つらつら日暮らし

「菩薩戒」と「戒名」について

「戒名」とは、「本来の仏教」には必要ないと主張する人がいる。当方では、「本来の仏教」の定義について、延々と議論してみたいという欲求に駆られるのだが、それは些末なことなので、ここでは措いておく。

それで、「戒名」に因むような議論を少し見ておきたい。

此仏戒の中にて名を立るに不瞋恚と云へども、「位同大覚位、真是諸仏子」なれば、仏位にては何様に持すべきか。「菩薩戒を受け菩薩の名を得れば、常に慈悲心・孝順心を生ずべし」云々。衆生心は慈悲心なり、孝順心なり。一念とも一心とも云べし。初一念の時、先衆生を哀む心、是孝順心なり。
    『梵網経略抄』「第九不瞋恚戒」、下線は拙僧


この下線部をご覧いただければ一目瞭然なのだが、この箇所に於いて、「菩薩戒を受け菩薩の名を得れば」とある。これは、いわゆる特定の固有名を伴う名称を指摘しているかは、実は不明ではある。何故ならば、戒を受ければ「菩薩という名前」を得ると解釈できるためである。『梵網経略抄』には他にも、「声聞の名」などについて言及する箇所もある。

声聞は一戒をも破すれば、永く声聞の名をけずる。
    同上、十戒再挙


これは、結局「名」ということが、そのような「存在」を意味するように思われるのである。他にも、以下のようにある。

菩薩は自未得度先度他と立て、わざと破戒の事もあるべし。是は慈悲を体として持つときに、物の命をころさじと思ふ。故に八分・九分を破すとも菩薩の名はあるべし。
    同上、十戒再挙


ここにも、「菩薩の名」とあるが、これもやはり、「菩薩という存在性」とでも解釈した方が、上手く行くように思われるのである。ただ、ここからは拙僧自身の想いというか、主観も含めた解釈になっていくけれども、結局「菩薩の名」とある時、であれば、皆、とりあえず「菩薩」とだけ呼べば話は済むのか?という問題がある。それぞれに区別が付かなければ、幾ら「菩薩」と呼ぼうと、誰が誰だか分からなくなってしまう。そう考えるとき、「○○菩薩」と呼ばれる可能性まで捨てることは出来ないように思うのである。

その意味で、例えば以下のような文脈はどう理解すべきであろうか。

 般若多羅広く坐禅の妙理を指説す。師聞て無上智を発す。
 乃ち般若多羅示して曰く、汝諸法に於て已に通量を得たり。夫れ達磨は通大の義なり、宜く達磨と名くべし。
 因て号を菩提達磨と改む。
    瑩山紹瑾禅師御提唱『伝光録』第28章


我々禅宗の祖師である「菩提達磨」は、元々「菩提多羅」という名前であったという。しかし、本師である般若多羅は、達磨が「無上智」を発し、あらゆる「法」に通じたことから、その「通大の義」をもって、「達磨」と名乗るべきだといい、改名させたのである。これこそ、仏道に入るために名を改めた例である。

・光、神助なるを知て、因て名を神光と改む。
・師、遂に因て与に名を易て慧可と曰ふ。
    ともに『伝光録』第29章


これは、達磨大師の弟子である中国禅宗二祖の慧可大師に纏わる話だが、ここでもやはり「改名」について採り上げられている。いわば、当初の名前を捨てることで、仏道に入ったことを示す。そうなると、改名を毛嫌いする人がいるとき、そこには「世俗への執着」があるように思われる。

そして、その執着を捨て去った「形」を示すために、「髪を剃り」、「衣を改める」といえる。特に、菩薩とは、宗教的な制約が強い。誓願も要するし、その生き方にも、或る程度の縛りが強いわけである。よって、より強く生き方を示すために、「名前」も変える必要があるといえる。その時、既に世俗を捨てたことがある「先達」によって、その方向を導いて貰う必要がある。よって、戒を持っている僧侶から戒を受け、その時に新たな名を貰うのである。これが、現在では「葬儀」の準備段階で行われることが多いのである。

それがあってか、禅宗では日本伝来当初から、在家信者に「仏教徒の名前」を授けていた。しかし、そこで出家者を真似ていたというのは、先に挙げた『梵網経』などで、四衆の戒を分けるべきではないという「解釈」が、儼然と存在していたためであり、その上で、僧侶は少しでも仏道に親しんでもらうために、「仏教徒の名前」を授与し始めたといえる。しかも、その時には、より深く接して貰うために「菩薩の名」を与えていた。そうでなくては、「四衆同じ」とはいかないからである。

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