」
この会社は、関東北部の中核都市にある。社屋は一見するとアパート風で、住宅地にあるため、営業活動をしている雰囲気はまったくない。ここで女性信者たちは共同生活をおこない、早朝からマイクロバスで出かけて、夕方に戻ってくるという日々を送っている。
同社は、筆者の取材に旧統一教会との関係を否定したが、旧統一教会を長らく取材してきたジャーナリストの鈴木エイト氏が、見解を述べる。
「この会社を直接は知りませんが、登記情報を見ると典型的な事業内容ですね。マイクロ隊を操る旧統一教会系の会社といっていいでしょう。
20代で旧統一教会系のマイクロ隊に入り、脱会した女性信者を知っていますが、かわいそうなことに、今も足に後遺症があるんですよ。わずかな昼食休憩を除き、1日に何十kmも歩かされる。それで足の骨がすり減り、歩けなくなるような若い女性が多いんです。本当にひどいことをするなと思いますね。
訪問販売は教会の資金稼ぎのためにおこなわれますが、同時にマインドコントロールの一環でもあります。信者の洗脳を“再凍結”、つまり解けないように強化する目的です。睡眠時間と休憩を最小限に切り詰め、労働力として酷使することで、信者たちに考える時間を与えず、稼ぐことが神の救いであると教え込むのです。結果、自分たちは正しい信仰をおこなっている、と信じて疑わなくなります」
“マイクロ隊”の内実について詳しい、全国霊感商法対策弁護士連絡会の渡辺博弁護士が解説する。
「旧統一教会には『ハッピーワールド』『野の花会』『しんぜん会』など、多くのダミー組織があり、食品販売、旅行会社、老人ホームなどさまざまな事業をおこなっています。
今回、内実が明らかになった会社も、旧統一教会系と見て間違いないでしょう。
信者たちは『自分はよいことをしている』と信じており、独居老人や介護老人の住む家庭、あるいは地震や風水害の被災地を訪れ、親切を装って接近し、健康食品などを売りつけるんです。
売り子は若い人とは限らず、60代や70代の女性もいます。先輩に対しては絶対服従で、売り上げが伸びなければ、断食、真冬の冷水修行、男性の場合だったら丸刈りといったペナルティがつきます。
一方、ノルマを達成すれば、組織内のステータスも上がっていきます。 旧統一教会の序列は、下から班長→青年部長→教会長→地域長→教区長→本部役員となっており、みなステータスを上げるのに必死です」
旧統一教会は、本部を東京に置き、全都道府県に支部を持っている。
「信者たちは相互監視により、24時間コントロール下に置かれています。通常、年会費3万6000円を支払うことが求められるので、1000名の会員がいれば、年間3600万円もの資金が集まるわけです。教会は、信者たちからの売り上げの吸い上げや、献金などさまざまな名目で収益を得ています」(渡辺弁護士)
筆者は、販売の実態について旧統一教会に取材を申し込んだが、「取材は受けつけない」と拒否されてしまった。苦しむ人がこれ以上増えないよう、さらなる調査が必要だろう。
取材・文/岡村青
( SmartFLASH )
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