わんわんらっぱー

DIYやオーディオから社会問題までいろいろ書きます。

反米アニメの金字塔「Blood+」

2016-12-11 18:18:40 | アニメ
BLOOD+ コンプリート DVD-BOX (1-50話, 1250分)
クリエーター情報なし
Black Box

 Wikipeiaの「Blood+」が反米か否かということで編集合戦が起きたそうだ。論ずるまでもなくBlood+こそが反米アニメの金字塔である。2003年のイラク戦争に端を発する反戦世論の盛り上がりも影響したであろう。

Blood+はBLOOD THE LAST VAMPIREが雛形となっている。
http://www.aniplex.co.jp/blood/
BLOOD THE LAST VAMPIREは文化庁の支援を受けている。3D映像作品としての実験的意味もあった。横田基地内における騒動だが、読み解き方次第では何やら悪だくみが行われているダーティな場所というイメージ形成に執持しているので反米的であるとは言える。Blood+の「+」というのは続編的な意味合いもしくはプラスαという意味なのだろう。

 「Blood+」の世界観は萩尾望都「ポーの一族」や岩明均「寄生獣」を下敷きにしていると推定される。バンバイヤー(吸血鬼)の設定や、異生物への素早いメタモルフォーゼ、つまり生物学でいう変態であり映像上の変身が繰り返される。
 ディーバとそれを守るシュヴァリエ(騎士)のネーミングは広瀬隆「赤い楯」よろしく、ロスチャイルド家の名前が流用されている。作中の赤い盾はディーバと彼ら翼手と戦う組織の名前となっている。
 1話の舞台は沖縄の古座。コザといえば1970年のコザ暴動で有名である。製薬会社サンクフレシュ・ファルマシーのヴァン・アルジャーノと米軍基地司令官が、生体兵器「マウス」の回収を巡って、策謀を巡らす。
 主人公の少女音無小夜は古座商業高校で「マウス」と遭遇。当直の先生が瞬殺されるのだが、その先生のネーミングがいかしている。その名も「稲嶺純一郎」だ(^o^)。(稲嶺知事+小泉純一郎)。後に米軍はヤンバル記念館も爆撃によって殲滅したが、それらも日米地位協定を楯にしてアルジャーノと共に事件を闇から闇へと葬る。
 日米地位協定というの言葉が作中に幾度もでてくる。地位協定で米軍が護られている、地位協定によって米軍が好き勝手できる、という具合である。反米派は日米安保についてはよく議論した。特に日米安保条約10条文には、通告一つで日米安保が破棄できるということや、伊達裁判による米軍基地の違憲性である。しかし、地位協定についての認識はなかった。少なくとも私自身はなかった。矢部宏治氏やその関係の書籍で地位協定こそが米軍の地位を決定していることが明らかになった。憲法学者や関係者では常識だったが、反米人民は知らなかった。そのことも含めて、2005年放送のBlood+の先見性が良く分かる。
 折しも2004年8月13日沖縄国際大学「本館」に米軍ヘリが墜落・炎上した。 日本の警察は一切シャットアウトされて、米軍が墜落ヘリコプターの機体を運搬処理してしまったのである。Blood+の1話-8話は、かの事件を受けての創話だと思われる。
 8話からベトナム(ハノイ)に舞台を移す。
 至って、個人的な感想なのだが、9話「それぞれの虹」は、名画「8月のクリスマス」を思わせるカットの間の取り具合やキャラクターの演出、風景の描写、そして、ベトナム戦争時における米軍の負の遺産である不発弾を巡る悲劇の連鎖を丹念に描いた作風に、反米アニメとしての高い完成度を見た私は深い感慨を抱いた。

 赤い盾のエージェントしてディビッド・ボウイそっくりな「ディビッド」という人物が出て来る。BLOOD THE LAST VAMPIREに出てきたディビッドの息子という設定である。ディビッド・ボウイ自身が政治的な表現を行っていた人物なので、意図的なキャラクター配置だろう。

 ちなみに、主人公音無小夜を演じた喜多村英梨は、魔法少女まどか☆マギカで美樹さやかを演じている。さやかを通じて小夜(さや)を意識した人もいるのではなかろうか。剣闘で局面を切り抜け、性格の二面性などである。

○製薬会社の謀略
 当時、私もご多分にもれず医学に対する懐疑の念はなかった。だが茫洋とクスリは飲まない方が良いという知識はあった。「マリファナ・ナウ」や「チョコレートからマリファナ」までという麻薬関連の本を読んで分かったのは「化学合成したクスリは突発的に人体の重篤な影響を及ぼす」という事である。LSDがロシアンルーレットと言われるのは化学合成したいるせいである。
 自然界にあるのもの素材そのままで摂取する分には基本的にそれほど害がない。コカインの葉っぱや葉巻なのである。これを精製すると対人毒性が強まってしまうし、依存しやすくもなる。漢方が比較的副作用が少ないのは自然由来だからである。化学合成の西洋クスリは非常事態でない限り服用しない方が良い。
 製薬会社サンクフレシュ・ファルマシーの謀略を隠喩として読み解けば、今となっては何を言おうとしていたのかよく分かる。クスリを通じた人民支配への批判であろう。軍事もクスリも世界的財閥によって意図的に動かされている、という訳である。

○アメリカという国家の病理
 作中終盤ミスター・グラントという、 リチャード・B・チェイニー副大統領を少し若くした風貌のキャラクターと、ブレッドという、コンドリーザ・ライス国務長官そっくりのキャラクターが登場する。 あまりに似ているのでギョっとした。
ブレッドというのは「米(ライス国防長官)」に対置したパン(ブレッド)に由来していると思われる。
 アンシェル・ゴールドスミスの命を受けヴァン・アルジャーノはアメリカ軍部に「翼手を作り、世界を混乱させ、それをコープスコーズに始末させる」というマッチポンプ自作自演の危機創出&解決システムを売り込む。これにより、サンクフレシュは莫大な利益をアメリカは絶対的な世界の信頼を得ようとした。
 しかし、デイーヴァのコンサートの際、コンドリーザ・ライス国務長官そっくりのブレッドは自分が翼手になってしまい、アルジャーノの部下を殺害、SPたちの拳銃のラッシュを受けて転落。驚愕するアルジャーノに、グラントは「貴殿はアメリカ国民では無い。自分の身は自分で護りたまえ」と、拳銃を一つ渡してSPと逃走してしまう。直截的な表現で、アメリカという国家の病理を描いたのである。


 最近では50話という長さは珍しい。その50話という長編作品としての尺を文字通り世界を股にかけた物語展開と人的模様で見ている者に取り憑いて離さない。私は世界的に存在する政治的・軍事的危機を描いた部分を極めて高く評価するが、その観点を抜いて評価したとしても、Blood+はアニメ史で語り継がれるべき素晴らしい作品である。

『BLOOD+』は反米左翼アニメ?
http://www.kyo-kan.net/archives/2006/08/blood_23.html
戦争推進アニメ世に憚る
http://blog.goo.ne.jp/takaomorimoto/e/bdd308d7121584a49b51b41f55f93e95
反米アニメの系譜
http://wanwanlapper.seesaa.net/article/41734405.html


青春の輝きを切り取った「14歳の歌声」

2016-01-20 20:21:06 | アニメ
1.魔法少女まどか☆マギカOP「コネクト」
 魔法少女まどか☆マギカは3話での劇的物語展開や時間操作SF設定を用いた複雑な設定により、Nitroplus所属の虚淵玄氏の脚本手腕が高く評価された。
同じ2011年に「世界線の移動」という形で、時間を行きつ戻りつする物語展開のSTEINS;GATEが放送されている。この作品も原作にNitroplusの名前がある。

魔法少女まどか☆マギカOP曲「コネクト」は現役中学生デュオClariSが担当した。
予備知識無しでOPを見た時に「えらく若い声だな」という印象はあった。
不安定なコード展開は少女の心理描写を兼ねていると言われている。

STEINS;GATE wiki 原作5pb./Nitroplus
https://ja.wikipedia.org/wiki/STEINS;GATE_(%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1)
ClariS wiki
https://ja.wikipedia.org/wiki/ClariS

告知されている情報から逆算すると、2012年3月まで現役中学生とされているので、「コネクト」収録時は14歳頃だったと推定される。
作中の少女達の年齢にほぼ同一であり、世界観を描写するには的確なプロデュースだったと言える。
私自身はまどマギを数年遅れで見たが、現役中学生のメジャーデビューは珍しいと思ったが、それは単に私の知識不足であったことを後々に知った。


2.Kyleeさん登場の衝撃
 ジブリ出身監督による「亡念のザムド」(ボンズ)が2008年に放映され、EDにKyleeが歌う「Vacancy」という曲が使われた。聞いた時は、歌のうまい海外のミュージシャンなのね、という感じであまり気にしなかった。私が注目したのはヒーローマン(ボンズ2010年)の後期OPの「Missing」でのKyleeだった。
 Vacancyの歌詞は全部英語だったが、Missingは日本語と英語の混じっていた。
日系アメリカ人なので英語の発音が綺麗で、歌も抜群にうまい。

サマーソニック2009で来日しているが、この時若干15歳なので、Vacancy収録のときは14か13歳である。
圧倒的歌唱力で気が付かなかったが、よくよく聞くと若々しい感じがする。

他には「絶園のテンペスト」や「ガンダムユニコーン」の歌を担当している。


【PV】Vacancy【Kylee】【亡念のザムド】【Xam'd Lost Memories】
https://www.youtube.com/watch?v=ceynZ_FwgfI
Vacancy=空っぽ
Kylee - VACANCY@SUMMER SONIC09
https://www.youtube.com/watch?v=zX-eN4ZTLjU
Over U - Kylee [Sub Español] [720p]
https://www.youtube.com/watch?v=1muWxV3jUMg
Missing - Kylee [Heroman opening]
https://www.youtube.com/watch?v=sJHHx9Vv-tU
Zetsuen no Tempest - 大好きなのに OP 2
https://www.youtube.com/watch?v=mj5J-SyPEYk
Kylee Saunders カイリー Just Go Everlasting
https://www.youtube.com/watch?v=Sty7GHteTFk


3.riyaさん(eufonius)
 true tearsのOP「リフレクティア」を聞いて、「うわー若い」と感じたが、「歌手の新居昭乃に憧れて」音楽の世界に入ったようで、どうやら若い感じで歌う人のようだ。
ただし、予備知識がなければ、中学生が歌っているのでは?という感じのみずみずしさがある。

true tears (アニメ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/True_tears_(%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1)
eufonius(ユーフォニアス)
https://ja.wikipedia.org/wiki/Eufonius
true tears /OP / 「リフレクティア」
https://www.youtube.com/watch?v=7YlDQpHXZPk
リフレクティア in 白高合唱祭
https://www.youtube.com/watch?v=Q6C0g34dGAk
TARI TARI - リフレクティア 合唱版
https://www.youtube.com/watch?v=BsX772N_Lwk


4.余談・3年ごとにアニメは豊作になる?
 2008年はアニメは豊作だった。
2008年アニメ作品の中で、私が見たのは以下の作品
True tears 脚本・岡田麿里
とらドラ!? 脚本・岡田麿里
黒執事 脚本・岡田麿里
RD 潜脳調査室
図書館戦争
とある魔術の禁書目録 (アニメ)
夏目友人帳
喰霊-零-
機動戦士ガンダム00
コードギアス 反逆のルルーシュR2
マクロスF

どれもオススメ作品だ。

3年後の2011年に
話題作「魔法少女まどか☆マギカ」が放映される。
脚本家岡田麿里さんは2011年の上半期に、『フラクタル』、『放浪息子』、『GOSICK -ゴシック-』、『花咲くいろは』、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を担当している。
他に
灼眼のシャナ
青の祓魔師
ギルティクラウン
STEINS;GATE
UN-GO
等の作品が放送されている。
特に、哲学的問いかけする「UN-GO」はTVと劇場版を含めて、隠れた名作と言える。

更に3年後の2014年は
ソードアート・オンラインII
シドニアの騎士
SHIROBAKO
神撃のバハムート GENESIS
棺姫のチャイカ
ブラック・ブレット
中二病でも恋がしたい!戀
とある飛空士への恋歌
極黒のブリュンヒルデ
PSYCHO-PASS サイコパス 2
残響のテロル
弱虫ペダル GRANDE ROAD
ノーゲーム・ノーライフ
魔弾の王と戦姫
Free!-Eternal Summer-
Selector infected WIXOSS
白銀の意思 アルジェヴォルン
ブレイク ブレイド
寄生獣 セイの格率
ニセコイ
アカメが斬る!
アルドノア・ゼロ
と、かなり豊作な印象がある。

近年は毎年豊作な気もするが、なんとなく、3年毎に当たり年があるような気がする。
作品が放送されて、各アニメスタジオが他作品群を参照した後に、企画製作を経て放送されるのに3年かかるから、3年毎に豊作なのだろうか?私の妄想だろうか?

ネットワークゲーム系資本や、ネット配信会社の資金がアニメ製作に投入されているようで、しばらくはアニメ業界の盛況は続くと言われているが、はてさてどうなるのだろうか?

「あの花」に稀代のストリーテラー岡田麿里の真髄を見ゆ

2015-09-23 21:01:39 | アニメ
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 Blu-ray BOX(完全生産限定版)
アニプレックス





(敬称略)ネタバレ注意
アニメーションはデジタル化や3D化も相まって、より一層表現力が高まった。
作中において踏み込んだ表現を行うようになり、世界設定も複雑化した。
見る側の理解力が一定程度高まった事も作用しているだろうし、元請けスタジオ同士の競争による所も大きいのだろう。

 隆盛を誇るアニメ作品郡の中で、脚本家・岡田麿里(ネット愛称はマリーと呼ばれている)に注目したのは、岡田がシリーズ構成を担当した黒執事1期(2008)のラスト2話の「物語の巻き取り具合」であった。
王家の謀略を担ってきたファントムファイブ家の当主シエルの視点から王権の腐敗を描き、やがて悪魔との取引の代償を支払う悲劇的結末へ雪崩れ込んでいく。
アット驚く展開を忍ばせておいて、最終話にて綺麗に物語を収束させる手法においては、岡田は当代随一の脚本家と言える。

GOSICK -ゴシック-(2011)は終盤において世相に暗雲垂れ込め、戦乱の後に邂逅を果たすという「巻きの岡田麿里」ならでは劇的な展開を見せた。

LUPIN the Third -峰不二子という女-(2015)では原作の雰囲気を生かしながら、謎めいた雰囲気で話が進む。
海外を意識した演出がなされており、イタリアで先行公開された。
フリードリヒ・ヘーゲルの著作「法の哲学」からの引用文を散りばめ、ミネルヴァのフクロウをモチーフとしたキャラクターが作中にいくつか登場する。
峰不二子出生の秘密が最大の謎となっており、これもまた、最終話で劇的な展開を見せる。

絶園のテンペスト(2012)はヒロインの不破愛花(ふわあいか)の死を巡って話が展開する。
私には最後まで犯人が分からなかった。
不破愛花の驚くほどに怜悧な佇まい自体が伏線となっている。


私は「日常系ファンタジーアニメ」は苦手で避けていた。
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2011)略称「あの花」を観たのは最近である。(正式略称は「あのはな」)
ちなみに、「あの花」は本年9月21日に実写ドラマ化されて、フジテレビ系で放映された。
アニメ版は東日本大震災直後の2011年4月という時期に本放送されたので、時代の雰囲気とマッチした事も大ヒットの遠因となったとされる。
シリーズ脚本担当が岡田麿里だというのは当初知らなかった。
知っていればもっと早くに観たであろう。
岡田は物語の組み上げが稠密である事上に、社会性を織り込み、脚本家としてのスケールの大きさを感じさせるからだ。

「あの花」は過去のトラウマと折り合う事の難しさと、鬱屈した精神の開放を謳った作品である。
輪廻転生という概念により、人は死生観を組み立てるが、周囲の人々に自身の存在の思い出を残して消えていく。
死は避けがたいものであるが、それが幼くして、しかも唐突に訪れた場合にどのような作用を周囲の人々に与えるのかという命題を描いている。

声優は、アニメ「あの夏で待ってる」のヒロイン役「貴月イチカ」の戸松遥が「あなる」、
ギルティクラウンのヒロイン楪いのり(ゆずりは)役の茅野愛衣「めんま」、
赤髪の白雪姫のヒロイン役、白雪の早見沙織が「つるこ」を演じている。

「あの花」の論考は文字通り百出しているので、仔細は他に譲るが、私が特に圧倒されたのが、岡田特有の終盤の話のまとめ具合である。
劇的な展開と、すでに散らばった様々な思いや伏線を綺麗に収束させている。
映像演出や声優の力量も加味されて、感情を激しく揺さぶられる。
私みたいなおじさんがこんな事わざわざ書くのも変な話なのだが、それほどに驚かされたのである。


劇場版では、本編と本編事後の逸話が交互に出てくる、併せて本編を補強する逸話が幾つか挿入されている。
○ロシア人クォーターのめんまが教室で一人ぼっちだったのを主人公じんたんサークルに誘うカット。
○ゲーム「のけもん」と外人である「めんま」が感じている疎外感は同じ意味だと、めんまが語るシーン。
○ぽっぽが首にぶら下げている小袋に、めんまが滑落して水死した場所の花が入っていると明かされる。

解釈は人ぞれぞれあるだろうが、この世に顕現しためんまを認識できるのはめんまが強い思いを抱いていた、主人公じんたんだけであった。
ラストシーンでは忘れな草の花の上で、めんまの存在が全員に知覚される。
忘れな草に想いを残しためんまにとっては、忘れな草が現世へ姿を表す触媒となっていたと考えることもできる。
少なくともぽっぽにとっては、忘れな草がめんまを思い出させる小道具になっていた。


私は秩父へは幾度か行ったことがある。
秩父鉄道に走る蒸気機関車を偶然見たのだが、煤煙がすごいのである。
走る環境破壊列車であり、電化で蒸気機関車が消滅したのもよく理解できた。
しかも、速度もそれほど出ていなかった、オフロードの原付バイクで並走する道路を走っていると、機関車よりも先回りできる程度の速度だった。
もっとも観光用なので、ゆっくり走っていたのかもしれない。
寄居駅周辺や小鹿野村や奥秩父の銭湯は行った事があるが、秩父市街へは通過する程度だった。
秩父市街は昭和の原風景とか評されるが、今はどうだか分からないが、全体的に寂れた感じだった。

岡田麿里は秩父市出身だということである。
本作は原作者は実質的に岡田であり、「あの花」の舞台を秩父市に据えたのは、岡田なりの故郷への恩返しなのだろう。

それともう一つ、驚いたのは、旧吉田町(現秩父市下吉田)の打ち上げ花火「龍勢」が作中に出てくる。
秩父市吉田久長の「道の駅 龍勢会館」には秩父事件の展示物と「あの花」の展示物が並ぶという極めてシュールな状態となっている。
秩父事件とは、1884年に秩父地方で勃発した農民一揆である。
秩父事件は2004年に「草の乱」として映画化されている。
安彦良和氏のマンガ「王道の狗」にも登場する。

松方デフレ政策と、明治15年(1882)リヨン生糸取引所で起こった生糸の大暴落が、秩父地方の養蚕業者を困窮させた。
暴利を貪る高利貸しは農家の破産者を増加させる一方で、蓄えた富を使い警察や裁判所を買収した。
買収された政府は農民の請願をことごとく跳ね除けた。
自由民権運動に感化された農民は、『秩父困民党』を結成した。
武装蜂起して吉田町椋(むく)神社に集結し、秩父市一体の役場や警察署や制圧し、高利貸しを襲い証文を焼き払う。
初戦の警察や憲兵隊との小競り合いには勝利するが、東京鎮台の鎮台兵に武力制圧されてしまい、本陣は瓦解し一部は十石峠を越え群馬県方面へ潰走する。
秩父事件は日本最大の武装蜂起事件であるが、武装蜂起の背景には「龍勢」の存在があった。
戦前までは農家もかなりの武具を所持していた。
秩父地方だけで猟銃3000丁が存在したと言われる。
それに加えて、大型ロケット花火「龍勢」の伝統により、火薬取り扱いの知識に長けていた。
「龍勢」を大筒として使えば、日本政府と軍事的に渡り合えるという考えだった。
しかし、鎮台兵は多連装の最新式小銃で武装しており、もはや、火縄銃や龍勢では勝負にならなかったのである。
秩父事件による徹底的な軍事鎮圧と、その後の厳しい刑罰により、江戸時代から続いてきた、強訴や一揆の伝統が途絶えた。
秩父の農家が武装蜂起した背景には、現金支払いでの重税だけでなく、働き手を徴兵して奪う明治政府に対する怒りがあった。
以後、日本は戦争国家への道をひた走り、1945年に大日本帝国は瓦解する。


「あの花」効果で「龍勢」の打ち上げ祭りには例年2・3万人の来場者だったのが、10万人に達しているそうだ。
作中に出てきた「超平和バスターズ」名義でも龍勢が打ち上げられた。

「あの花」の物語自体には政治性はない。
あくまで死者が蘇り、生者を誘導するという映画「ゴースト」彷彿とさせるファンタジーアニメである。
しかし、私には岡田が意図するのは単に「秩父市」の町おこしだけにあるとは思えない。
秩父事件という歴史をつなぐ「龍勢」を作中に登場させ、死者が残した想いを語らせている。
歴史は単なる年表ではない。
岡田は止むに止まれず秩父事件に参加した秩父地方一体の農民の意思に、平和な時代を生きる我々が思いを馳せることを狙っている。
これは私の美しい勘違いかもしれない。
しかし、脚本家岡田の産み出した数々の作品群を考えれば、深い社会性を忍ばせ、人口に膾炙させる意図があると考えることの方が妥当である。
我々は知らず知らずのうちに「マリーのアトリエ」を覗き、感涙しながら、多くのことを学ばせて貰っているのだ。


(参考)「あの花」の聖地・秩父でめんまたちの息吹を感じる
http://ascii.jp/elem/000/000/647/647503/index-6.html
「あの花」と「秩父事件」の所縁の地を訪ねて・・・
http://himadesu.seesaa.net/article/392853801.html
【聖地巡礼・あの花(5)】聖地巡り遠方編:旧秩父橋~長瀞~龍勢会館を巡る。作中そのままの風景がそこに
https://netatopi.jp/article/1000570.html
“あの花”聖地巡礼の第2弾として、龍勢会館に行ってきました!
http://hakanayuki.sakura.ne.jp/t021.html
秩父事件、最後まで戦った菊池貫平(ハイビジョンドキュメンタリー)
https://www.youtube.com/watch?v=RRx8EBp6eMk
秩父事件描くドラマ3=「獅子の時代」3 3
https://www.youtube.com/watch?v=FG7LOhh6t0Y
映画=秩父事件2 1
https://www.youtube.com/watch?v=6_yiAFqRH7U
秩父事件2 2
https://www.youtube.com/watch?v=pZ4ojkVxduY
龍勢祭り ハプニング 龍勢が観客の方へ!
https://www.youtube.com/watch?v=l_2KLqv278w
M.M あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない、聖地巡礼レポ(自転車で秩父市街から下吉田へw)
http://mmsroom.web.fc2.com/index_zakki_anohana.htm

劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(完全生産限定版) [Blu-ray]
アニプレックス