つらつら日暮らし

「第一官律名義弁」其九(釈雲照律師『緇門正儀』を学ぶ・9)

ということで、ここ数回、釈雲照律師『緇門正儀』の「第一官律名義弁」の内容を見ている。なお、これは【1回目の記事】でも採り上げたように、「今略して、僧に位官を賜ひし和漢の官名、職名及び初例を挙示せん」とあって、職名の意味というよりは、任命された最初の事例を挙げることを目的としているようである。よって、この連載では、本書の内容を見つつ、各役職の意義については、当方で調べて、学びとしたい。

一 上座
 梵語に悉帝那、華言に上座と言ふ。夫れ上座は三種有り、集異門足毘曇に曰く、
 一には生年、耆年と為す、
 二には、世俗の財もて名を貴族に与うと〈節度使劉統の、家の物を出して、夏臘を賜ふが如し〉、
 三には、先に受戒、及び先に証果〈此の名、最も勝る〉、
 古今に此の位を立る、皆、其の年徳斡局ある者を取て、之に充つ、
 高僧伝に多く、勅せられて某寺の上座と為れりと、是れなり。
 道宣、勅して西明寺の上座と為る、寺主・維那の上に列す。
    『緇門正儀』6丁表、訓読は原典を参照しつつ当方


こちらの一節だが、これまでの連載記事と同様に、『大宋僧史略』巻中からの引用である。ただし、上記の一節は、「雑任職員」という項目からの引用で、その中にたまたま「上座」への説明があったので、引用された印象である。なお、上記一節で引用している『集異門足毘曇』だが、いわゆる玄奘三蔵訳『阿毘達磨集異門足論』のことである。そして、同論の巻4「三法品第四之二」に、上座の一事が出ているのだが、以下のような様子である。

三上座とは、謂わく、生年上座、世俗上座、法性上座なり。
    『阿毘達磨集異門足論』巻4


正直なところ、こちらの方が分かりやすい。それで、同論では、この三上座についての説明も付記されている。

 云何が生年上座なるや。
 答う、諸有の生年の尊長耆旧なる、是れを生年上座と謂う。
    同上


これも分かりやすいと思う。それから、3番目の「法性上座」についても、説明は分かりやすい。

 云何が法性上座なるや。
 答う、諸もろの具戒を受くるの耆旧・長宿、是れを法性上座と謂う。説くこと有り、此れ亦た是れ生年上座なり。所以は何。仏、出家し具足戒を受くるを真生と名づくると説くが故に、若しくは苾芻有りて阿羅漢を得て、諸もろの漏永く尽きて、已に所作を作し、已に所弁を弁じ、棄諸もろの重担を棄てて己利を逮得し、諸もろの有結尽きて、正智解脱し、心善く自在なり、此の中の意を説いて、是の如くを名づけて法性上座と為す。
    同上


「法性上座」とは、先の『緇門正儀』と同じように、受戒し、証果を得た者という定義を示しているが、こちらでも、受戒してから年数が永い者を前提にしているが、それだと「生年上座」と変わらなくなるため、証果(上記では阿羅漢果)を得た者を「法性上座」とするという。

さて、ここまではまだ理解が可能である。問題は、「世俗上座」だと思うのだが、『緇門正儀』の文章を見ると、その立場をお金で買うような印象があるが、実際はどうなのだろうか?

 云何が世俗上座なるや。
 答う、如しくは法を知る富貴の長者有りて共に制を立てて言わく、諸もろの法を知ること有りて、大財・大位、大族・大力、大眷属・大徒衆、我等に勝れる者、我等、皆な応に推して上座と為し、供養・恭敬・尊重・讃歎すべし。此の因縁に因りて、年の二十、或いは二十五なりと雖も、若しくは能く法を知りて、大財位・大族・大力を得て、大眷属・大徒衆有る者、皆、応に和合して推して上座と為し、供養・恭敬・尊重・讃歎すべし。〈中略〉是の如く等の事、無量種有り、今、此の意、長髪の王種、難陀王の時、世俗上座なり。
    同上


ちょっと良く分からないのだが、やはり、法を知りつつ、世俗的な様々な財産や地位を持っている者、或いは技術を持っている者を、「上座」に推すという。これを、「世俗上座」としているので、何だろう?後にいうところの、「大檀那」みたいなものだろうか?そういえば、今回のことを調べている時に、これら「三上座」と、禅宗の首座との関わりを調べてみた。

(三上座を挙げて)古今、此の位を立す。皆、其の年徳幹局を取る者、之を充つ。今、禅門の謂う所の首座とは、即ち其の人なり。
    『祖庭事苑』巻8


要するに、「三上座」のような年齢と徳がある者を、首座に充てているという。ただし、世俗上座は違う気がするのだが、この辺はどうなのだろうか?今後も、機会があれば調べてみたいと思う。

【参考資料】
釈雲照律師『緇門正儀』森江佐七・明治13年

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