ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

アノーラ

2025年03月08日 | 映画館で見たばっかり篇
ユダヤ人を主人公にした『ブルータリスト』や『名もなき者』、そして多様性を前面に押し出した『エミリア・ペレス』をさし置いて、本作『アノーラ』がアカデミー賞主要5部門を独占した。リベラルの巣窟といわれるアカデミー会員ならびにハリウッド内部にも、トランプ大統領就任によってかなりの変化が生じたという証だろう。共和党の🟥と民主党の🟦をモチーフに、ポリティカルなメッセージをスト . . . 本文を読む

あなた自身とあなたのこと

2025年03月08日 | ネタバレなし批評篇
それまで毎晩2本の高級ワインボトルを空けていたデンゼル・ワシントンは、還暦を迎えてキッパリと酒を断ったらしい。大金持ちとなり低きに流れる映画業界人が多い中で、この決断は立派である。本作監督ホン・サンスはかなりの大酒飲みとしても有名だ。どうなのだろう、最近は“死”をテーマにした作品を多く撮っているホン・サンスだけに、もしかしたら体調があまりよろしくないのかも。そんなホン・サンスの酒に対する自戒を込め . . . 本文を読む

まる

2025年03月08日 | ネタバレなし批評篇
タイトルからして仏教の禅に言及した映画だと思いながら観はじめたのだが、まさかその境地=悟り=円相をまんまテーマにもってくるとは、荻上直子なんたる大胆不敵。仏教の開祖ゴータマ・シッダールタでさえ7年間の苦行と2ヵ月間の断食を経た後たどり着いた悟りの境地をこうも簡単に映像化されてしまうと、個人的には嫉妬心さえ覚えるのである。ジム・ジャームッシュ監督『パターソン』にも、主人公の職業“循環バス運転手”や部 . . . 本文を読む

高速道路家族

2025年03月06日 | ネタバレなし批評篇
エンディングにあるシーンを突っ込んだがために、いらぬ臆測を呼んでしまったコリアンドラマ。家族に見放され気が狂った父ちゃんと身重の母ちゃんは、実はあの火災で焼け死んでしまったのではないか、と。私が素直な目?で観たところ、母ちゃんの衣に火がうつった瞬間、正気にもどった父ちゃんが身を挺して母ちゃんを救った、と捉えるべきだと思うのだ。ゆえに、火災の後のハッピーな展開は、娘ユニの幻覚などではなく現実に起こっ . . . 本文を読む

アニー・ホール

2025年03月02日 | なつかシネマ篇
全編に溢れるおしゃべりと長回し、ブレヒトを意識した“第四の壁”演出、陰鬱なNYと陽気なLAの二項対比...ウディ・アレンの映画スタイルを確立させたといわれる本ロマンチック・コメディは、日本でも大変人気があるのだとか。まるで平成天皇と美智子様の出会いのように、ある日テニスコートで出会い惹かれあったアルビー(ウディ・アレン)とアニー(ダイアン・キートンA . . . 本文を読む

美しき仕事 4Kレストア版

2025年02月27日 | なつかシネマ篇
この映画何といってもわかりにくいのが、ラストのダンスシーンである。レオス・カラックス作品の常連俳優として知られているドゥニ・ラヴァン。『汚れた血』における、デヴィッド・ボウイ“モダン・ラブ”の軽快なリズムにのって街中を踊りながら疾走するシーンが、私には強烈なイメージとして残っているのだが、(本作ラストの)ゲイっぽい黒い衣装に身を固めたドゥニの“死のダンス”は本当にお見事。軸がまったくぶれずにターン . . . 本文を読む

ピクニックatハンギング・ロック 4Kレストア版

2025年02月26日 | なつかシネマ篇
本作の試写を観終わった映画関係者がコーヒーの入ったカップをスクリーンに投げつけて「Whodunit?!」と叫んだといいます。一見名門女学校の生徒2人と女教師1人が、ピクニックに出掛けた“ハンギングロック”で失踪、その真相を探るミステリーのような体裁をしていますが、監督のピーター・ウィアーはまったく違った観点でこの映画を撮っていると思います。原作は、ジョーン・リンジーというオーストラリ . . . 本文を読む

ドリーム・シナリオ

2025年02月24日 | ネタバレなし批評篇
日本では昨年の都知事選における石丸某のミーム戦術が話題になったが、IT本家アメリカでもバズりを故意に起こそうとする研究がおさかんなようなのだ。見るからに映えない大学教授ポール(ニコラス・ケイジ)を、複数の人々の夢の中に登場させたらどんな社会現象が起こるのか。スプライト販売元のコカ・コーラ社や、本作に登場するデジタル広告代理店ならずとも、そのデータにはさぞ興味津々なことだ . . . 本文を読む

菜食主義者

2025年02月24日 | 映画評じゃないけど篇
この小説をフェミニズム文学だと簡単に決めつけたい輩は、ベトナム戦争従軍経験者の父親が肉を口に無理やり押し込む場面にばかり注目して、ある日突然ベジタリアンと化した主人公ヨンヘをフェミニズムの闘志にまつりあげたがるが、本当にそうなのだろうか。もっと根源的なテーマ“人間の生きる意味”について、ハンガン独自の切り口で深く掘り下げた小説のように思えるからだ。「私は人生の成功者です」といわんばかりの自信満々の . . . 本文を読む

ブルータリスト

2025年02月22日 | 映画館で見たばっかり篇
さも実在の人物のように思わせるため、ありもしなない建物や椅子のパンフレットまでこさえて観客に配っていた、まったくのフェイク・ムービーである。アニメ声優を監督にすえていることからして、なにやらいかがわしい雰囲気を感じてはいたのだが、ここまで露骨なプロパガンダ映画とは思いもよらなかったのである。エイドリアン・ブロディ以下出演俳優の皆さんや、本作をほめちぎっている評論家の皆さん、そして配給元のA24も、 . . . 本文を読む

エル・スール

2025年02月21日 | なつかシネマ篇
「シナリオでは二時間半を予定していました。全篇は二部に分かれ、第一部が北部を、第二部が南部を舞台とするはずでした。南部に物語が移ってからを一時間と考えていたのです。しかし、途中で後半部分が財政的に無理だとわかったので、第二部のために撮ったいくつかのシーンは編集で切らなければならなくなってしまった。大変残念なことです。そこでは、私の母親も、父親役のオメロ・アントヌッティも素晴らしい演技を行っている . . . 本文を読む

夢見る人

2025年02月16日 | ネタバレなし批評篇
生命を吹き込まれた泥人形が人間の美しい娘と報われない恋をする〈ゴーレム伝説〉がおそらく元ネタであろう。そこに『夢見る人』というタイトルをかぶせた理由は、フランスの超有名な彫刻家オーギュスト・ロダン作「考える人」を観客に意識させたかったからに違いない。隻眼の下男ラファエル(ラファエル・ティエリ)が、泥人形のモデルとなってとるポーズが「考える人」にクリソツなことにすぐに気づ . . . 本文を読む

ミツバチのささやき

2025年02月15日 | なつかシネマ篇
「このガラス製のミツバチの巣箱では、蜂の動きが時計の歯車のようによく見える。巣の中で蜂たちの活動は、絶え間なく神秘的だ。乳母役の蜂は蜂児童房で狂ったように働き、他のはたらきばちは生きた梯子のようだ。女王蜂はらせん飛行、間断なく様々に動き回る。蜂の群れの報われる事のない過酷な努力、熱気で圧倒しそうな往来、房室を出れば眠りはない。幼虫を待つのは労働のみ。唯一の休息たる死もこの巣から遠く離れなければ得ら . . . 本文を読む

正体

2025年02月10日 | 激辛こきおろし篇
英国人英会話学校講師リンゼイさん殺しの真犯人市橋達也自身の手記をもとにディーン・フジオカが監督兼主役をつとめた『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』。市橋の潜伏先でもあった東京、千葉、沖縄に現れた素性不明の男たちを描いた李相日監督の『怒り』。両作品とも未見(👀⁉️)なのだが、逃亡先で整形手術を繰り返し、3年弱の長きにわたり警察捜査 . . . 本文を読む

雨の中の慾情

2025年02月09日 | ネタバレなし批評篇
つげ義春原作の短編漫画4作品をベースに創作されたラブストーリーだそうだ。学生時代つげ義春の漫画が一時流行った記憶があるのだが、サブカルにはまっていた友人から貸してもらった漫画を読んでも何が面白いのかサッパリ。要するに当時の私がガキすぎて、つげの魅力がわからなかったのである。現代のウォークカルチャーの枠に当てはめるとすべてNGになりそうな、エロ、エロ、エロのオンパレード。しかしながら、無機質な絵とコ . . . 本文を読む