◯ ドコモ・バイクシェアとHELLO CYCLINGが提携、その背後にある危機感。
シェアサイクル事業を展開するNTTドコモ系のドコモ・バイクシェアと、ソフトバンク系のOpenStreetは事業提携することを発表した。両社が提供する電動アシスト自転車のシェアサイクルサービスにおいて、自転車を止めるポートの共同利用を開始するという。事業面だけでなく親会社も競合関係にある2社が、なぜ協力するに至ったのだろうか。
親会社も競合関係にある2社が提携を発表。
最近では電動キックボードなど、特定小型原動機付き自転車などにも広がっている小型モビリティーのシェアリングサービス。だが国内でその主流となっているのは電動アシスト自転車である。意外にも携帯電話会社の系列企業が多く提供している。
これには、自転車を管理するためにモバイル通信を活用していることが少なからず影響しているようだ。この分野では大手となるドコモ・バイクシェアは、名前の通りNTTドコモの子会社企業だ。「HELLO CYCLING」を展開するOpenStreetもソフトバンクの子会社である。
だが2024年7月10日、その両社から意外な発表があった。2社が事業提携に合意し、それぞれが提供するシェアサイクルサービスのポートを、共同で利用できるようにするというのだ。
国内のシェアサイクル事業では、公共マナーや交通への影響などもあって海外のように自転車を乗り捨てることが認められていない。専用のポートに止めて返却する必要がある。だがそのポートは各事業者専用となっている。自転車を借りたサービスとは異なるサービスのポートに返却することは当然できない。
それ故シェアサイクルを利用するには、行きたい所の近くにあるポートを探す必要がある。いつも利用しているサービスのポートがないと利用できない。これが、乗り捨てできない日本のシェアサイクルの弱点だ。
だが今回の提携でドコモ・バイクシェアとHELLO CYCLINGのポートを共同利用できるようになれば、双方のサービスで利用できるポートの数は大幅に増える。その結果、移動できる場所が大きく広がる可能性が出てくる。
しかし一方で、先にも触れた通り両社は事業面だけでなく、親会社も競合関係にある。その2社が提携するというのは相当意外な出来事である。なぜ2社は強い競合関係にあるにもかかわらず、提携するのだろうか。
自治体を軸に進んだポート設置が不満要素に。
提携の発表と同日に実施された記者説明会における両社の説明によると、その理由は、日本におけるシェアサイクルの展開フェーズが変わってきたことにあるようだ。
元々各社のシェアサイクル事業は、自治体との連携を軸として展開してきた。先発のドコモ・バイクシェアは主として都市部、後発のOpenStreetは郊外の自治体を中心に連携して進めてきたという。各社がシェアサイクルを事業化する上では、ポートの設置場所の確保など、様々な面で自治体との協力が必要だったためだ。
だがその影響から、現在も自治体によってポートが設置されているシェアサイクルのサービスが異なる傾向が強い。
一方でシェアサイクルの利用者からすれば、行きたい所に行けることが何よりも重要である。自治体という区切りに移動が縛られることはデメリットでしかない。例えば横浜市では、ドコモ・バイクシェアが臨海部と中部、HELLO CYCLINGは北部と南部の自治体と連携してポートの設置を進めた。その結果、利用できるエリアが分断されてしまっているという。
シェアサイクルの認知が進み利用が広がるにつれ、自治体との連携に縛られたポートの設置が利用者の不便さを生み出した。とはいえ公共の場所以外にポートを設置するのは非常に難しいという。
自治体からは、比較的安価あるいは無償で用地を提供してもらいやすいという。だが民間の土地となると、採算の合う価格で借りるのはなかなか難しいようだ。土地のオーナーにとっては、駐車場などを設置したほうが収益性が高いためだろう。
新たな用地の確保が思うように進まない現状にあって、ポートを増やしユーザーの利便性を高めるには、他社が持つポートを共同で利用するのがベストと判断。その結果、競合同士が提携し、鉄道の相互乗り入れのような形でポートを共同利用するに至ったようだ。
深い連携の裏にある新たな競合の台頭。
ただ自社のポートに他社の自転車も返却されるとなると、誰がそのバッテリーを交換したり、需要に合わせて再配置したりする作業をするのかという問題が浮上してくる。それ故両社では今回の提携に合わせて、そうしたオペレーションも共同で取り組むとしている。
幸い2社は、自転車やバッテリーを共通のメーカーから調達している。そのためオペレーションを共通化しやすい環境にあったようだ。例えばドコモ・バイクシェアのポートに止まっているHELLO CYCLINGの自転車に関しては、ドコモ・バイクシェア側が交換を担うなど互いのリソースを活用してオペレーションを最適化することで、コスト効率の高い運用を進めていきたいとしている。
さらに今後は、自転車などの資材を共同調達することも検討している。両社が提供するアプリやサービスは別々のままではあるが、かなり深く連携しようとしている様子が見て取れる。
だが裏を返すと、なぜそこまで両社が深く連携する必要があったのかが気になるところだ。そこにはやはり、競争環境の激化が影響している。より具体的に言えば、電動アシスト自転車だけでなく、電動キックボードなどのシェアリングサービスも提供している「LUUP」の存在が、少なからず影響しているのではないかと筆者は見る。
LUUPは、小型モビリティーのシェアリングサービスとしては後発だ。だが電動キックボードの注目度の高さに加え、都市部を主体としてポートの数を急拡大していることが利用の拡大につながっている。その理由は、LUUPのポートが競合のものと比べると非常に簡素な仕組みで、なおかつLUUPが「自動販売機2台分」としている通り、かなり狭いスペースにもポートを設置できる柔軟性にある。
そうしたLUUPの台頭に対する危機感があるからこそ、2社はポート数を増やして競争力を高めるべく、提携するに至ったといえそうだ。ただ2社が共同利用するポートの場所は現時点では明らかにされていない。全てのポートを共同利用するわけではないようだ。LUUPの勢いにどこまで対抗できるかは、両社の提携の度合いに大きく左右されるだろう。