〇 ドアの解錠や買い物の決済も手ぶらで、ホテル・店舗・学校まで広がる顔認証。
新型コロナウイルス禍の非接触ニーズによって注目が集まる顔認証だが、そもそも顔認証にはユーザーにとって面倒な手続きを省けるといったメリットがある。何かを書いたり入力したり、物理的に何かを持たなければならなかったりといった手間が不要になり、ユーザー体験の向上に寄与するのが顔認証だ。三井不動産が運営するホテルブランド「sequence（シークエンス）」は、顔認証によってチェックインの際に宿泊客が予約情報を確認したり、客室のドアを解錠するための鍵として活用したりできる仕組みを構築した。
顔認証は薬局でも導入が進んでいる。全国に716店舗（2022年9月1日時点）の薬局を運営する日本調剤は、マイナンバーカードを用いた「オンライン資格確認」のフローの一部で顔認証を活用できる仕組みを整えた。日本調剤の山田博樹薬剤本部薬剤企画部企画チーム課長は「慣れてしまえば30秒ほどで薬局の受け付けが完了する」と話し、事務スタッフと顧客双方の負担軽減につながっている。和歌山県の南紀白浜は空港やホテル、テーマパークなど13施設で顔認証を導入し、手ぶらで散策できる環境整備を進めている。
顔が鍵代わり、手ぶらで客室へ。
三井不動産はNECの顔認証パッケージ「スマートホスピタリティサービス」を導入し、同社が運営するホテルブランド「sequence（シークエンス）」で顔認証を活用している。三井不動産はシークエンスのブランドで3つのホテルを展開しており、そのうち「sequence KYOTO GOJO（シークエンス 京都五条）」と「sequence SUIDOBASHI（シークエンス 水道橋）」の2つはチェックイン時の予約情報の照会と、客室ドアの解錠に顔認証を導入している。同社の宮本諒子ホテル・リゾート運営一部運営企画グループ主事は顔認証のデータを客室ドアの鍵として利用するフェースキーの運用について、「sequenceを開業して2年ほどたつが、問題は起こっていない」と語る。
シークエンスでチェックインする際の顔認証の流れは次の通りだ。まず顧客がシークエンスのサイトなどで部屋を予約し、予約完了時に取得できる予約番号をNECの専用アプリに登録。その際、希望者は自分の顔を撮影して併せて登録する。シークエンスの受付にはチェックイン専用のタブレット端末が設置してあり、宿泊当日にホテルの端末を操作して非対面でチェックインする。チェックインの際、専用アプリに登録した顔データを使って顔認証すれば予約情報を照会できる。
受付端末に予約情報を引き出す方法は顔認証だけでなく、予約番号や氏名を入力するなど顔認証を使わない方法も選べる。予約情報に間違いがないことを確認したら、客室のドアを解錠する鍵について物理的な鍵かフェースキーかを選択する。フェースキーを選んだ場合、客室のドアのそばに設置されたカメラ付き端末を通して顔を認証することで、顔を鍵として使えるようにする。
宮本主事はシークエンスの顔認証プラットフォームにNECのサービスを選んだ理由として顔認証の精度を挙げる。「オフィスに入れる程度の認証精度では足りない」（宮本主事）。また廊下を歩いている人の顔を認識して万が一客室のドアが解錠することがないように、「立ち止まってきちんと端末に顔を向けたときだけ認証するよう調整している」（同）。これ以外にも一般的なホテルよりも廊下を明るくして顔をはっきり撮影できるようにするなど認証精度を高める工夫を盛り込んだ。
宿泊客はチェックインやドアの解錠などに顔認証を使える一方で、顔認証を全く使わなくても宿泊できる。さらに「登録した顔情報は、宿泊客がチェックアウトしたらすべて消去する」（宮本主事）ことで担当者によるデータの不正利用やデータの漏洩リスクを低減している。
