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雑感録

SF理想社会(#6)

これまではちょっと暗い話題が多かったので、今回は2050年の宇宙開発について。
ますは現況のニュースから。
スターライナーの乗組員(宇宙飛行士)が、滞在予定の1週間を過ぎて1カ月以上、機器の故障によって地球にもどれなくなった、と言っていた。

そもそもスターライナーとは何じゃ?といえば、“CST-100 スターライナー”と言って、ボーイング社がNASAの商業乗員輸送開発 (CCDev) 計画の下で開発したカプセル型有人宇宙船だ。
最大7人乗りで、生命維持装置は低軌道仕様で小型軽量化されるため、室内空間の容積が大きいらしい。

国際宇宙ステーション(ISS)と何が違うかというと、ISSは“国際”の名のとおり、アメリカ・日本・カナダ・欧州各国(イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・スイス・スペイン・オランダ・ベルギー・デンマーク・ノルウェー・スウェーデン)そしてロシアの15カ国が協力して計画を進め、利用しているもの。
対するスターライナーは、今回ISSへのスタッフ輸送を行ったみたいで、行きはよいよい帰りは…という状態に陥っている。

スターライナーがボーイングなら、スペースXはスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズの通称で、有名なイーロン・マスクによって設立された航空宇宙メーカーだ。
アメリカ(NASA)は宇宙開発能力の維持・向上を効率的に 進めるため、民間活力を積極的に活用している。
その代表がスペースXとボーイングで、スペースXは去年、2度目の試験飛行に挑んだ宇宙船「スターシップ」が初回よりわずかに飛行距離を伸ばし宇宙空間の入り口に到達したものの、その直後に爆発した。

今回のスターライナーによる人間輸送で、スペースXに一歩リードした形だが、乗組員が帰れないとなると、これは大きな問題になるだろう。

さて、現況はこのくらいにして、日本はどうかと言うと、まず日本航空宇宙学会(JSASS/宇宙開発事業団(NASDA)・宇宙科学研究所(ISAS)・航空技術研究所(NAL)を統合して宇宙航空研究開発機構(JAXA)を設立。
ここが宇宙ビジョン2050で地球近傍活動、月・火星圏の活動、深宇宙探査と科学活動の発展性の総合政策をロードマップに示した、といった具合だ。
正直欧米とロシア・中国に遅れをとっているとしか言えない。

じゃあ、世界ではどうなのか?
実は、ロケットのイメージが強い宇宙産業の市場規模約38兆円のうち、ロケットの製造・打ち上げ企業が占める割合はわずか1.34%だ。
また、宇宙産業は国が主体的に進めているもので、生活には関係ないと思われているが、宇宙産業全体に占める日本の予算は約1/4程度で半分もない(Bryce Space and Technologyの「2019 Global Space Economy at a Glance」より数値を抜粋)。

宇宙産業の市場規模では「衛星サービス」というカテゴリが宇宙産業の約1/3以上を占める。
そして「衛星サービス」こそ生活に今や必要不可欠なものとなっており、宙畑では「宇宙利用」と分類している。
インターネットが利用できるのは通信環境がきちんと整備されているからこそ。
日本の場合は地上局が他国と比較して日本中くまなく整備されているのであまり気にならないが、他の国では地上局が整備されていなかったり、日本の場合でも災害によって地上局が被災するとインターネットを利用できなくなる。

そこで利用できるのが、通信衛星を介したインターネット接続だ。
宇宙空間にあるため、自然災害に遭うこともなく、時と場所を選ばず安定してインターネットを利用できるようになる。
天飛行機や船舶でのインターネットを利用も通信衛星により提供されているサービスのひとつだ。
飛行機でインターネット利用したことがある方はお分かりだろうが、現状の通信衛星によるインターネットは地上36,000kmにある静止衛星から提供されており、地上で利用する4G回線と比較すると速度が劣る。
しかし、現在SpaceX社の「スターリンク」を筆頭に、低軌道での通信衛星サービスを狙う企業が現れて、速度の改善も期待されている。
また、衛星放送、衛星ラジオも通信衛星によって実現できており、日本ではスカパーJSAT株式会社が衛星放送事業を行っている。

次にGPSについて。
今から約30年前の1993年、米国国防省が軍事目的として開発を進めていた人工衛星による測位システム(GPS)を民間に開放した。
GPSを利用したサービス例を挙げると
・カーナビ
・Google Map
・GPS腕時計
・ポケモンGO
など、生活に不可欠なものから娯楽まで、私たちの生活とは切っても切り離せないサービスが生まれている。

また、現在は日本でも「みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)プロジェクト」がGPSの使い勝手をより良くし、次世代の衛星測位技術を国内で確立するために開発・運用が進められている。
さらに、今後は農機の自動運転やドローンによる自動配達など、測位衛星を利用したサービスは続々と定着するだろう。

そして最後は「地球観測サービス」。
代表例は何と言っても天気予報だ。
もちろん天気予報にも衛星が用いられているが、人工衛星が観測しているのは天気だけではなく、森林の伐採状況から違法伐採を検出したり、自然災害があった際にその被災状況をいち早くマクロな視点から観測したり、海水面温度から漁場の当てをつけたり、二酸化炭素濃度を見て地球温暖化の現状を把握したり……と様々な産業で利用されている。
今後ますます地球観測衛星の機数が増え、ハード面の性能の向上により観測頻度・観測できる解像度・観測できるデータの種類も増えることで、より多様な産業課題の解決が見込まれる。

次には「宇宙製造・インフラ」。
「宇宙製造・インフラ」は「宇宙利用」が実現するまで、そして運用をするために、不可欠なサービスだ。
まずは宇宙!と言えば真っ先に思い浮かぶ「ロケット」をはじめとする輸送事業だ。
宇宙産業におけるサービスのほとんどは人工衛星の利用によるもので、ロケットはあくまで人工衛星を宇宙へ運ぶための”手段”。
しかし、地上と大きく異なるのはその輸送料金と打ち上げ頻度だろう。
現在、指定の場所に人工衛星を届けるためには少なくとも数億円、ある程度の大きさになれば50~100億円もの費用がかかり、打ち上げ機会も契約なので、はい、翌日に、という訳にはいかない。
そこで2000年代になってから続々と生まれているのがSpaceXや、日本ではインタステラテクノロジズ(「手軽に行ける宇宙」を目指す宇宙の総合インフラ会社)をはじめとするロケット製造ベンチャーだ。
ボーイングの向こうを張るSpaceXも、元はイーロン・マスクが設立したベンチャーに過ぎなかった。
各社、輸送における低価格化、打ち上げ機会の増加を目論み、これからの宇宙産業の発展を支えてこうとしている。

衛星製造は上記の「通信衛星」「測位衛星」「地球観測衛星」を製造する産業だ。
これまでは国主導で進められてきたが、直近ではサービス展開までを視野に入れて民間企業が独自に衛星を製造し、打ち上げ、サービス提供を行っている。
注目企業としては自社で150機以上の地球観測衛星を打ち上げプラットフォームを自社でも整備している「Planet Lab社」や、これも上記の「SpaceX社」がある。

地上システムは人工衛星を用いた「宇宙利用サービス」を運用する縁の下の力持ちだ。
人工衛星は宇宙に運んだら自律的に動いているわけではなく、地上から指示を出して所定の軌道を維持したり、地上を撮影している。
今後ますます人工衛星の機数が増えることが見込まれる中、より効率的に、より安全に宇宙を利用するためのサービスを担うのが「地上システム」だ。

ところで日本の話に戻るが、JSASS宇宙ビジョン2050(前述)では、分野毎に2020年から2050年までの発展マップが描かれている。

❶人類はどこで活動しているか。
【地球近傍】
地上に限定されていた人間社会が地球近の宇宙に広がっている。様々な方法で宇宙にアクセスできるようになり、宇宙労働者や研究者・実務者以外の人も宇宙活動に参加している。
【月】
国家資本・民間資本により建設・運用されている月面基地が複数存在し、宇宙労働者を中心とした宇宙滞在者による人間社会が形成されている。宇宙労働者や研究者・実務者以外の人も宇宙旅行者として月に短期滞在している【宇宙滞在者】
宇宙にいる宇宙労働者が人類の活動領域を拡大すべく地球近傍、月や火星の表面や軌道上で活躍している。特に月面基地においては宇宙労働者とその家族が人間社会を形成しており、宇宙旅行者が定期的に訪れている。
【火星】
宇宙飛行士により火星探査計画が推し進められ、人類の活動する宇宙領域を拡大している。
【太陽系】 人類は無人探査機を利用して太陽系のどこにでも行ける能力を獲得している。また、情報技術
の発展により探査能力が格段に向上している。
【太陽系外】
人類は太陽系外への移動手段の開発に挑戦している。

❷誰が宇宙活動を行っているか?
【国・宇宙機関】国・宇宙機関は、月や火星に滞在する宇宙飛行士を定期的に送り込んでいる。太陽系全域に人類の宇宙領域が拡大し、更に太陽系外へと広がりを見せている。
【研究者・実務者】
研究者・実務者は互いに協力し、宇宙活動の持続的発展に向けて尽力している。研究者は深化・拡大した様々な学問領域に取り組み、新しい視点・論点を提供している.また、先端的な技術 開発を行っており、時として想定外の変革を社会にもたらしている。実務者は新技術の社会実装
に取り組み、新しい課題を解決している。
【産業界】
全ての人が宇宙活動に参加することをサポートするビジネスが展開している民間企業が地上のスペースポート、地球低軌道や月を拠点として複数のビジネスを展開し,宇宙労働者が働いている。新しい輸送システムの確立による人や物資の大量輸送が実現することで、宇宙で生産され たデータ・物・エネルギーに基づく産業が様々な分野に展開しており、全ての人がその恩恵を受け
ている。
【宇宙労働者や研究者・実務者以外の人】
宇宙旅行に興味がある人にとっては、弾道飛行体験や低軌道有人宇宙ステーションに滞在することが日常的になり、月の短期滞在も可能になっている。また、宇宙に直接的な興味のない人も
様々な情報機器を通じて宇宙活動に参加しており、その恩恵を受けている。

❸宇宙活動は何をもたらしているか?
【人類の課題解決】
宇宙活動は持続可能な開発目標(SustainableDevelopmentGoals,SDGs)の実現に貢献している。また、次世代の産業界の課題を解決し、人間生活の利便性・快適性の向上に役立っている。
【産業構造の変革】
地上と宇宙空間間の大量輸送や、情報・ロボット技術の進化等が、産業構造に変革をもたらしている。異業種企業や新興企業の参入だけではなく、既存企業の新規分野開拓を様々な民間資本が後押しするとともに、関連した法整備等が進んでいる。
【新しい価値観の醸成】
人の生活圏が地上から地球近傍に広がることにより「人類の宇宙進出」や「地球環境の保護」などに対する、新しい価値観が醸成されている。
【知の獲得】
太陽系外を含めた宇宙活動を通して、学問領域が深化・拡大し、生命や宇宙の起源に対する理解が深まっている。科学・工学・人文社会科学の専門家が知見を持ち合い、人類の宇宙活動(地球上の活動を含む)の推進・発展に貢献している。
【人類の生活圏拡大】
地球から離れた月や火星の滞在者は、地球外における人間社会の確立に向けた第一歩を踏み出している。


←(もどる)(つづく)→ 


※トップ画像:BingAIで作成した「2050年の地球の宇宙開発が進んだ移住先の絵」 

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