「蟹工船」日本丸から、21世紀の小林多喜二への手紙。

小林多喜二を通じて、現代の反貧困と反戦の表象を考えるブログ。命日の2月20日前後には、秋田、小樽、中野、大阪などで集う。

『特高警察』を刊行・小樽商大教授荻野富士夫さん

2012-07-15 22:28:28 | 仲間たちから多喜二への手紙
文化/今につながる民衆弾圧/『特高警察』を刊行・小樽商大教授荻野富士夫さん/組織の実像、通史に

 日本近現代史が専攻の荻野富士夫さんが、『特高警察』(岩波新書)を刊行しました。勤務先の小樽商科大学で思いを聞きました。
 金子徹記者



 特高警察は、プロレタリア作家の小林多喜二の虐殺など、思想弾圧の最前線で暗躍した悪名高い組織です。『特高警察』では、その歴史と実態を記しています。
 「昨年は特高警察が創設されて100年目でした。それを機に雑誌から原稿依頼があり、改めて特高警察の全体像をまとめたいと思いました。特高関連では、事件の羅列になっている本が多い。前史から戦後の解体、そして公安警察への『継承』までを、通史としてまとめたかったのです」
 特高警察は、大逆事件(注1)を契機に「国家国体の擁護」のため創設されました。総力戦体制が強化されるなかで組織の拡充を重ね、日米開戦直前には、広義の特高警察の陣容は1万人を超えました。
 同書では、1970年代末から続けてきた研究をもとに、官僚機構としての陣容の推移や拷問を容認する体質、朝鮮、「満州」での活動や、ナチスのゲシュタポとの比較などもまじえて広い視野から分析しています。
 「自由や平和を志向する人たちを、抑え込む側から歴史をみるのは、学問的にも必要なことです。特高の歴史は現代につながっているのです。警察の理不尽な抑圧や取り締まりはいまでもおこなわれているし、『共謀罪』や秘密保全法の制定をめざす動きもあります。監視カメラなどの、統制の網の目が張り巡らされた社会のあり方や、公安警察について考える参考にしてほしいですね」

憲兵も視野に
 特高が、特別高等警察の名のとおり警察内でもエリート視されていたこと、組織内の功名争いが弾圧に拍車をかけたことなど、組織の実像をリアルに描きだします。
 特高と競合関係にあり、民衆弾圧の一翼を担った思想検事や憲兵、経済警察など、あまりなじみのない組織も紹介され、〝暗黒時代〟を形成した勢力の顔ぶれがみえてきます。
 「特高や憲兵が、同じ役割の組織として競い合うことで弾圧がエスカレートした面があります」
 点数稼ぎのためのでっち上げや、日本共産党を弾圧しつくした後の1940年代も、疑心暗鬼にかられ、ありもしない「主義者」を「えぐりだす」仕事に血道をあげたことなど、「国家のための警察」の姿を浮き彫りにしています。
 「横浜事件(注2)にみられるように、特高の犠牲者は日本共産党員だけではありません。これは特定の組織や人だけの問題ではないのです」
 『治安維持法関係資料集』(全4巻)や『特高警察関係資料集成』(全38巻)など、大部の資料集の編集も手掛けてきました。その原点は―。
 「大学の修士論文は大杉栄や荒畑寒村、堺利彦らの初期社会主義者でした。その序章で、大逆事件以後の社会運動が弾圧される『冬の時代』について書いたことがきっかけです。支配する側の視点に興味がわきました」
 大学の卒論は石川啄木をテーマにし、多喜二への思い入れも強くもっています。今後は、特高と並び強権をふるった憲兵の研究や、「文学ではない多喜二論」を深めていきたいと考えています。
 「多喜二は小樽高商(現在の小樽商科大学)の卒業生ということもありますから、学生には、せっかく多喜二がいた学校で同じ空気を吸っているんだからと、読むように勧めています。2月にシンポジウムで『蟹工船と北洋漁業』を報告する機会がありましたが、多喜二を切り口にした歴史研究はこれからも続けたいですね」

(注1)大逆事件
 1910年、天皇暗殺を企てたとして幸徳秋水らが逮捕され、12人が死刑となり社会に衝撃を与えた事件

(注2)横浜事件
 1942年、日本共産党の「再建」にかかわったとして、党と無関係の雑誌編集者や記者など約60人が逮捕され、4人が獄死した事件

おぎの・ふじお=1953年生まれ。早稲田大学卒。小樽商科大学教授。著書に『北の特高警察』『戦後治安体制の確立』『思想検事』『外務省警察史』ほか
(2012年07月01日,「赤旗」)

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