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映画と渓流釣り

家族をつくれなかったヤクザの話


前作「新聞記者」は最近CS放送で観たばかり。はっきり言ってドキュメンタリーの「i新聞記者ドキュメント」の方がスリリングで面白かった。望月衣塑子本人のパワフルな言動にはフィクションは太刀打ちできなかったということだろう。
それでも日本映画には珍しいチャレンジだと思う。テーマが現在進行形の政治絡みになると、我が国のエンターテイメントはすっかり消極的になってしまう。欧米だけじゃなく、お隣韓国でも結構掘り下げた描き方をしているから羨ましいと思ってもいる。まあ、現在の日本人は大半の人が政治に関心ないし、堅苦しいお話を映画館まで行って観ようとは思わないだろうから仕方ないか。斯く言うわたくしも諦めモードで国政を眺めていたりする。

さてさて、そんな藤井監督の新作「ヤクザと家族」。新聞記者の次にヤクザを持ってきたかと少しだけ残念に思っていた。使い古されたヤクザの世界を描いて何か面白い事でも発見できるのだろうかと。
かの「ゴッドファーザー」のような血を分けた任侠一家のお話かと思っていたら、如何にも日本のザ・ヤクザ世界の話だったのでここにもうんざりポイントがちらちらしちゃう。盃交わした親子の契りだとか兄貴だの叔父貴だのとかも昭和中期の日本かッ!

設定は赤錆だらけの陳腐さなんだけど、物語は気持ち良いほど流れるように進んでゆき厭きることはない。街のチンピラ不良少年がヤクザの親分に目をかけられて、極道の世界にどっぷり漬かり、兄貴分の身代わりに14年の刑務所暮らしをする。出所した彼に待っていたのは時代遅れのヤクザ稼業と世間の冷たい風当たりだ。14年前に情を交わした女との間に娘がいることが分かり、ヤクザから足を洗うが、世間はそんなに寛大ではないのだ。かつての弟分に刺され海に沈む男の無残な姿が揺らめく。

ヤクザというアブレ者同士が作る義理の家族と、血を分けた親子を軸とした家族。欲しかった本当の家族を手に入れることなく死んでいった男に同情することはないけど、痛ましい無念さはずっしりと感じることができた。

綾野剛にとって、代表作の一つになるだろうな。北村有起哉とか市原隼人、岩松了の様に普段あまり気にすることのない役者の渋さに唸った。磯村勇斗の将来性にも注目したい。尾野真千子演じる女子大生に「随分老けてるな」と被る台詞には笑ったけど、実年齢に近い中学生の母親役は流石だとこれまた感心。
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