〇 ここ数年、携帯電話サービスの大規模な通信障害が相次いでいる。記憶に新しいのはKDDI(au)の携帯電話サービスで2022年7月2日に発生した通信障害だ。「au」「UQモバイル」「povo(ポヴォ)」といった同社の携帯電話サービスはもちろん、同社から回線を借りているMVNO(仮想移動体通信事業者)のサービスも含めて、音声通話やデータ通信が利用しづらくなった。
振り返ればソフトバンクで2018年12月、NTTドコモで2021年10月に発生した通信障害も大規模だった。最近では、楽天モバイルも2022年9月4日午前から約2時間にわたり通信障害を起こしている。
こうした事態をきっかけに昨今、2つのSIMを1台の端末で利用する「デュアルSIM」に関心を持つ人が増えているようだ。異なる携帯電話事業者のSIMを端末にセットしておけば、メインの回線にトラブルが発生しても別の回線に切り替えて通信手段を確保できるからだ。最近は対応端末の種類も豊富になっており、デュアルSIMを手軽に試せるようになった。
筆者の手元にもデュアルSIM対応端末が複数台ある。「携帯電話事業者は通信障害対策を講じているが、再発の可能性がないとはいえない」「いつ何どき、どの携帯電話事業者で障害が発生しても怖くないよう自衛策を強化しよう」「どうせならNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの回線を利用して、とことんリスクヘッジしておきたい」――。筆者はこう考え、今回、2台のデュアルSIM対応端末を使って4社の回線を併用する「クアッドSIM」体制を整えることにした。
筆者が主に使用しているのは、2022年2月にKDDIから購入した米Apple(アップル)のスマートフォン「iPhone 13 mini」だ。現在はUQモバイルのSIMを契約している。2台目は中国OPPO(オッポ)の「OPPO Reno5 A(以下、Reno5 A)」で、楽天モバイルのSIMを利用中だ。
今回は各端末で現在使用しているSIMをメイン回線として残し、異なる携帯電話事業者の回線に対応したSIMを追加する方針とした。後者は「メイン回線が全く使えない時のバックアップとして音声通話にもデータ通信にも利用する」という使い方を想定。普段はほとんど利用しないので、料金プランはデータ通信容量が少なく月額料金が安いもので十分だ。SIMの冗長化に伴う月々の負担増をなるべく抑えるため、最低料金の安さを軸にサブ回線を選ぶことにした。
具体的にはまず、UQモバイルのSIMをセットしてKDDI回線を利用しているiPhone 13 miniに、NTTドコモかソフトバンクの回線に対応しているSIMを追加するよう検討した。最近は複数のMVNOが最大1GB(ギガバイト)まで高速通信できて月額500円前後(税込み、以下同)の料金プランを用意している。こうしたなか最終的に選択したのが日本通信の「合理的シンプル290プラン」だ。音声通話とデータ通信に対応したSIMでNTTドコモの回線を利用でき、月間通信量が1GB以内であれば月額料金は290円で済む。
iPhone 13 miniではKDDIとNTTドコモの回線を組み合わせたので、楽天モバイルを使っているReno5 Aにはソフトバンク回線を利用できるSIMから選んだ。今回はソフトバンクのオンライン専用ブランド「LINEMO(ラインモ)」で、月額990円で月間3GBまで使える料金プランを契約した。前述の日本通信などに比べると最低料金は高くなるが、ソフトバンクが月額基本料が実質無料のキャンペーンを実施しているため割安感があった。
こうして4つのSIMの組み合わせを固めた筆者。もともとメイン端末のiPhone 13 miniでUQモバイルだけ利用していたが、その後、2台目の端末であるReno5 A向けに楽天モバイルも契約した。加えて今回、新たに日本通信とLINEMOのSIMを契約した。結果、携帯電話の通信費用はUQモバイルだけ使う場合に比べて月額2358円増えた計算だ。
サブ回線の維持費をさらに安く。
既存のメイン回線にサブ回線を追加する形で、ひとまず完成させたクアッドSIM運用。もっとも筆者の場合、メイン回線も含めて契約先を見直せば、回線維持費をもう一段削減できる可能性がある。
有力候補の1つとして注目しているのはKDDIのオンライン専用ブランドであるpovoだ。現在iPhone 13 miniのメイン回線に使用しているUQモバイルのSIMをpovoのSIMに切り替え、こちらをサブ回線として利用。メイン回線には他社のSIMを契約する。このパターンならコスト的に有利だ。
というのもpovoの料金プラン「povo2.0」は、通信速度が最大128kbps(キロビット毎秒)に制限されるが月額基本料は無料。そのうえで高速データ通信が必要なときに「24時間はデータ通信が使い放題」「7日間で1GB」など有料の「トッピング」を購入する仕組みだ。使わない月は0円なので、サブ回線をなるべく低コストで維持するという当初の方針に沿う。ただし、半年以上トッピングを追加購入しなかった場合などに利用停止や契約解除になるケースがある。この点は注意が必要だ。
「サブ回線はデータ通信専用でいい」と割り切ってSIM構成を再考してみると、新たな選択肢が浮上した。一例がMVNO大手インターネットイニシアティブ(IIJ)の「データプラン ゼロ(eSIM)」。オンラインで端末の契約者情報を書き換えられる「eSIM」の利用に特化したデータ通信専用プランで、月額基本料は165円だ。この料金にデータ通信容量は含まれず必要に応じて追加購入する仕組みになっている。HISモバイルが提供している「ビタッ!プラン」では、月間通信量が100MB(メガバイト)以内なら月額198円に収まる。
今回クアッドSIM運用をするに当たって利用したiPhone 13 miniとReno5 Aはどちらも、プラスチック製のICカードである従来のSIMカードに加えてeSIMにも対応している。そのため携帯ショップではなく自宅でサブ回線をオンライン契約し簡単な端末設定を済ませると、すぐに回線が開通した。このように現在は複数の携帯電話事業者のSIMを手軽に試せる環境が整ってきている。筆者が示したSIMの組み合わせはあくまで一例だ。大規模な通信障害に負けない自分流の複数SIM構成をつくってみてはいかがだろうか。