「たにぬねの」のブログ

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textotext_02_ねえ、お札は何色だったの?_前半

2020-04-01 19:23:49 | texto
ねえ、お札は何色だったの?:前半

 ここはお金と物やサービスと交換できる貨幣制度が存在する、ある惑星のどこかの国のいずこの地方のとあるお役所の一番大きな会議室。自動車が買えるくらいの高額紙幣の束を燃やした件について、とあるお役所は記者会見を開いた。

 燃やしたお金とは、お役所にある、いくつかの職場で行(おこな)ってないお仕事を行ったことにしたり、ペン、鉛筆や消しゴムなど多めに使ったことにして、実際に使った金額より多めにお金が必要ですと報告し、使わないで、すました分を貯めたお金(の一部)を燃やしたということ。

 会見場で中心的に応対しているのは、お札を燃やしたと言っている職員が所属する職場の課長さん。燃やした本人は謹慎中でお役所には来ていないらしい。
 多めのお金を必要ですと報告することそのものがルール違反だが、貯めたお金の使い方・行き先が不明になったり、偽物の記録を作ったりして状況を分からなくするのは罪に罪を重ねている。

 会見が始まった直後から、何重の罪にあたるだろう高額紙幣であるお札の束を焼却、燃やしたという報告について厳しい質問が連続した。それをひたすら低姿勢で反省と謝罪の言葉を繰り返す課長さんに(問いかけのパターンも出尽くし)、そろそろ会見も終わりって雰囲気が漂いはじめた頃、突然、男の子か女の子か分からない、幼い声がスピーカーから流れてきた。

「ねえ、お札は何色だったの?」

 声の主を確かめようと会場内の人たちはキョロキョロしたが、すぐに小学三、四年生くらいの子供が会議室後ろ側出入り口に近くに置いてあったマイクを握りしめているのに気付く。ちなみに小学生を追いかけてきただろう若い大人が一人、後方の入口付近で唖然(あぜん)と立っている姿も多くの人がみている。

 後(のち)に分かったことだが、この日は近くの小学校の三年生の子供たちが毎年恒例のお役所見学に来ていたらしい。もちろん、会見が行われる会議室がある階は見学コースから外されていた。それでも、ざわついた雰囲気が興味をさそったのだろう。裏帳簿とか空出張・発注とか、子供社会に出てきそうもない言葉ばかりであれば、しばらくすれば、会議室を立ち去ったかもしれない。でも、こっそり紛れた会議室の後ろで聞こえてきたのが、ここ数日、テレビなどで取り上げられていた話題。お札を燃やしたという背景はともかく、高価な買い物に使われる、すごい紙が燃えたなんて、驚きだったのだろう。ちなみに若い大人が学校の先生かお役所の職員かは、はっきりしない。

 それより、質問の内容が会場内の誰にとっても虚をつくものだった。だから、時間がとまったような間ができていた。幼い質問者は聞き方が悪くて、伝わらなかったと考えたのか、
「何色で燃えたの?」
と改めて尋ねなおす。

 しかし、会場にいた多くの人間が答えがわからなかったのだろう、間が続く。そのような中、会見が始まった直後から厳しい質問の連続をする自分たち記者にも、ひたすら低姿勢で反省と謝罪の言葉を繰り返す課長さんにも、スッキリしない気持ち悪さを感じていた一人の記者が、『ねえ、お札は何色だったの?』と言う質問にヒントを貰った気がしていた。

 間髪を入れない方が良いだろう, 時間にしては、コンマ何秒に過ぎないだろうが、その記者は(完全にまとまっていない)思い付きの実行に移る。挙手をして、課長さんの指名を待たず近くのマイクスタンドまで移動して、口を開く。
「とっても興味深い質問です。皆さまご存知の通り、我が国の法律は・・・・・・」
 記者は、小学生にも分かりやすく話すべきだと思い直し、ポケットから財布を出しながら・・・・・・。
「この国のルールでは、小銭を傷つけたり、曲げたりしてはいけません。だから、どこかの国のお土産のように、わざと硬貨に穴を開けて、ペンダントにしたら警察につかまります。もちろん、溶かしたりするのはもっての外です。」
 記者は財布から硬貨を取り出し、幼い質問者に示す。それから、小学生の脇に立っていた若い大人に、しばらく会見場に残ってのつもりのアイコンタクトを送り、会場全体を確認してから再び話し始める。

「しかし、金属のように溶かして別利用できない紙で、できているお札は切ったり、破いたり、落書きしたりしても警察につかまえられるなんてことはないです。自分のお札を燃やしても牢屋に入れられません。」
 送ったアイコンタクトが通じたのか、小学生と若い大人は近くに席を見つけ座ったままであることを記者は確認すると今度は紙幣を取り出して、破こうとする仕草をして、やめる。

「だからといって、いろんなお支払に使えるお札をわざと破こうなんて、思いません。破れたりしたら銀行で・・・・・・」
 話が脱線しそうになったことに記者自身が気付き、
「えっと、誰もお札をわざと破いたり、好んでくしゃくしゃにしようなんてしないと思いますが紙で出来ているので普通に使っていても自然に傷ついたり、よれたり、折り目がついたり使い古した感じになります。」

 方向性だけの見切り発車(アドリブ)で話はじめた記者だったが喋りながら着地点を目指す道筋、話の持っていき方を思い付く。
「ご存知の方も多いと思いますが、お札を丈夫にするため、また、偽札(にせさつ)防止の目的も兼ねて様々な技術のもと、非常に精巧(せいこう)に作られています。造幣局の知り合いからきいた話なのですが、丈夫さや偽札防止の一環で複数種の金属イオンを含んだ溶液でコーティングしているそうです。」
(03へ)つづく

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