多摩爺の「書棚の肥やし(その6)」
五勺の酒 (中野重治・中公文庫)
諦めることなく、本屋さんには通ってみるものだと思った。
数年前から読みたいなと思って、探していた文庫本を、
昨日、行きつけの本屋さんを覗いてみたら・・・ 偶然、見つけることができた。
共産党の参議院議員を務めながら、方向性の違いから除名された中野重治さんが綴った
短編小説「五勺の酒」が、ある新聞で紹介されていたのを読んで、
興味を持って、本屋さんに行く度に探していたのだ。
書棚から取って直ぐさまレジに並んで、はたと気づいたのは、
財布を持ってないことで・・・ 「あっ!」と思ったが、
ここの本屋さんは、おサイフケータイが仕えるので・・・ ひと安心
欲しかった本を見つけて、少し興奮していたのかもしれないが、やれやれであった。
なお、共産主義思想については、私の思考とは水と油で、全くもって相容れるものではないが、
歴史には表もあれば、裏もあることから、さまざまな視点から学ぶことは肝要と考えており、
自分と反対の思想を持つ作家であっても、作品を読むことまでは厭わない。
作者が綴った40ページ弱の短編「五勺の酒」には、
戦後から間もないこの国において・・・ 作者が作者なりの視点で捉えた、
既存の価値観と対峙する、腹に一物を持つた反体制側の人間は、いったいなにを考えていたのか?
その思いが僅か40ページに、息つく暇もなく一気呵成に綴られている。
閑話休題、あくまでも個人的な思いだが、
私が戦後の間もないころの、この国について興味を持ち、知りたいのは、
社会の仕組みであったり、税制であったり、国家のあり方について、国民が学び議論を尽くす前に、
憲法が発布され、この国にはなかった、言論と行動の自由という権利を手に入れたもんだから、
防衛であったり、福祉であったり、教育であったりする部分に・・・ やんごとなきことが起こると、
税のあり方や使われ方など、その方向性についての舵取りで、いつも小さな衝突が起こり、
時代の進展と徐々に噛み合わなくなり、先送りを繰り返していることにある。
戦後の混乱状況を踏まえれば、この国の国民だけでは、どうすることもできなかったと思うが、
議論し、整理しておくべきだった、国家のグランドデザインを、
妥協という落としどころで、一旦落ち着かせ、小休止を繰り返してきたことが、
いつしか高い壁を作りだし、クリアできないまま、いまに至っているのではなかろうか?
そう言った意味では、現行憲法をいま一度考えてみるべきだと思うので、
変えるも良し、変えないも良し、加えるも良しであり、議論の行方を注視したい。
いまある、さまざまな課題の根っこは・・・ そこにあるような気がしている。
私の学びの教科書は、半藤一利さんが著わした新しい古典「昭和史」だが、
今後もいろんな角度から、貪欲に学んでいきたいというか、
老後のボケ防止になれば、思うつぼなんだが、
小難しい爺さんにだけは、ならないよう気をつけねばならないだろう。
話を戻そう。
本書の詳細については略すが大筋は・・・ 教え子を戦地に送った教育者の1人として、
たった五勺の酒に酔ってしまった、学校長の視点を通して、
天皇という立場に同情しながらも、その存在へのやるせない怒りの吐露であった。
もう少し、内容に突っ込みを入れれば、
戦後、生きることに、皆が一生懸命であった時代において、
天皇とは、いったいなんであったのか?
国民の多くは・・・ あえて、それを問うことはしなかったが、
当時、そのことを問わなかった者の1人として、
腹の中に鬱積していたものを、
過去への未練ではなく、将来に向けての苛立ちから、あえて未練と称して記している。
短い文章だが、その行間になにが秘められているのか?
それを読み解く隙を与えないぐらい、先へ先へと進む展開に圧倒されてしまうが、
1回読んだだけでは、なかなか理解し難いので、・・・ もう少し読み込んでみようと思う。
なお、本編には「萩のもんかきや」との表題で、
わずか12ページにも拘わらず、
なにかにハッと気づかされ、ちょっと複雑な心境に誘い込まれてしまう、
シュールな短編もあるので・・・ 興味のある方には、一読されることをお勧めしたい。
私が探していたのは、講談社文芸文庫の「五勺の酒・萩のもんかきや」だが、
なんと中公文庫から「歌のわかれ・五勺の酒(税込み1,100円)」として、
探していたものは・・・ 発売されていた。
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