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ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

地図と領土

2023年09月25日 | 映画評じゃないけど篇

完成間近の『ダミアン・ハーストとジェフ・クーンズ、アート市場を分け合う』とタイトルが付けられた絵画に、主人公のフランス人アーティストジェド・マルタンがパレットナイフを突き立てる場面からお話が始まる。90年代の現代アート市場で最も成功をおさめた2人の作品をググッてみるといい。ホルマリン漬けの🦈や的屋のオッサンが風船を丸めて作ったようなカラフルな🐩のどこが芸術なのか、はっきりいって💩である。しかし当時、なんの技術の裏づけも感じられない2人の作品には世界最高額の値が付けられていたのである。

そんな金銭的価値観のみで芸術を測るやり方をアングロサクソン的と評するジェドであったが、ミシュランガイドのために撮影したなんの変哲もない高速道路写真が芸術扱いされ脚光を浴びた後、(本人の意志とは関係なく)あれよあれよと現代アートの旗手としてまつりあげられてしまうのだ。その後画家に復帰したジェドは、“シンプルな職業シリーズ”で一世を風靡、代表作『ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブスと情報科学を語り合う』がななんと?!150万ユーロという最高値をつけるのである。

この辺り真面目くさった芸術的講釈を並べたてているものの、おそらく作家ウエルベックは内心現代アート市場を糞味噌に茶化しているに違いない。トム・フォードが監督した映画『ノクターナル・アニマルズ』に限りなく似たノリで書いているともいえる。今回は、ジェドの恋人にロシア人美女オルガを登場させているがいつもの変態エロ描写はほとんど見当たらない。その代わり?ミシェル・ウエルベック本人を実名で登場させ、しかも小説内で○○されてしまっているのである。お主なかなかやりおるな~。

映画『セル』でハーストの作品が思いっきりおちょくられたように、その○○は切り刻まれご丁寧にジャクソン・ポロック風に部屋に並べたてられるのだ。生前ジェドの肖像画モデルとして登場する作家ウエルベックは、まるで世捨人のように田舎に引きこもり、ある晩ジェドと芸術談義を繰り広げる。それは、リゾート開発建築家として既に成功をおさめていた父親を晩餐のため自宅に招いた時の会話と対をなしている。19世紀のアーツ・アンド・クラフト運動家として知られるイギリス人ウィリアム・モリスの思想にスポットが当てられているのである。

「われわれ(芸術家)は商業的生産によって息の根をとめられた職人仕事の最後の代表者なのだ」この言葉に要約されるモリスの思想は、地図=芸術=職人仕事と領土=現代アート=商業的成果を分け隔てる重要なメルクマールといえるだろう。かつて隆盛をきわめたドイツの工業地帯が廃墟と化し“雑草”に覆われてしまったように、寛容という擬態を身に付けた成金スノッブどもの手によって、職人仕事としての“誇り”を失った芸術は“現代アート”という名の“商業製品”に成り下がってしまったのではないだろうか。

各界の有名人や実在する団体をまんま実名で作中に登場させる、キッチュという形容がピッタリあてはまる作家ミシェル・ウエルベックの作風を、悩める芸術家ジェド・マルタンの現代アートにオーバーラップさせて、自虐的に弾劾してみせたフィクションなのであろう。「それがどうした、俺様はすでにゴンクールも受賞しているベストセラー作家。しかも大金持ちなんだぜ、なんか文句あっか?」という余裕をのぞかせながら....

地図と領土
著者 ミシェル・ウエルベック
(ちくま書房)
オススメ度[]


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