母が認知症を患い、施設に入った。
古くなり過ぎた実家はどうする事も出来ずに処分する事にした。
ツアーの合間にその整理に追われている。
必要なものだけ運んで後は業者が全て破棄してくれる。
あまりにも生々しい個人情報のものや、売れるもの、残しておきたいものを選別した。
とにかく次々と色んなもの出てくる。そりゃ30年くらい(途中大阪に住んだり、当時の恋人の家に転がりこんだりもしたけれど)住んでいたのだからしょうがない。
モノを捨てられない上にコレクター気質なもんだからあれやこれや残っている。
その中で、ずっと探していたものがあった。
それは一度目の結婚する際に処分出来ずに隠した「昔の彼女からの手紙達」だ。
当時の相手に見つかったら大変な事になる。絶対に目の前で捨てろ!などと言われるだろうと隠したのだ。
そして肝心な隠した場所を俺は忘れていた。
離婚した際に少しセンチメンタルになって、その手紙を探したのだが見つからない。
「あれ?ここじゃなかったっけ?」と思う場所に無い。
こっそり捨てられたのか?いや、そんなはずはない…事あるごとにその手紙を探していた。
どうしてそんなにその手紙に執着したのか?それは、口下手で天邪鬼だったその「彼女」が唯一本音で語りかけてくるのが手紙だったから。
彼女は事あるごとに手紙をくれた。
誕生日やクリスマスなどのイベントの時はもちろん、デートの帰り、仕事の終わり、少し会えなかった時、待ち合わせの時間潰しの手紙。
とにかく膨大な手紙があった。
とても楽しみにしていたし、ちょっとしたイタズラ描きのイラストや書き込み何かも面白かった。
恋心というよりは、もう一度その手紙であのどうしようもない恋の季節を思い出したかったのだと思う。
今日、もう荷物の整理は最後だと思って、処分する陶器や掛け軸なんかは骨董屋さんに買取に来て貰った。
必要なものは運び出すために一箇所にまとめて「さぁそろそろ家を出るか」と思った時に「あのタンス見てないな、とりあえず見ておくか」と手付かずになっていたタンスの扉を開いた。
するとそのタンスの中にポツンと封筒が置かれていた。
あれ?と思ってその封筒を開けてみたら、その彼女からの手紙がドッサリ入っていた。
もう数ヶ月間、家の処分する為に実家に立ち寄っているのに全然気にもとめなかったタンス。
まるで「おい!コラ!見つけてよ!(笑)」と彼女が言ってるようにも感じた。
ギリギリ間に合って良かった。
きっと見つからなかったら、それはそれでまぁ仕方ないと割り切れるんだけど、どうしてもモヤモヤとした気持ちも残る。
やっと見つけてあげれたよ。
15年もかかってしまったけれど。