〇 知らない企業は損をする!Oracleライセンス費用を減らす秘策とは。
Oracle Databaseの付き合い方にある3つの選択肢。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の機運の高まりと共に、データの重要性はますます高まっている。そのデータを管理するDBMSとして広く浸透しているのがOracle Databaseである。信頼性・耐障害性が高く、管理機能も充実しており、大規模データベースシステムとして多くの企業で利用されている。
最近はOracle Cloudを選択する企業も増えつつあるが、データの特性や企業のポリシー上、オンプレミスで管理せざるを得ない場合も多い。オンプレミスでは仮想化環境の利用が広がっているが、オラクルの“作法”を知らないと割高なコストを支払うことになる。実際、このコスト負担に頭を悩ませている企業も少なくないだろう。
なぜ割高なコストになるのか。仮想化環境におけるOracle Databaseライセンスの基本的な考え方は、仮想サーバーに設定されたvCPU数ではなく、物理サーバーが搭載しているCPUコア数でカウントされるからだ。
例えば、4コアの物理CPUを2つ搭載する物理サーバー上で3つの仮想サーバーをホストし、それぞれvCPUを2つずつ割り当て、その1つの仮想サーバーでOracle Databaseを動かすとする。Oracle Databaseが使うのは2つのvCPUだが、この“作法”を知らないと4コアの物理CPU2つともライセンス対象になってしまうのだ。
この課題を前に、取るべき選択肢は3つある。1つは現状を維持する「続Oracle」。2つ目はコストを下げながら使い続ける「減Oracle」。3つ目が他社製品に乗り換える「脱Oracle」である。続Oracleは割高なコスト負担を許容しなければならない。脱Oracleは、いわばハードランディングで移行リスクが大きい。最善の現実解は減Oracleといえよう。
この方法を知っていると知らないとでは、コスト負担は雲泥の差だ。ほかにもインフラコストを下げ、パフォーマンスを向上させる方法がある。次頁以降でその秘策について詳しく紹介したい。
最も現実的な秘策「減Oracle」の実現方法とは
オラクル社はサーバー上のCPUを仮想的に分割する機能を「Soft Partitioning」と「Hard Partitioning」の2つに分類している。Soft PartitioningはOracle製品が稼働するサーバーの全CPUコア数がライセンスのカウント対象となる。そのため前述のような割高なコストが発生するわけだ。
一方のHard Partitioningはサーバーを物理的・論理的に分割して利用する方法。Oracle製品がインストールされている仮想サーバーが使用するCPUコアを固定することができる。「これにより、Oracle製品が稼働するコア数分のみをライセンス対象とすることができるのです。Oracle製品のライセンス数を制限する手段として、オラクル社に認められている技術です」。こう話すのは多くのOracle向けソリューションを提供する日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)の滝谷 誠氏だ(図1)。
ただし、条件がある。まずはOracle Partitioning Policyに掲載されている技術を使う必要がある。VMwareやHyper-Vは利用できない。Oracle Linux KVMの場合は、指定された設定を行えばHard Partitioningとして認められる。「使用するCPUコア数のみが課金対象となるため、Soft Partitioningと比べ、ライセンス費用を大幅に低減できます」と滝谷氏はメリットを述べる。
Oracle Linux KVMは既存のKVMのスキルで運用が可能だ。「新たな知識やスキル習得の必要がなく、運用コストも最適化できます」と滝谷氏は続ける。
Oracle Linux KVMなら既存資産を“延命”できるのも大きなメリットだ。Oracle Linux 6、Red Hat Enterprise Linux 6、Microsoft Windows Server 2008などの古いOSをゲストOSとして使い続けられるからだ。これらのOSで動く既存のOracle Databaseをそのまま継承できる。「OSのアップデートに伴うデータベースの移行は多大な手間とコストがかかり、リスクも大きい。延命によってこれを回避することで、ビジネスへの影響を防ぎ、投資の保護にもつながります」(滝谷氏)。
ただし注意すべき点もある。Hard Partitioningは、仮想サーバーが使用するCPUコアを固定化する技術だ。Hard Partitioningの設定を施された仮想サーバーの可用性を高める場合は、仮想サーバーを移動する方法ではなく、クラスターソフトを利用する必要がある。またHard Partitioningを利用する場合は、管理用のOracle Linux Virtualization Managerサーバーの構築も必要である。
Oracle Linux KVMによるHard Partitioningの設定方法は、オラクル社が公開するガイドブック「Hard Partitioning with Oracle Linux KVM」に詳しく記載されている。これを参照し自前で行うこともできるが、環境の構築・設定・検証の手間がかかる。「HPEはこれをトータルにサポートし、Hard Partitioningによるライセンス費用の削減を支援しています」と滝谷氏は語る。
「RAC+最新x86サーバー」で“脱Exadata”が可能に。
Hard Partitioning以外にも、Oracle Databaseのコストを削減する方法はある。その1つがOracle Exadata(以下、Exadata)をOracle RAC(以下、RAC)に置き換える方法だ。
Exadataはデータベースサーバー、ストレージサーバー、スイッチなどのハード/ソフトを一体的に提供する垂直統合型アプライアンス。データベースサーバーやストレージサーバーを効果的に並列稼働させることで、高可用性と高拡張性を実現し、大量データも高速に処理する。
この高性能を支えている技術の一つがSmart ScanというExadata固有機能だ。データベースサーバーからの問い合わせをストレージサーバー側で判別し、必要なデータだけを返す。ストレージの処理をオフロードし、サーバーとストレージ間のI/O量を最小限に抑制することで、高速処理を実現しているのだ。
しかし、Exadata固有機能であるSmart Scanの発行が少なければ、データベースインフラは必ずしもExadataである必要はない。RACの機能をフルに生かせば、十分なパフォーマンスを引き出せる。つまり、RACとx86サーバーの組み合わせに置き換えが可能だ。「ストレージサーバーを構成するExadata Storage Softwareが不要になるため、ライセンスコストを圧縮できます。汎用性の高いインフラで固有部分がなくなることから、柔軟な運用が可能になり、運用コストも削減できます」とHPEの藤川 智博氏は語る。
RACへの置き換えを検討するには、まずExadataの性能情報であるAWRレポートを分析する必要がある。「HPEはこのAWRレポートを無償で診断します。これを利用することで、Smart Scanの利用度合いを正確に把握できます」と話す藤川氏。診断の結果、置き換えを進めたいというニーズにも柔軟に対応する。顧客のニーズや要件を基にRACと最適なx86サーバーの組み合わせを提案し、新たなデータベースインフラの導入・構築をサポートしている(図2)。
RACをx86サーバーで構築する場合、重要なポイントがある。スケールアップサーバーを採用することである。サーバーリソースを増強する場合、ノード追加のスケールアウトはサーバーの配置、OSやRACインストール、アプリケーションの再配置、これらの検証・テストなどやるべきことが多岐にわたる。「その点、スケールアップならCPUの追加で簡単にサーバーパワーを増強でき、煩雑な構築・検証の手間とコストを抑制できます」と藤川氏は提案する。
コスト削減と性能向上を両立する、もう1つの秘策。
Oracle Databaseの最適活用を促す“秘策”はもう1つある。高性能なハードウエアを使うことである。例えば、Intel Xeon Platinum 8356Hプロセッサー(3.9GHz、8コア)は、同世代のIntel Xeon Platinum 8358プロセッサー(2.6GHz、32コア)と比べ、1コア当たりの性能は1.4倍高い。「コア性能の高いCPUを使えば、ライセンス課金対象のコア数が少なくて済むため、この例ではOracleコストを約30%削減できます」(藤川氏)。またデータベースは大量のI/O処理が発生する。このI/O処理を担うストレージにSSDやNVMeなどの技術を活用することで、処理性能を底上げできる。
HPEはOracle Databaseの最適活用を実現する製品を数多く提供している。最先端のx86サーバー「HPE Superdome Flex 280」はその1つだ(図3)。高いCPUコア性能と高速I/Oで、Oracleコストを削減し、性能向上も同時に実現する。「Oracle Linux KVMに対応しており、Hard Partitioningも利用可能です」と滝谷氏は述べる。
従量課金型の「HPE GreenLake」に対応しているのも大きな特徴だ。初期投資が不要でITインフラを「サービス」として利用でき、運用監視も任せられる。「オンプレミスでありながら、クラウド的運用が可能なのです。データの出し入れによるコストも発生しません」と藤川氏は説明する。もちろん、HPEのストレージ製品もHPE GreenLakeによる従量課金型で利用可能だ。
多くの企業がデータベース環境にHPE製品を採用し、大きな成果を挙げている。切削工具メーカー大手のオーエスジーはその1社だ。サーバー基盤にHPE Synergyを、ストレージにHPE Nimble Storageを採用し、Exadataで稼働する統合ERP環境を刷新した。導入コストはExadataのときと比べ、数億円も抑制できたという。基幹業務システムの夜間バッチ処理時間も最大で48%も短縮できた。 現状の業務レベルを維持しつつ、IT運用・保守コストの低減にも成功した。
ある金融機関はHPE Superdome FlexサーバーとPostgreSQLの組み合わせで、基幹システムのモダナイゼーションと脱Oracleを実現した。HPE GreenLakeの適用により、従量課金型のサーバー利用も可能になった。これにより、決済サービスを支えるインフラの可用性と長期利用を両立。従来環境の2倍の処理量に対応し、予測困難なビジネス環境の変化に柔軟に適応できるようになった。
HPEはデータベースの最適化を支援する様々なサービスも提供している。例えば、HPEデータベース関連コンサルティングサービスは、HPEのエキスパートがデータベースに関するテクニカルな課題解決を支援する。既存環境のパフォーマンス診断や各種チューニング支援のほか、データベースの導入・移行支援、標準化コンサルティングもサポートする。「お客様はビジネス課題の解決やDXの推進など、生産的・創造的な業務に注力できるようになります」と滝谷氏はメリットを語る。
東京本社(江東区大島)のソリューションセンターでは、HPE Superdome Flexサーバーの検証環境を無償で提供している。セットアップ、性能チューニングなどの技術支援も行う。セキュアVPN経由でのリモート利用も可能だ。「アプリケーションの動作検証やベンチマークなどに利用できます。検証機をそのまま納品できるため、納期問題の解決策としても有効です」(藤川氏)。
今後も、HPEは幅広い製品・サービスの提供を通じ、顧客のデータベース環境の最適化・高度化を強力に支援していく計画だという。こうした環境をうまく利用することが、Oracle Databaseのコストを抑えつつ、その性能をフルに引き出すために重要といえるだろう。