THE BEATLES(1968年)
クラスの親睦と心の平穏を求めて、風紀委員のジョージくんの提案で、ビートルズはインドの林間学校に出かけた。
迷えるジョンくんは積極的に参加したに違いない。
リンゴくんは行くぞと言われてただついていったに違いない。
ポールくんが参加したのは意外な気もするが、マジカル・ミステリー・オリエンタル・ツアーだ、とでもはしゃいでいたのだろうか。
やはりポールは真っ先に帰ったようだが、実はいまだにマントラを唱えたりしているそうだ。
林間学校で曲を山ほど作りためたメンバーは、イーシャのジョージくんの家で課題発表会をしてデモを録音し、これが初の2枚組アルバムになっていく。
しかし、クラスの親睦という目的は達成されなかったようで、みんなは勝手に自分の曲のレコーディングを進めたり、レコーディング中なのに勝手にどこかに行ってしまったりするようになった。
かわいそうなのはリンゴくん。
なにせ“自分の曲”がないので、各メンバーの都合で呼び出されたり暇になったりする。
1曲のレコーディングにやたら時間がかかるようになったので、コーラスもドラムやパーカッション以外の楽器もやらないリンゴくんは、暇になったらとことこん暇なのだ。
あまりに暇すぎて、とうとう“自分の曲”まで作ってしまった。
それでも暇すぎて、とうとう学校を辞めると言いだした。
(おまけにマーティン先生も置き手紙を残して学校休んじゃうし、用務員のジェフさんはよその学校にいってしまった)
これはなんとか丸くおさまったんだけど、今度はジョンくんが困ったことを始めた。
よその学校の留学生・ヨーコさんを教室に連れて来たのだ。
昔、日本では箱根の向こうには鬼が棲むなんて言われていたけど、イギリスでは喜望峰の向こうには鬼ババが棲むといわれていて(当時はまだパナマ運河も飛行機もなかったということで)、ヨーコさんはその喜望峰のはるか向こうからやってきた鬼ババだったのだ。
くだらない話はこれくらいにしておこう。
ビートルズに限った話ではないが、バンドの音楽的多様性は、当然のことながらメンバーの個性によるものが大きい。
中期まではまだ振れ幅もそこまで大きくはなく、共通のスローガン(!?)や目標があったので一丸となって進むことができたが、もはやグループとしての目標は達成してしまっているし、個々の振れ幅も大きくなっている。
何より、もうみんないい大人である(といっても当時ジョンとリンゴが28歳、最年少のジョージは25歳)
だから後期の混迷、迷走、崩壊の流れはある意味必然。
しかし、レコーディングの状況に関わらず、このWアルバムのファンは多い。
僕もご他聞に漏れず、かなりのお気に入りだ。
これまでみたいな意図的な統一感やテーマはないが、みんなの意識が「自分のイメージを形にする」という意味において共通だったのかもしれない。
『SGT.PEPPER'S ~』でやった「曲間なし」が、畳み込むような流れを作っているのもいい。
さらにこのアルバムの制作途中から8トラックを導入。
ピンポンが減る分音はよくなるが、レコーディングは複雑さを増していく。
ただ、このアルバム、昔から全体的に煙ったような濁ったような音が気になっていたのだが(気のせいか?)、リマスターでもその辺はクリアにならなかった。
だいたいこの辺になると、元の音もそこまで悪くないので、僕の耳程度では、リマスターとの差があまり分からないというのが正直なところである。
有名な真っ白ジャケットは、CD化でグレー文字になってたタイトルが、紙ジャケでは例のエンボス加工に戻っているが、「通し番号」はなくなったままだ。
シングルではこの年『Lady Madonna/The Inner Light』『Hey Jude/Revolution』がリリースされているが、例によって(って例もバラバラだけど)アルバムとの重複はない。
なお、ジョンはこの年、ストーンズが企画(『Magical Mistery Tour』に影響を受けたと言われる)したTVショウ『ロックンロール・サーカス』に、クラプトンやキース・リチャーズなどと「Dirty Mac」として参加(結局番組は放送されず)、ヨーコと二人で『Unfinished Music No.1: Two Virgins』をリリース。
ジョージは映画『不思議の壁』のサウンドトラック『Wonderwall Music』をリリースするなど、グループ以外の活動も盛んになっている。
01 Back in the USSR
レコーディング中にリンゴくんがポールくんと喧嘩して、リンゴくん登校拒否。「平気だもんね」とポールくん、ドラムを叩いてレコーディング続行。調子に乗って、リードギターも弾いちゃった。もちろん、ジョージくんはこれまで何度もやられてるし、インドで精神修養もつんでいるので平気だけど、リンゴくんは「インドのメシはまずい」って文句ばかり言ってたので、修行が足りてなかったかな(それを言うならポールくんがいちばん足らなかった?)。それでもリンゴはポールのドラムを絶賛したと言うが、それって皮肉とちゃいまんのか? ちなみにベースはジョン。
02 Dear Prudence
引き続きリンゴくんは不在。ジョンくんは林間学校でよそのクラスのドノバンくん(知らん)に教わったスリーフィンガーをバッキングで披露。ただ、それをアコースティックではなくエレクトリック(だよね?)でやるあたり、ひと捻りを大事にする料理人の姿勢が窺える。でも、キモは澄んだギターとポールのベース&ドラムス。後半、ヘヴィなギターも加わって演奏が厚くなるとボーカルが引っ込んでしまうのは、いつものご愛嬌か。
03 Glass Onion
お帰りなさい、リンゴ!といってもアルバムの曲順での話だが、ジョンの説得でこの曲からリンゴが復活。
ジョン「お前は最高のドラマーだ。帰ってきてくれ」
リンゴ「い~よ~」
ジョン「って、何も考えとらんだろ。くまのプーさんか、おまえは」
リンゴ「イーヨーだよ~」
閑話休題、ジョンが歌詞を深読みするファンをからかうためにビートルズの曲のタイトルを散りばめたそうだが、その曲をいちいち列挙したりSEとの組合せを解説したりしてる時点で、十分にひっかかってると思うんですが。それにしてもポールのベース、超ソリッド。
04 Ob-La-Di, Ob-La-Da
イントロのピアノは、この曲をしつこく何度も録り直すポールに対してフラストレーションのたまったジョンが、やけのやんぱちで叩いたのが採用されたというのは有名な話。ポールはマーティン先生にも悪態をついていたらしく、それがジェフがやめるきっかけになったとも。曲中いろんなところでジョンらしき声が聴こえるし、パーカッションもいろんな音が入っているが、どうも口でやってるんじゃないのかと思われるものも多数。問題が多い割には楽しそうにやっている。ビートルズ初のカリプソだのレゲエだのと言われるが、わざわざ枠にはめる必要はあるまい。日本ではNHK『みんなの歌』でフォーリーブス(という4人組元祖ジャニーズがいたんだよ、昔)がカバー。ちなみに「ライフゴーゾーン、ブラー」の「ブラ」はブラジャーのことだと後にポールが語ってるそうな(本気なのかどうなのか)。
05 Wild Honey Pie
ポールのお遊びで、もともと収録するつもりはなかったらしいが、ジョージの奥さん・パティの進言でとりあげられることになったとか。パティ、そこまで発言力があったのか。
06 The Continuing Story of Bungalow Bill
ボーカルの一部で鬼ババもといヨーコが老女役で登場。コーラスでは子ども役でリンゴ夫妻も参加。イントロのスパニッシュギターはコピーにトライした人も多いと思うが、なんとメロトロンのプリセットだったことが判明したと、『ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版』の“付記”で追加されていた。
07 While My Guitar Gently Weeps
クラプトンのギターで有名なジョージの名曲。イントロの印象的なピアノはポール。ポールはベースでダブルノートも披露するなど貢献度高し。ウォール・オブ・コーラスはいつものごとし。『LOVE』ではジョージのアコースティックなデモにマーティン翁がストリングスをのせているが、まんま過ぎて面白くない。
08 Happiness Is a Warm Gun
ジョンの複雑な構成かつ転拍子バリバリの曲。特に3拍子のようだけどドラムは4拍子っぽくなったりして複雑怪奇。あとハモリの声、あれは誰? ジョージ? よく分からん。
09 Martha My Dear
レコードB面トップは、ピアノ弾きなら誰でもトライしたことのあるポールの名曲。ポール自身、ピアノの練習中にできた曲で、ピアノの練習になるようになるようにテクニカルに組み立てたと言ってるらしい(あんたはショパンか)。ポール以外のメンバーはレコーディング不参加。
10 I'm So Tired
シンプルなスロー・ロックで、ジョンのシャウトとジョンとポールのハーモニーがすべて。疲れて眠ってしまったのか、最後はジョンがむにゃむにゃ寝言を言っている。
11 Blackbird
ギター弾きなら誰でもトライしたこのある、でも誰にもマネできないポール独特のフィンガリング。レコーディングはポールひとり。メトロノームのようにリズムを刻むのは、これまたメロトロンらしい。
12 Piggies
ポールの鳥の次はジョージの豚。イントロのハプシコードはマーティン先生の代役でプロデューサーを務めたクリス・トーマスのアイデアで、演奏もクリス。あまり気にしてなかったけど、あらためて聴いてみると、ジョージのアコースティックギターもいい。
13 Rocky Raccoon
ジョージの豚の次はポールのアライグマ。冒頭のしゃべくり調の歌は歌詞を見ながらでも追えない。訥々とした物語調の曲だが、英語が分からずに聴くといささか退屈。リマスターで演奏がくっきりステレオに分かれている。
14 Don't Pass Me by
こちらは本家カントリーのリンゴ初の自作曲。どういう訳かモノミックスは演奏がかなり異なるらしいので、暇な人は聴いてみてください。
15 Why Don't We Do It in the Road
短編ロックとでも言いますか。ポールのワンマンレコーディングかと思いきや、ドラムはリンゴがオーバーダビング。ポールもたまにはリンゴに気を使ったか。しかし、レコーディングに呼ばれなかったジョンは「僕が歌いたかったのに…」とブツブツ言ったそうな。イントロで叩いているのはギターの共鳴板(その割にアコースティックギターの音は入ってないが、セミアコのギターかな?)。オーバーダブしたリンゴのドラムはラスト以外のシンバル類が削除されているっぽい(音はかすかに聴こえる)。
16 I Will
ポール得意の小品、至極のバラード。やっぱポールの醍醐味は小品でしょ。ポールのひとりハーモニーもいいし、ギターもいいし、口ベースも面白い。ジョンとリンゴはパーカッションでお手伝い。昔ジョンが頭蓋骨を叩いているというのを読んだ気がする(しかも、自分で自分の頭を叩いたという勘違い付き)のだが、その後の資料にはどこにもそんなこと書いてない。勘違いかな? ジョージは不参加。
17 Julia
ポールのパラードの次はジョンのバラード。ジョンには珍しいワンマンレコーディグで、ドノバン仕込みのスリーフィンガーを披露。曲はともかく、歌詞の「オーシャン=洋」「チャイルド=子」ってのはどうにかしてほしい。
18 Birthday
レコードC面トップはポールの痛快なロックンロール。やっぱポールの醍醐味はロックでしょ。ポールとジョンのツインボーカルやジョージとジョンのツインギターなど、ビートルズのバンドとしての一体感もいい。間奏でギターの入るタイミングを確認するためか、ドラムの裏で8までカウントしてるのが聴こえる(カウントもロックしてる!)。コーラスではヨーコとパティが参加
19 Yer Blues
ポールの痛快なロックの次は、ジョンのブルージーなロック。当時のブルースブームを皮肉ったアレンジらしいが、ブームを知らない僕にはどこがどう皮肉なのか、まったく分からない。ちなみにこの曲は、ステージにいるようなサウンドが欲しいというジョンの意向で、コントロールルームの隣の小部屋に機材を押し込んで、スピーカーを鳴らしながら録音されたそうな。そのせいか非ぬか、やたらハウリングっぽい音はするし、なんか生っぽいダブルトラックとショートディレイの中間みたいな声もする(後半のインストロメンタル部分でも、この声はずっとしている)。
18 Mother Nature's Son
ポールのワンマンレコーディングにホーンセクションをオーバーダブ。意外とストレートなアレンジ。今なら環境保護とかのCMで使われそうなタイトルだ。
19 Everybody's Got Something to Hide except Me and My Monkey
タイトルは長いが、そんなに内容のある曲ではない。タイトルと異なり、歌ではどう聴いても「エクセプフォミ、アンマーマンキー」と歌っている。
20 Sexy Sadie
マハリシのセクハラ疑惑で幻滅したジョンが、そのことを皮肉った曲。もともとはもっと辛辣でポールは大喜びしたらしいが、ジョージの忠告で丸くしちゃったらしい(heではなくsheになってるし)。キモのピアノは大喜びしたポールが演奏。
21 Helter Skelter
ほら、ポールの醍醐味はロックでしょ。とにかくうるさく汚くをテーマにしていても、しっかり聴かせるあたりはさすがポール。ヘヴィメタの元祖と崇められる曲でもあるが、まだこの手の分野が確立されてなかったからだろう、16ビート混じりのジョンのベースに対し、リンゴは基本4ビートという、ちょっとちぐはぐな面もある。歌の終わり、コーダに入る前のところでは、右チャンネルからやたらブツブツ言ってるのが聴こえるが、ポールの声だろうか? モノミックスはコーダのフェードアウトでそのまま曲が終わってしまうそうだが、リンゴの「指にマメができちまったぜ!」がない『Helter Skelter』なんてあり得ん!
ちなみにこの曲の狂気(そこまでのものとは思わないが、当時としては衝撃的だったのだろう)は、マイソン事件のネタにされてしまったという妙な形で証明されてしまった。
22 Long, Long, Long
ポールの狂騒の次は、ジョージの消え入りそうにはかない曲。CD化でダイナミックレンジが広がったためか、ラウドな曲はよりラウドに、静かな曲はより静かになったような気がしてて、この曲なんか『Helter Skelter』からの流れで聴くと、いつ始まったのかも分からないような感じがしたものだ。今回あらためて聴いてみると、静かな曲なのに突然ドカドカとドラムの音が響いたりして、ギャップがますますひどくなったような気がする。
23 Revolution 1
D面トップはジョンのレボリューション3部作の1発目。このころ、ビートルズはレコーディング中にやたらジャムになだれ込んでいて、この曲ももとは12分もの長さがあったとか。そこからまともな部分を取り出したのが『Revolution 1』、後半のジャムを発展させてヨーコといっしょにむちゃくちゃにしたのが『Revolution 9』、シングル用にテンポを上げてリメイクしたのが単なる『Revolution』(『Hey Jude』のB面)である。この曲でもギターやブラスに対してボーカルが引っ込んでるような印象大。エンディングではボーカルやギターが右に行ったり左にいったりしながら、徐々にNo.9の雰囲気を醸し出していく。
なお、歌詞でアウトにするかインにするか迷った挙げ句、『Revolution 1』では両方、『Revolution』ではアウトにしている話は有名が、その過程ではくだらないやりとりがあったとか。
ジョン「アウトにするかインにするか、まだ迷ってるんだ」
ポール「インでい~んだよ」
ジョン「くだらん! もうインにはせん!」
ポール「え″~」
24 Honey Pie
曲中でポール自身が「この手のホットな曲は大好きだ」と言ってるように、僕も大好きなポールの十八番、ボードビル調の曲。ポールのピアノは言うに及ばず、ジョンの秀逸なギターはポールとの息もぴったりじゃないか(ちなみにベースはジョージ)。
25 Savoy Traffle
またまたカッコいぞ、ジョージ! 歌はクラプトンのチョコレート好きをネタにしたものらしいが、とにかくディストーションをかけたブラス隊がイカしてる。なお、22とともに、ジョンはレコーディング不参加。
26 Cry Baby Cry
ジョンの語り部風おとぎ話だが、詞が分かりやすい分、聴きやすい。終わりに別録りのポールの『Can You Take Me Back ...』がくっついてるが、まるで最初からそうしようと思ってたような絶妙のタイミング、テンポ、曲調ではないか。
27 Revolution 9
いいです。飛ばしてください。
28 Good Night
ジョンがリンゴのために書いた曲だが、レコーディングはリンゴとマーティン先生に任せっきりで、書いた本人すら参加してないそうな。リンゴは張り切ってイントロでいろんな語りを試したようだが、結局どれも使われなかった。
(つづく)
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