そもそもこのヘンテコりんな映画、タイトルをなぜ「No.10」としたのでしょうか。確か映画後半に登場する“キャプテン”の話によると、地球上に11人の子供たちを解き放ったと言っていましたが、(ユダをのぞく)キリストの弟子と同じ人数11人中の10番目が、本作の主人公ギュンターだったのではないでしょうか。ちなみに、デビューから数えて10番目の作品が本作だそうなのです。無神論者ギ . . . 本文を読む
クリストファー・ノーランを父親=イギリス人、母親=アメリカ人双方の気質を兼ね備えた映画監督と評する人が多いと聞くが、本当ににそうなのだろうか。伝統を重んじながら進取の気象に富む気質は、英国人の国民性そのものだからだ。そうでなければ、ビートルズにプログレッシブ・ロック、パンクがイギリスで生まれることはなかったと思うのである。本長篇デビュー作にそのイギリス人特有の個性をあてはめてみようとするならば、モ . . . 本文を読む
ホン・サンスによってほぼ同時期に撮られた『草の葉』『川沿いのホテル』は、2018年に韓国で同時公開されたという。つまり、2本ともテーマは同一で、1本観ただけでは分かりにくいけれど、2本とも観ればすんなり理解できますよ、という類の作品なのだろう。高い評価を受けた『それから』同様モノクロで撮られた本2作品は残念ながら日本では未公開だったらしく、もしかしたらテーマの暗さ?が配給会社の食指を . . . 本文を読む
公開された当初、この映画をニコラス・ケイジ演じるロブにイエス・キリストを投影させた宗教的ヒューマン“グルメ”ドラマであると論じたレビューを何本か読んだ記憶があるのですが、今ググって見つけようとしても見つからなくなってしまったのはなぜなのでしょう。この映画をその年のベスト10にバラク・オバマがあげていた理由はおそらく、若き映画監督マイケル・サルノスキのその演出に気がついていたせいだと思われるのですが . . . 本文を読む
『エクスマキナ』がイブの楽園追放を、『アナイアレーション』はタルコフスキーの『ストーカー』に言及した作品だった。この奇妙奇天烈なホラーを理解するためには、やはり本作の元ネタを探し出す必要があるだろう。その重要なヒントとなるのが、主人公ハーパー(ジェシー・バックリー)が身につけているヒラヒラのクラシックドレスなのである。ロニー・キリア演じる“同じ顔の男たち”を撃退するため . . . 本文を読む
何をいいたいのかよくわからない。映画のストーリーだけ追ってもほとんど無意味なのは、あのとっつぁん坊やウェス・アンダーソン監督作品と双璧である。14~5世紀頃に書かれたとされる韻頭詩『サー・ガヴェインと緑の騎士』をほぼ原型のまま映像化している本作を監督したデヴィッド・ロウリーは、私が最も苦手としている映画監督の中の一人。争いごと無しに何かを勝ち取る成長物語だとか、過干渉だったロウリー自 . . . 本文を読む
ミシェル・フランコの作風がどんどんミハイル・ハネケに似てきている、そう感じているのは私だけでしょうか。一見、貧富格差が原因で起きた暴動を描いたディストピアムービーのような体裁をしていますが、本作には目に見えない別の伏流水が流れています。しかもそのヒントとなるキーの開示が極めて不親切でハネケっぽいのです。あの傑作スリラー『隠された記憶』のように、気づけない者を嘲笑う監督の意地悪い顔が目に浮かびそう . . . 本文を読む
種明かしをしてしまえば「な~んだ、そうだったの」ということになるのだが、そうやすやすと真意にたどり着かせてくれない作品を撮る映画監督ジョーダン・ピール。この映画ちょうどコロナが米国で猛威をふるっている真っ最中に撮られたらしい。それは、科学の力ではなかなか“飼い慣らす”ことができないウィルス(自然)の驚異を、皆がうっすらと感じていた時期に重なっていたのではな . . . 本文を読む
監督さんいわく、男目線の神話『ウンディーネ』を女性である水の精ウンディーネ目線で描いた女性解放の物語なのだそうである。ということは今流行りのフェミニズム映画なの?そう問われると思わず首を傾げたくなるストーリーなのである。19世紀初頭ドイツ人小説家フーケが巷に流布させたといわれる原則に、本作のウンディーネ(パウラ・ベーア)も見事にはまっているからだ。①人間に . . . 本文を読む
神の子とくればメッシ?だが、神の子羊とくれば言わずと知れた主イエス・キリストである。そういえばメッシの顔もどことなく半羊人間アダちゃんの顔に似ていなくもないが、話がややこしくなりそうなのでこのくらいにしておこう。じゃあ、クリスマスの夜に“何か”によって妊娠させられた母羊から取り出された子供はイエスの分身なの?そこに留意するよりも、その半羊の赤ちゃんに死んだ子供と同じ名前 . . . 本文を読む
インタビュアーから「結局ガミ(キム・ミニ)は何から逃げていたのですか?」と質問されても、「私はその答えをあえて用意していない」みたいなことを言って無粋な質問から“逃げて”いたホン・サンス。Youtube等でやたらとペラペラ語りたがる映画監督が増えているなかで、しごく真っ当な態度といえるだろう。じゃあ本当に答えはないのか?というとそうとも言いい . . . 本文を読む
とにかくせっかちな郵便局窓口のシャオチーが、失われた七夕バレンタインデーを探し求める映画前半は、やっすい韓国ラブコメと大差がなく、こりゃ感想スルーかなってな軽い気持ちで眺めていた。だが、バス運転手グアダイの目線で語られる後半に入ってからの展開は、前半とはまったくの別物に変化する掘り出し物の1本である。きけば監督のチェン・ユーシュンは、台湾ではエドワード・ヤンやホウ・シャオシェンと並ぶほど有名な人ら . . . 本文を読む
ブロック・バスターからミニ・シアター系まで、ありとあらゆるジャンル作品に引っ張りダコのロバート・パディンソン。そして、フランス映画界ではすでに確固たる地位を築いている女流監督クレール・ドゥニとのコラボは、映画批評家からの評価も著しく高く、SF映画の傑作とも評される作品だ。久々にちょっと真面目にレビューを書いて見たくなった1本である。まずタイトルの『ハイ・ライフ』についてふれておきたい。天より高き宇 . . . 本文を読む
前作『キャビン・イン・ザ・ウッズ(原題THE RESOLUTION)』から5年、舞台は同じくジャンキーの巣窟と化しつつあった元ネイティブ居留地。その一画で生活しているコミュニティを脱出し、10年後ノコノコと舞い戻ってくるある兄弟が主人公だ。作品のカルト宗教やタイムリープといったギミックは単なる客寄せパンダに過ぎず、おそらくこの2作品の本旨は別にある、そんな気にさせられる . . . 本文を読む
実は、ヨルゴス・ランティモスによる本作が、2009年から10年続いたギリシャ危機と間違いなく関係していることには確信があるのですが、それが本作のタイトル『聖なる鹿殺し』とどうも結びつかずずっとモヤモヤが続いていたのです。最近ある方の書いたレビューを読んではたと気がついたことがあるので、ここに再度本問題作についての考察を述べさせでいただきたいのです。そもそも、マルティンなる気味悪小僧はなぜ心臓外科医 . . . 本文を読む