黒沢清はいつまで映画を撮り続けるのだろうか。かつての教え子であった濱口竜介たちのお情けでベルリン国際映画祭銀熊賞(2020)に輝いたものの、本作を含め近年撮った映画はほとんど誰がどうみても凡作の域を脱していない。その濱口とのトークイベントの中で、「撮影現場で撮れてしまったものは、一回限りの非常に貴重なものなので、可能な限り大切にしたい、という考え方がどうも染み付いているんです。一回限りのフィルムに . . . 本文を読む
90年代経済成長著しい台北が舞台の青春群像劇だ。カップルとおぼしき男女が複数登場するのだが、誰が誰と付き合っているのか映画中盤になるまでなかなかわからない不思議な映画なのである。台湾ニューシネマを代表する映画監督エドワード・ヤンは『牯嶺街少年殺人事件』(未見)を撮った後、次に「(敬愛する)ウディ・アレンのような映画を撮るんだ」と周囲に公言して . . . 本文を読む
“クワイエット・プレイス・シリーズ”のスピンオフ作品。エミリー・ブランド演じるお母さんと子供たちが登場するシリーズ前日譚として紹介されている。最近は、アメリカ大統領選挙関係のYouTube動画ばかり見ていたせいか、どうも脳ミソがトランプ推しの人々に大分汚染されてしまった気がする。ニュートラルなポジションに一度頭を戻したいと思っているあなたに、是非お勧めの一本だ。音に反応するエイリアンが今回も人間を . . . 本文を読む
御年87歳になる巨匠映画監督リドリー・スコットは、近年驚異的なスピードで映画を撮り続けている。ちょっと前までは、マーティン・スコセッシを意識したコメントを残していたスコットだが、最近では生涯現役を公言していて、あのクリント・イーストウッド監督(94)をライバル視しているらしい。しかも今時珍しい金と手間がかかりそうな歴史大作を、ハイクオリティを保ちつつ、早撮りとスピード編 . . . 本文を読む
過去に踏み込み、歴史を終わらせる。のっけからインディ・ジョーンズの顔にずだ袋を被せ、出ますよ出ますよ、ほ~ら出た~とばかりに登場する、すっかり生成AIで若返ったハリソン・フォードのご尊顔。リアルタイムで彼の勇姿を劇場で見たことのあるオールド・ファンはどう思ったのだろう。「人工的でなんか気持ち悪い」と違和感を覚えるのか、それとも「思った以上に良くできている」と感心しきりだ . . . 本文を読む
わずか58分という上映時間ながら、『雨に唄えば』や『ワンハリ』、『ラ・ラ・ランド』に『インターステラー』へのオマージュ、『バタフライ・エフェクト』なんちゅうわりとコアなSFのポスターまで劇中拝める一風変わったアニメーションなのである。シスターフッドの破綻を描いた『雨に唄えば』以外は、本アニメにも唐突に挿入されている「あの時ああしていれば、そうなっていたかもしれない」アナダーワールド描写が共通項にな . . . 本文を読む
生涯独身を通した文豪ヘンリー・ジェイムスがゲイであったかどうかは、明らかにされていない。この映画もはじめは『ドライブ-アウェイ・ダイクス(レズビアンの意)』というヘンリー・ジェイムスの(おそらく短編)小説と同名タイトルが予定されていたという。しかし、将来大統領になるかもしれない有力共和党代議士の勃起チ◯コを型どったディルドに欲情するレズビアン . . . 本文を読む
R.M.N.って“ルーマニア・ナショナリズム”の略かなんかと思っていたら、まったく違っておりました。人間の脳の断面を撮影する“M.R.I.”の事だったのです。主人公マティアスの父ちゃんが脳腫瘍におかされていて、そのM.R.I.写真をスマホで何度も見ていましたよね。あれです。要するにこの映画、ルーマニアトランシルバニア地方の小村にスリランカから招かれた移民労働者を、不治の病“脳腫瘍”に例えているので . . . 本文を読む
「恥ずべきことにこの数世紀の音楽作品の音程はすべて偽りであり、音楽もその調声もエコーも、その尽きせぬ魅力も、誤った音声に基づいている。大多数の者にとって純粋な音程は存在しないのである。」「ここで想い起こすべきことは、もっと幸福だった時代のこと。ピタゴラスの時代だ。我々の祖先は満足していた。純粋に調声された楽器が数種の音を奏でるだけで。何も疑うことなく、至福の和声は神の領分だと知っていた。」主人公の . . . 本文を読む
オルコットの『若草物語』、ベルイマンの『叫びとささやき』、子供の頃欠かさず見ていたNHK子供向けドラマ=ローラ・インガルス・ワイルダー原作『大草原の小さな家』なんかもすべて、チェーホフ四大戯曲の一つあげられる『三人姉妹』をベースにしているらしい。ブロードウェイをこよなく愛するNY在住の映画監督ウディ・アレンが、その古典戯曲を現代劇に置き換えたお洒落ーなラブ・コメディである。長女ハンナ( . . . 本文を読む
アマプラで無料公開されていたベルイマンの初期3作品をたまたま再見したばっかりだったので、そのうち2作品(『野いちご』『七つの封印』)がウディ・アレンの最新作でまんまオマージュ作品として使われていたのにはビックリ。他の映画監督が撮った名作にオマージュを捧げたウディ作品は過去にも何本か見たことがあるのたが、映画のワンシーンをまんまコピぺしたような分かりやすい演出を見たのは本作がはじめてだ。ウディ・アレ . . . 本文を読む
ランティモス曰く、元々1本の映画だったシナリオをわざわざ3分割してオムニバス形式にした作品だそうだ。不条理ブラックコメディというのは見ていてなんとなく伝わってくるのだが、その不条理な中にも一応の筋を持たせるのが映画監督の腕の見せ所であって、RMFと名付けられたサブキャラ以外、ほとんど共通項のないストーリーをわざわざ3つ並べた意味がよくわからない。高市と石破の一騎討ちに、門外漢の小泉Jr.が途中で割 . . . 本文を読む
なぞのウィルス感染によって滅亡の危機に陥った世界を救う元国連職員(ブラピ)の活躍譚。なにせZ(ゾンビ)に噛まれてからわずか10数秒で感染Zに変身して生身の人間を襲いだす超強力ウィルスのため、コロナウィルスのようにワクチンを何回も打ってマスクをしていればとりあえず大丈夫....なんて悠長に構えていたらたちどころに感染Zに大変身してしまうのである . . . 本文を読む
「ノーベル文学賞の連絡があった時はいたずら電話かと思った」息子と2人晩ご飯を食べている時の出来事だったという。『菜食主義者』がブッカー国際賞を受賞、本作も2度目のブッカー賞候補にあがったハン・ガンではあるが、“まさかこの私が”という思いがあったに違いない。ハルキムラカミの後輩にあたる多和田葉子が同賞の有力候補にあがっていた日本の出版業界もハン・ガンについてはほぼノーマーク、amazonがあわてて電 . . . 本文を読む
愛し合った男女の出会いから別れまでを逆に辿った構成は、ライアン・ゴスリング&ミシェル・ウィリアムズ共演の『ブルー・バレンタイン』と同じだ。垢抜けしないジュード・ロウといった風貌のジェイクと、デミ・ムーアをかなり若がえらせたようなエロエロボディマティの一夜限りのロマンスをクライマックスに、別れた後のジェイクならびにマティのその後を、それぞれ1章、2章に持ってきた3幕構成になっている。ポルトガ . . . 本文を読む