2000年に発生した三宅島噴火時には、火山ガス予測として緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)予測動画を毎日誰でも見ることができたが、福島第一原発事故の時にはSPEEDIのデータは隠蔽された。
東日本大震災4ヶ月前の2010年11月にまさに福島第一原発の原子力防災訓練に本部長として参加した総理大臣菅直人は、当日SPEEDIの説明を受けている。防災訓練には福島県・東電福島第一原発・東電本店・保安院・消防庁・福島医大・近隣の医療施設など2300人が参加して、SPEEDIの情報を元に避難訓練の指揮命令を発した。福島県の職員が放射能を計測して歩き、SPEEDIによって危険地帯が割り出され、住民を避難させた。避難させた体育館では、立ったまま計測できるホールボディカウンターも用意されて、避難してきた住民が被曝していないかどうかチェックした。医療関係者は防護服を着て被曝しないように特殊なアイグラスまでしていた。この訓練時に安定ヨウ素剤の配布までされていた地区もあった。
実際の原発事故時には、福島県町は県外の医療機関などから114万錠のヨウ素剤を緊急収集した。三春町は福島県庁から3月14日にヨウ素材を受領した。各自治体にも配布されたが、独自に服用を決定した三春町以外では直接県民に配られることはなかった。その一方で福島県立医科大で関係者がヨウ素剤を服用し、その事について緘口令を敷いた。
2011年6月6日には自民党議員石原伸晃がテレビ番組内で原発事故発生直後の危機の時にSPEEDIのデータについて「我々も知っていたけど、ただ我々からそれを発表するわけにはいかないから、我々も黙っていた」と発言している。
SPEEDIは事故後の2000枚の拡散試算図が作成されていたが、原子力安全委員会は3月23日と4月11日に1枚ずつしか公開していない。所管する文部科学省は3月14日に米軍に対して情報提供していた。東京新聞報道では3月12日午前1時12分に「SPEEDI」の予測図が一度だけ首相官邸に届けられていた。予測図は1号機で原子炉格納容器の内部圧力を下げるベントを3月12日午前3時半から開始した場合の影響確認だという。当日朝に総理大臣菅直人は原発へベント要請に福島第一原発へ向かっている。放射性物質が海側に飛ぶことをSPEEDIで確認したうえで原発に行ったのだ。
SPEEDIは原発の立地自治体と周辺自治体が避難計画の実効性を高めるため128億円を計上して導入された。その上、毎年7億円の予算を費やしている。一刻一秒を争うべき原発過酷事故に際して意図的に公開されなかった事により、汚染状況を顧みず同心円状での避難地域が策定され、南相馬市住民は赤宇木経由で避難を行い、不要な高線量被曝を受けることとなった。
2016年1月と9月には北朝鮮の水爆実験に対し、SPEEDIによるセシウム・放射性ヨウ素、キセノンの拡散予測図が発表された。滋賀県県子力防災室は「原発事故でも(北朝鮮の核実験と)同じように対応できるはず。実測値で判断するにしても、モニタリングや避難の準備が必要になるのはどこかを絞り込むため、参考でいいからSPEEDIの情報を求めたい」と原子力規制委員会に申し入れている。原子力規制委側は事故時の原発の状態などに基づく判断の方が的確として、気象予測によるSPEEDIを活用しないと決定している。現在でも福島第一原発は放射能を放出している。気流がどのように流れているのか逐次発表する意義が存在する。
SPEEDIについては予測値なので公開をしないという建前だが、ウィラード司令官によれば米軍は東京電力からの要請で3月12日にはグアム基地から無人偵察機グローバルホークを福島上空に飛ばしている。放射線実測値で北東38Km地点に高線量到達及び、核種分析で炉心溶融を確認している。観測結果に基づき3月16日には80km圏内から米国人の退避勧告を実施している。米軍は詳細な放射能汚染地図を作製し、日本政府にも伝達したが、文部科学省が棚晒しにして、避難に活かされることはなかった。
3月12日正午のNHKニュースで「原子力保安院によりますと、福島第一原子力発電所一号機では原子炉を冷やす水の高さが下がり、午前11時20分現在で核燃料棒を束ねた燃料集合体が水面の上、最大で90cmほど露出する危険な常態になったということです」と放送している。同日15:36に1号機建屋水素爆発が発生する。原因はベントにより建屋内に水素を含んだ放射能蒸気が流入したためと見られるが、炉心溶融との関連も考えられる。福島中央テレビは直後から爆発映像を放送し、北側に煙が流れていると注意喚起を行った。
日本テレビで16:50に東京工業大学教授有冨正憲が「1号機の煙は爆破弁の成功です。1号機の煙は爆破弁を爆破させ、水蒸気を逃がしたのです」と述べた。NHKで16:52に東京大学教授関村直人が「爆破弁を作動させて一気に圧力を抜いたということもありうる」とコメントした。NHKに至っては1号機の爆発映像を放送していない。学者のコメントは存在しない爆破弁による正常動作となっており、避難を促すのとは真逆の対応をしている。ほぼ同時刻に別々の2つ主要放送局で御用学者を用いて存在しない「爆破弁」という弁明をさせている事は、強固な情報統制が行われたことが伺える。