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雑感録

これもビートルズだ! その9『MAGICAL MYSTERY TOUR』

 
MAGICAL MYSTERY TOUR(1967年)

『SGT. PEPPER'S ~』から間をおくことなく『MAGICAL MYSTERY TOUR』のレコーディングは始まった。
仮装モノと旅行モノと、企画モノの要素が強いという意味でも両者は同じ流れの中にあると言える。
しかし、前回の『SGT. PEPPER'S ~』で中期は終わったと書いてしまった。
はやまったかな?なんてことはない。
僕が思うに、ここからビートルズは混迷期に突入する。
その兆候はすでに『SGT. PEPPER'S ~』からあったのだが、『SGT. PEPPER'S ~』まではまだ「革新」という共通の目標があった。
しかし、その革新もほぼやり遂げ、コンサートもやめたビートルズは、急速に求心力を失っていく。
中山康樹先生の名著『ビートルズを笑え』によると、ビートルズにはデビュー当時からEMIスタジオの壁に貼られた「有名になりたい」「大金持ちになりたい」「モテたい」という3つの純粋かつノーテンキなスローガンがあって(念のために言っておくけど、真に受けないでね)、これらを成し遂げたときから解散に向かっていくということになっているが、まさにそれがこの時期であろう。
ポールの台頭も一つの要因だ。
音楽的にも覚醒したポールは、他のメンバーが郊外に引っ込む中、一人ロンドンの真ん中、EMI(アビーロード)スタジオの近所に住み、最先端の若者文化に触れ、さまざまなミュージシャンやアーティストとの交友を広げていた。
ノリにノッているポールは、レコーディングでもいろんなことを試してみたくてしょうがない。
一方のジョンは、年下で名パートナーのポールに音楽的主導権をもっていかれつつあり(『SGT. PEPPER'S ~』ですでにもっていかれている)、内心あまりおもしろくはない。
ポールの進化についていけない自分に焦りを感じていたんじゃないかとも思う。
レコーディングしかすることのなくなったビートルズは、ポールの主導のもと、テレビ映画の撮影と合わせて曲づくりを進めていく。
この二人の天才の間でもがいていたジョージは、インドに自分の存在意義と心の平穏を見つけ、マハリシ・ヨギをメンバーに紹介し、グループ内の布教活動を進めていく。

エピーことブライアン・エプスタインの突然の訃報は、そんな時にもたらされた。
コンサートをやめて影が薄くなりつつあったとはいえ、ビートルズの育ての親その1的な存在であったエピーを失ったことで混迷は加速し、自らのマネージメント会社『APPLE CORP.』をつくるなどして瞑想ならぬ迷走を始めるのである(ちなみに育ての親その2はもちろんマーティン先生、生みの親はビートルズ自身である)。

ところで、このCDのラベルは唯一Capitolのものになっている。
今さら言うまでもないが、『MAGICAL MYSTERY TOUR』はもともとテレビ映画のサントラ(?)として豪華ブックレット付き6曲入り2枚組EPでリリースされたのだが、アメリカではEPは売れないと判断したCapitolが1967年発売のシングル曲5曲(『Hello Goodbye』のB面『I Am the Walrus』はEPに収録済)を加えてLP化。
結局こっちの方がいいってことで、CD化の際にはCapitol盤が正式に採用されたからだ(ただし、一部の曲はミックス違いと差し替えられている)。
もっとも『A HARD DAY'S NIGHT』や『HELP!』のように新曲をアルバムB面に入れてLP化せずにEPで出したのは、レコーディングが複雑化して、B面分まで作っている余裕がなかった(放映のタイミング的に、年2枚の契約的に)のではないかという気がするが。
テレビ映画の方は本国イギリスではケチョンケチョンにけなされたが、今ではミュージックビデオの先駆けとして評価が高いのもご存知の通り。
ちなみにイギリスでの放映時は、サイケに彩られた作品がモノクロで流されたのだから、まあ理解されなくても無理はない(若い頃にアメリカでカラーでみたスピルバーグ先生は影響を受けたと宣っているらしいし)。

01 Magical Mystery Tour
ポールのシャウトとコーラスの組合せ、さらにテンポの変化という意味では『Sgt. Pepper's 』+『reprise』と方向性は同じだが、こちらはササッと思いついたキャッチーなメロディに無理やっこ変化をつけた感じがする(その辺、後のウイングス作品『Getting Closer』に似ている)。したがってアレンジがすべて(しかし、このアレンジが素晴らしいんだよね)。

02 The Fool on the Hill
直訳すれば『山の上のバカ』。中学生の頃に初めてこのタイトルを聞いたとき、ビートルズってなんてシュールな曲を作るんだろうと感動したものだ。ポールがリコーダー、ジョンとジョージはバス・ハーモニカ(あのブカブカいう音はそういう楽器だったんだ。でもブカブカ2つには聴こえないけどなあ)と、あまり使われない楽器を演奏。映画の山の上のシーンもカッコいい。リマスターでサビのポールのダブルトラックがより鮮明に聴こえるようになったような気がする。

03 Flying
初めて4人の名前がクレジットされた曲だが、なにせインストロメンタルだもんなあ(でもコーラス付き)。テレビ映画のBGMの域を出るものではない。

04 Blue Jay Way
インドに続いて電子音楽にかぶれ始めたジョージの、なんとも異様でなんとも不気味な曲。歌詞にもある通り、ジョージがヒッピー・ムーブメントを体験しにLAに行ったときにできた曲だそうで、本場のビッピー文化を目の当たりにしたジョージはいたく幻滅したそうな。その幻滅具合が曲に反映されてるのだろうか。リマスターだからと思ってよく聴くと、イントロの裏のシュッポシュッポという汽車のようなノイズや消されたはずのコーラストラックの音漏れほか、いろんな音が聴こえてくる。超低音で鳴り続けるベースの不気味さは秀逸。ジョージのボーカルやジョンとポールの逆回転コーラスは言うに及ばず、リンゴのドラムに至るまでエフェクトがかかりまくっている。

05 Your Mother Should Know
ピアノやハモンドオルガンなどキーボードで彩られた曲。この曲でもポールのボーカルやジョンとポール自身のコーラスが右に行ったり左に行ったりとさまよっている。映画ではこのシーンでポールだけが黒いバラをつけていて、ポール・マッカートニー死亡説の要因の一つとなっているが、これは単なるお調子者の印である。

06 I Am the Walrus
ここまで(アルバムA面)がEPの収録曲で、これはEP中唯一のジョンの曲(まあ、2曲分くらいの存在感はあるが)。ステレオではイントロのオルガンのリフが6回あるが、モノでは4回しかないらしい。また『LOVE』ではレコーディングテープからミックスし直されたものが入っていて、オルガンのリフの途中からカウントが入ったり、ギターの音がハッキリ聴こえたり、オーケストラがステレオに分かれていたり、笑い声が左右にふられていたりする(笑い声が左右にふられているものは確か以前に聴いたような記憶があるのだが、何だったんだろう)。

07 Hello Goodbye
アルバムB面に収められたシングル3枚の中では最後にリリースされた曲。シングルB面は『I Am the Walrus』のため重複。こんなにもポップな曲なのに、どこかしら切ない感じがするのは詞のせいか、はたまたバイオリンのせいか、ギターの代わりにポールがファルセットで歌う箇所のせいか。ポールの指示かもしれないが、この弾きどころわきまえたジョージのギターも素晴らしい。

08 Strawberry Fields Forever
『SGT. PEPPER'S ~』から横取りされた、康樹先生のいうところの最強のシングル盤の両A面がこれと次の『Penny Lane』。キーもテンポも違う2つのバージョンをマーティン先生とジェフのマジックでくっつけたそうだが、たぶん2番以降のテープ速度を落としたのだろう。ジョンの声が1番とは別人のように聴こえる。ポール・マッカートニー死亡説によると、エンディングでジョンが「I buried Paul」と言ったことになっているが、一体どこをどう聞けば「クランベリーソース」がそういう風に聴こえるのか。「ボクハ、ぽーるヲ、マイソース(埋葬す)」と、日本語ででも聞いたのか?

09 Penny Lane
ポールのハイノートプレイとともに、管楽隊が大活躍。ピッコロトランペットの使用は有名だが、弦楽やブラスでよくやるように、フルートの高音でリズムを刻むような演奏をしているのは(これまでも聴こえていたはずだけど)初めて気がついた。

10 Baby You're a Rich Man
シングル『All You Need Is Love』のB面。
ジョン「煮詰まった曲があるんだけど、何かサビにいいメロディない?(どうしようもない曲だから、あとはポールになんとかさせよう)」
ポール「ちょうどいいのがあるよ。これなんかどう?(どうしようもない曲だから、ジョンに歌わせて責任を押し付けよう)」
ジョン「おっ、いいねえ(なんじゃ、こりゃ? まあ、B面曲だからいいか…)」
ポール「オレたちやっぱ名コンビだね(ちょっとひどかったかな? せめていっしょに歌ってあげよう…)」
という訳で、ジョンの曲とポールの曲の合体だが、これほどどうでもいい例も珍しい。

11 All You Need Is Love
『OUR WORLD』とかいう特番で、全世界生中継レコーディングされた(と言っても実はベーシックトラックは録音済み、一部はオーバーダブ)、ジョンお得意の転拍子バリバリおしゃべりソング。ジョージのソロ、えらく中途半端だけど、そういうアレンジだったのか、トチっちゃったけど全世界に中継しちゃったので差し替えずにそのままいっちゃったのか?
ちなみにこの特番で披露する曲はジョンとポールの“共作”ならぬ“競作”となって、ポールの『Your Mother Should Know』が落選し、代わりに映画のラストを飾ることとなった。

つづく
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