ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

運動靴と赤い金魚

2024年12月06日 | 星5ツです篇
インド映画だとばっかり思っていたら、なんとイラン映画だった本作。どおりでタッチがイランの巨匠アッバス・キアロスタミの『友だちのうちはどこ?』とそっくりなわけだ。お兄ちゃんのアリが一足しかない妹サーラの赤いりぼんのついたビニール靴を、修理屋から持ち帰る途中で無くしてしまったからさあ大変。「明日学校に履いていく靴がないじゃない💢」とサーラはすっかりおかんむり。貧乏父さんや . . . 本文を読む

二十四の瞳

2022年10月11日 | 星5ツです篇
兄惠介は弟忠司にこう注文を出したという。「全部唱歌でいけるかな」元々、音楽歌謡と深い関わりがある木下作品の中にあっても本作は別格である。なにせ150分の上映時間中90分が唱歌の歌唱シーンで占められているのだから。幅広い年齢層の郷愁をかきたてる最適な音楽とはなんぞやと自問したとき、巨匠木下惠介の頭に浮かんだのが唱歌だったのではないだろうか。『村の鍛冶屋』から『仰げば尊し』まで、子供たちが合唱する唱歌 . . . 本文を読む

きっと、いい日が待っている

2022年01月23日 | 星5ツです篇
まだ小学校に上がる前のことだった。近所の建材置場に、鮮やかな水色の大型コンクリート・ミキサーが設置されたのだ。暇さえあれば、その巨大で滑らかな金属の塊を興味津々で眺めにいっていたことを覚えている。ちょっと前にTVで見たアポロ11号が月面着陸するニュース映像に少なからず影響を受けたのかもしれない。その水色のコンクリート・ミキサーを、宇宙ロケットだとずっと勘違いしていたのである。 確か我が家のチャン . . . 本文を読む

バッド・ジーニアス 危険な天才たち

2021年11月29日 | 星5ツです篇
俺より成績が悪かったあいつが受かってなぜ俺が大学に落ちたのか。なぜ仕事の出来ないあいつの方が出世できたのか。なぜあいつが結婚できて未だに俺はぼっちなのか。それは別にあなたが悪いわけではなく、“あいつ”のおとうさんがお金持ちだっただけ、ただそれだけのことかもしれません。タイの高校に通うリンとバンクは人も羡む天才だけれど、悲しいかな片親家庭の貧乏生活。日本のような教育制度が整っていないタイの高校生にと . . . 本文を読む

アイ・オリジンズ

2021年10月29日 | 星5ツです篇
無神論者の科学者が神の存在を信じるにいたるまでを描いたロマンチックSFラブストーリー。科学的論考からスピリチュアルな展開へとSFが様変わりする時に、どうしても超えなければならない“段差”が必ず現れる。それをいかに滑らかに見せるかが作品の出来不出来に大きく関わってくるのだ。 本作に関してはその点について、かなり上手く地ならしされているのではないだろうか。男女の運命的な出会いと悲劇的別れ、進化論と神 . . . 本文を読む

しとやかな獣

2021年06月29日 | 星5ツです篇
一作として似たような作風の映画がない、パターンをとことん突き詰めていく小津とは真逆の映画監督川島雄三。その最高傑作の呼び声高い本作だが、正月映画として初公開された当時興行的に大ゴケしたというから、実に川島らしい。しかしながら、時代を先取りした斬新すぎる映像や演出を随所に発見できる1本でもある。 埋め立て地の上に築かれた晴海団地の高層階にある一室で展開される密室劇。2LDKの狭さを全 . . . 本文を読む

ビリディアナ

2021年02月22日 | 星5ツです篇
24年ぶりに故国スペインに戻って撮った問題作。ブニュエル本人はしぶしぶの帰郷だったらしく、フランコ独裁政権下のスペインには正直帰りたくなかったというのが本音だろう。イタリアの聖女の名前をタイトルに冠した本作は、ブニュエルお得意のアンチ・クライスト映画、封切りと同時に各方面で物議をかもし、イタリア及びスペインでは早々と上映中止が決定したという。検閲前に息子にこっそり持ち出させたバージョ . . . 本文を読む

幕末太陽傳

2020年12月14日 | 星5ツです篇
現在でいう半グレ=太陽族のシンボル的存在であった石原裕次郎を高杉晋作役に抜擢。難色をしめす日活を説き伏せたのが、本作の監督川島雄三であった。喜劇俳優としてまだ実績が乏しかったフランキー堺をその高杉に対峙する主役にすえたのも同監督で、企画や予算も含め日活側とは以前からかなりもめていたらしい。結果的には川島の企画が通ったわけだが、フランキー堺がセットを抜け出し撮影当時の品川を駆け抜けるという冒頭シーン . . . 本文を読む

できごと

2020年09月01日 | 星5ツです篇
ヨーロッパからハリウッドに招かれて力を失った映画監督は数あれど、その逆、アメリカからイギリスに渡って成功したジョゼフ・ロージーのようなケースは大変珍しい。いわゆる赤狩にあってハリウッドを追放されたロージーは、物語性や主人公への感情移入といったハリウッド的要素を意識的に排除することによって、ヨーロッパ映画界に確固たる地位を築いたといわれている。元々はモノクロで撮影する予定だったという本 . . . 本文を読む

昔々、アナトリアで

2020年04月21日 | 星5ツです篇
カンヌでグランプリを獲得しながらDVDスルーの憂き目にあった残念な作品。よしんば劇場公開されたとしても日本人の皆さんにはあまり受けなかったかもしれない。各国を放浪の末、写真家兼映画監督になった珍しい経歴の持ち主ヌリ・ビルゲ・ジェイラン。トルコ・アナトリア地方の風景をとらえた映像はまさにアートだが、そんな非常に美しい絵に耽溺していると本作の中に隠された真実に気づかないまま見終わってしま . . . 本文を読む

日の名残り

2019年07月15日 | 星5ツです篇
久々にいっぱい食わされた1本。原作者カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞を記念したTV番組を見た時は、“若者相手に正論を語る真面目なオッサン”というイメージだったが、本作を観賞した後は、“いたずら大好きなかなり悪いオヤジ?”という印象にすっかり変わってしまったのである。 表向きは、第二次大戦をまたいで大英帝国からアメリカへと世界の覇権が移行していく中で、ほろ苦いプラトニック・ラブを織り込みなが . . . 本文を読む

浮雲

2019年03月12日 | 星5ツです篇
舞台は敗戦後間もない昭和21年の東京。別れてはくっつきを繰り返すズブズブの恋愛関係を続ける男女を描いた林芙美子の原作を水木洋子が脚色、その他成瀬組が総結集して製作された作品だという。しかしラブシーンと呼べるものは(混浴シーンを除けば)出会いと再会の時のキスシーンのみ、しかもそれをワンカットで済ませてしまう演出は成瀬ならでは。練られた会話とちょっとした目の表情や役者の仕草だけで、“ドロドロ”とい . . . 本文を読む

レッド・タートル ある島の物語

2018年01月06日 | 星5ツです篇
ジブリ自らこのオランダ人監督へラブ・コール、名匠高畠勲の協力を得ながら、製作になんと8年もの歳月をかけてしまったがために、最後のジブリ作品の名誉に授かった長編アニメである。 プロデューサーの鈴木敏夫は最後のジブリ作品を外国人が監督してもそれはそれで面白いと思ったらしいが、本作を見た駿先生に火がついた。一度表明していた引退を取り消したという。 駿先生『最後のジブリ作品が外国製というのはまかり . . . 本文を読む

ブレードランナー2049

2017年11月24日 | 星5ツです篇
この映画に出ていたレプリカントではない生身の人間は、元祖ブレードランナーのデッカード(ハリソン・フォード)を含む(含まないという説もあり)ほんの数人ではなかったか。 将棋の世界ではすでにプロ棋士の歯が全く立たないAIが出現し、そのAIをいち早く導入した金融業界では今後数年のうちに10万人もの行員が職を失うらしい。 介護や運送など3Kに近い仕事は近い将来確実にロボットによって代行され、一部V . . . 本文を読む

ベニスに死す

2017年10月03日 | 星5ツです篇
マーラー第5交響曲第4楽章アダージョが流れる中、主人公グスタフ・アッシェンバッハ(ダーク・ボガート)の乗った汽船が朝靄のたちこめるベネチアに入港する・・・。モネの「日の出の印象」を見ているかのようなこの冒頭の絵画的シーンによって、観客は美しくもどこか退廃的なヴィスコンティの世界に引きずり込まれていく。 トーマス・マンの原作では小説家だった主人公が、作家の意図を汲み、映画の中ではよりグスタフ・ . . . 本文を読む