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ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

スウィート ヒアアフター

2022年03月27日 | なつかシネマ篇

雪深い田舎町で起きたスクールバス事故。乗車していた子供たちはほとんど死亡し、シンガーソングライターのニコール(サラ・ポーリー)と運転手ドロレスは生き残る。そこにやって来たハイエナ弁護士スティーブンス(イアン・ホルム)。事故に直接関係のないバス製造会社を訴えてがっぽり損害賠償金をいただきましょう、と遺族たちの家々を訪問、訴訟の協力を求めて回るのだか...

お金がもらえるんだったら訴えるに越したことはないんじゃないのなどと思ったりもしたのだが、なぜか住民の皆さんは非協力的。訴訟の段階でバス製造会社の担当弁護士から、痛くもない腹を探られることを警戒しているのである。要は住民のみなさん、叩けばいくらでも埃がでる身体なのである。キン○マを握り合いながら(公然の秘密を共有しながら)かろうじて結束しているコミュニティなのである。

モーテルの女主人はバス整備士と不倫関係にあり、おそらく先住民の子供を養子にした芸術家夫婦は幼児性愛者で、語り部である主人公ニコールもステージパパと近親相姦しちゃったりしているのである。モーテル主人の冒頭コメントや、ニコールの『ハーメルンの笛吹』の読話から派生したナレーションから類推するに、近親婚が昔から当たり前のように行われていたコミュニティらしい。

過去と現在、そして薬中の娘がいる弁護士スティーブンスの回想シーンなどが短いタームで目まぐるしく入れ替わるため、すんなりと理解できるほど単純な映画にはなっていない。麻薬欲しさに金の無心をしてくる娘に嘘をついて冷たくつきはなすスティーブンスは、住民たちを誤った楽園へと導こうとした“笛吹”だけでなく、笛吹に払う金をけちったハーメルンの親たちの分身ともいえるだろう。

そして愛娘ニコールと近親相姦関係にあった父親が、なぜあんなに金を欲しがり訴訟への協力を申し出たのか?それは、大ケガを負いロックスターとしてデビューさせることをあきらめざるをえない娘にかけた、いままでの費用を少しでも回収するために他ならない。愛を金に換算していた父親の姿を察知し嫌悪したニコールは、そこに笛吹と同じ腐臭を敏感に感じとり、訴訟に不利になるようなウソの証言をわざとしたのではないだろうか。

そして、第3の笛吹=ドロレスが起こした事故の原因がこれまたはっきりしない。真実が語られるべきシーンをわざと曖昧にボカしているために、観客の安易な推理を阻んでいるのだ。「真の陪審員は住民」と語るドロレスが起こした過失事故の真相を暴いてギスギスした関係になるよりも平穏な日常をなによりも最優先させるコミュニティのしきたりに、監督アトム・エゴヤンもただ従っただけなのかもしれない。

スウィート ヒアアフター
監督 アトム・エゴヤン(1997年)
オススメ度[]


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