この小説をフェミニズム文学だと簡単に決めつけたい輩は、ベトナム戦争従軍経験者の父親が肉を口に無理やり押し込む場面にばかり注目して、ある日突然ベジタリアンと化した主人公ヨンヘをフェミニズムの闘志にまつりあげたがるが、本当にそうなのだろうか。もっと根源的なテーマ“人間の生きる意味”について、ハンガン独自の切り口で深く掘り下げた小説のように思えるからだ。「私は人生の成功者です」といわんばかりの自信満々の . . . 本文を読む
小林聡美が映画『転校生』のキャライメージを破るきっかけとなった『かもめ食堂』。料理上手の自立した女性を本 WOWOWドラマシリーズでも演じているのだが、♂に依存しない中年女性の新しい生き方を提示し続けてきたそのキャラクターにも、正直そろそろ飽きが来ている。初代『かもめ食堂』を監督した荻上直子も本シリーズを離れ、若手の女流監督が代わる代わるその後を引き継いできたのだが、フェミニズムブームもトランプの . . . 本文を読む
山ピーと新木優子が共演した、目の見えない男と聾唖の女を主人公にしたアマプラ恋愛ドラマを、現実的には100%成立しないおとぎ話やなぁと思いながら最後まで見てしまった記憶がある。そこへいくとノーベル文学賞受賞のハン・ガンが2回目のブッカー賞に輝いた本小説は、ギリシャ語講師の男が完全な失明状態ではなく、女性の方も言葉はしゃべれないけれど耳は聞こえる分、山ピーのドラマに比べるとまだ救いはある。しかし、お互 . . . 本文を読む
テレ東開局60周年記念ドラマなのに、お正月三ヶ日ではなく10日のなぜか深夜アマプラでひっそりと配信開始された本作。深川栄洋監督、岡田恵和脚本、永野芽郁主演という豪華なスタッフ&キャストを揃え、映画的スケールにも耐えられる内容にも関わらず、なぜ本作は“スミ”に追いやられてしまったのだろう。おそらくそれは、戦時中のフィリピン野戦病院を舞台にした“反米”作品だからだろう。バイデン=ハリスのDS操 . . . 本文を読む
「ノーベル文学賞の連絡があった時はいたずら電話かと思った」息子と2人晩ご飯を食べている時の出来事だったという。『菜食主義者』がブッカー国際賞を受賞、本作も2度目のブッカー賞候補にあがったハン・ガンではあるが、“まさかこの私が”という思いがあったに違いない。ハルキムラカミの後輩にあたる多和田葉子が同賞の有力候補にあがっていた日本の出版業界もハン・ガンについてはほぼノーマーク、amazonがあわてて電 . . . 本文を読む
B「本当にあんなんでよかったのか」S「しょうがねぇだろ、あのオバハン3つぐらいしかネタを覚えられなかったんだから。トランプが不法移民を持ち出したら、尻拭いをさせられたって言い訳し、インフレ指摘されたら住宅購入頭金バラマキでごまかせ。そしてトランプの中絶反対を徹底的に糾弾しろ。後はTV局がなんとかしてくれるってカマラに仕込んだのさ」B「ABCのアナウンサーを2人にしといてよかったよ。一人じゃ危なかっ . . . 本文を読む
トランプなのかハリスなのか。現在アメリカで起きている分断は、一昔前のイデオロギーだけでは測れない複雑性を帯びている。クリントン、ブッシュ、オバマ、バイデン、そしてカマラ・ハリス...党派は違えど彼等を推しているのは、すべてお高くとまったネオリバタリアンのエリート達であり、その彼らをアメリカのインサイダーとするならば、本書に綴られてるのはそこからはじき出されたアウトサイダーたちの哀歌である。要するに . . . 本文を読む
日銀植田総裁の利上げ宣言により、日経平均はブラックマンデー以来の大幅値下げ、円高が一気に進み1ドル140円をわりこみそうな日本。新NISAのオルカンなどドル建て投信でウハウハ気分を味わっていた皆さんも、連日熱戦が続いているオリンピックどころではなくなっているのではないだろうか。不動産バブルがはじけ百年に一度の大洪水にみまわれて沈没寸前の中国を笑っている場合ではなくなっているのである。日本人へのNI . . . 本文を読む
仏蘭西の美術館にまでのこのこ出掛けし割には、物語理の綻び散見され、たえてのるやとがえざりし劇場版。NHK地上波に放送されし『密漁海岸』もさほど頼まで観けれど、久々なためかこれのよろしき美味なりけり。荒木飛呂彦の原作戯画は全き虚構なれど、漫画家の主人公をはじめ、ひとへに実録なるやのごとき微妙なる演出見処なるなり。下帯裃を身に纏ひし飯豊まりゑが、たとへ自慢の脚線美を披露せずとも、大和言葉を流暢に話す伊 . . . 本文を読む
架空の山村で暮らしたある男の一生は、世界の構造を説明しようとした寓話にはなっていないという。私生児として産まれたエッガーは、牧場主である男に拾われたはいいものの、重労働と暴力のせいで足を骨折、以後足を引きずるようにしか歩けなくなってしまう。「今度俺をなぐったら殺す」初めて男に反抗したエッガーはその場で家を追い出され、誰とも交わらず山の中で暮らすようになるのだ。遭難しかけていたヤギ飼いを救助したエッ . . . 本文を読む
ジャンルとしてはクライム・エンターテインメントで、ピエール・ルメートルもそっち系統の作家さんだ。フレデリック・フォーサイスをバカよばわりしたウェルベックなんかにいわせれば、「ルメートルがゴンクール?ちょっと違うんじゃね」ってことになるのかもしれない。文体も平易で大変読みやすく、フランス人らしい難解な哲学的表現は皆無、登場人物も少な目でいちいち一覧表で確かめる必要もない。しかも読者をハ . . . 本文を読む
毎年元旦音楽の都ウィーンで開催される、ウィーンフィルによるニューイヤー・コンサートをTVで見た。今年の指揮者はドイツ人のクリスティアン・ティーレマンだったせいか、いつもは国際色豊かな客席も、裕福な日本人客がチラホラ目についた以外(バブルがはじけた中国系は皆無?!)はほぼ白人、それも地元ゲルマン系の観客が大半を占めていたような印象を受けたのである。EUに渦巻 . . . 本文を読む
今まで30冊以上の売れない小説を書いていた作家の最新作が人生初のベストセラーとなった時、人はそれを“異常”と呼ぶのだろうか。殺し屋、(エルヴェ・ル・テリエの分身と思われる)作家、余命宣告された元パイロット.....その他なんの繋がりもない多種多様な登場人物たちの元に、突然FBI捜査官があらわれ召集される。なぜ?まったく身に覚えのない人々は、エールフランスのとある航空機に同乗していたことが判明するの . . . 本文を読む
セックス観光を通じた独自の民族比較論ともいえる本小説は、女性の売春行為はご法度のイスラム教徒に対する痛烈な批判とも受け取れる。そのせいだろうか、本書が国内で発売されたと同時に物議をかもし、ムスリム側から強硬なクレームが入ったという。翻訳者の方いわく、ウェルベックのファンはフランスのインテリ層とは異なる市井のオヤジ達だそうなのだが、それは?である。いつもの濃厚なセックス描写を読むためだ . . . 本文を読む
「閣下、ご無沙汰しております」「なんだ君か。わが国の勝利を祝してくれたのは有難いが、そのせいで離党になったらしいじゃないか」「中国の後ろ楯がなければ何もできない党など、こちらから願い下げです」「相変わらず強気だね」「ところで閣下、今回のハマスによる人質誘拐の件は?」「はじめに言っとくけど、わがロシアは今回の事件にはノータッチだよ」「閣下のポチ(メドべージェフ)が世界に先駆けてコメントを出されていま . . . 本文を読む