映画と渓流釣り

完成された映画 君の名は。



新海誠らしさを少し削ぎ落とし、映画作品としての完成度を格段に高めた。
その事が本当に良いのか悪いのか、今答えを出せないけれど、でも、わたくしは映画館の最前列でいつもの様に泣いていました。惹かれ合う二人の想いが、55歳になったわたくしにも狂おしい程の熱さで迫ってくるのですもの、(今、振り向いて!)そう、言葉に出してしまうのでした。

「ほしのこえ」が距離と時間(8.6光年)に引き裂かれた恋人同士であるなら、三葉と瀧の間には光でも届かない距離と時間が存在しているのです。そんな果てない間を、二人の想いは何度もすれ違いながらも縮め最後には辿り着く、その過程をわたくし達も一緒に体験してゆきます。三葉の手のひらに書かれた(すきだ)の文字。
やられたな。
あんなにストレートで心に刺さるラブレターを書けますか?・・・ごめんなさい。先走り過ぎました。観ていない方にとって何のことやらですね。



文頭について言葉を足しましょう。
今までの新海作品で繰り返されたのは、好きな女の子を失う事による虚無感だったり喪失感を、雨や雪や雲や空といった美しい自然描写を背景に、取り戻せない時間軸の中で観せることでした。今回も同様の演出は全体を通して健在でありますが、一番の違いは、大切なものを失わない事。
二人の想いが最後に結実できるところは、これまでの新海作品との大きな相違点です。

ずっと彼の作品を観ていますので、隕石の片割れが墜ちて・・・の辺りから、やっぱりこの二人は惹かれ合いながらも出逢う事のないまま終わってしまうのかなと覚悟したものです。今までの作品なら、瀧はとっくに諦めてしまい自分の殻に閉じこもって行っただろうと思います。
あんなに親身になってくれる友人や先輩も今まではいませんでしたしね。



女の子の魅せ方もかなり変化しました。
物語上、心(性格)が入れ替わるわけなので、二面性のキャラ設定がそもそも必要であり、その事が功を奏したと思います。どちらも魅力的でした。淑やかな田舎の女子高生とガサツで行動力のある女の子を、髪型と制服の着崩しでアイコン化し分かりやすく観せた事も上手でした。
終盤髪を切らせたのも、三葉の覚悟を鮮明に印象つける為にはアッパレな演出です。



それまでの作品はキャラクター設定などの部分も監督が負っていたのでしょうが、苦手なところは得意なクリエイターに任せれば良いのだと割り切れたのでしょう。そこはプロデューサー川村元気の力ですね。
お陰でキャラクターが生き生きしました。
主人公の二人は当然のこと、瀧の憧れるミキ先輩・友人、三葉の女友達とその彼氏・祖母と妹。皆んな愛すべき人々です。

声をあてた役者も褒めましょう。
神木隆之介が上手なのは知っていました。期待通り上手かった。
作品成功の一翼となったのは、上白石萌音の達者ぶりだと思います。「舞妓はレディ」と「ちはやふる」しか知りませんけど、こんなに声で人を惹き揉む演技ができるんだと驚きました。
ミキ先輩の長澤まさみもしっとりしていて良かった。妹の四葉を演じた谷花音ちゃんも良かったですよ。専門の声優があてないと今ひとつかなと思っていたけれど、演技力は声にもちゃんと表れるのですね。



それでも改めて感じたことは、高層ビル群に降りしきる雨粒や雪の舞う美しさです。
飛騨を舞台にした素のままの自然は、宮崎駿や細田守が描いたとしてもそれほど大差がないと思うのですが、都会の風景をあんなに美しく描写できる作家はいないでしょう。
そして残酷な災害をもたらしてしまうことになるけれど、1000年に一度やってくる彗星が降る美しさは特筆すべきです。

東日本大震災で現代の日本人が受けた心の傷は、昨日まで当たり前にあった街とか畑とか学校とかを薙ぎ払い、その上で父母息子娘近所の知人友人を持っていってしまった事による喪失感です。もしかしたら、結婚したばかりの夫婦や明日出逢う筈だった恋人も引き裂いたかもしれません。その傷がまだ癒えない今、時間も距離も超えて想いは必ず繋がることを新海誠は示してくれました。

音楽も物語に合っていましたね。
前から聞いて知っていたのですが、RADWIMPSのベースを弾いてる人、長男しんくんの高校部活の先輩だそうで、しんくんは直にベースの手ほどきも受けているんだとか。世間狭いですね。
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