菩薩戒を受くるに五利有り
梵網経の偈に云く、明人の忍慧強て能く是の如き法を持する。未だ仏道を成ぜざる間、五種の利を安獲す。
一つには十方仏、愍念して常に守護す。
二つには命終の時、正見にして心歓喜す。
三つには生生の処、諸菩薩の友と為る。
四つには功徳聚、戒度悉く成就す。
五つには今後世、性戒福慧満つ。
『釈氏要覧』巻上、原漢文
これは、『梵網経』巻下の巻末部分に見える偈頌である。それを「受菩薩戒有五利」だとしているのである。なお、この「五利」を挙げているのは、本経のみであるようなので、『梵網経』及び同経で説かれる菩薩戒の功徳を広く示すために、収録されたものだと推定できよう。
それでは、具体的にはどのような利点を示しているのだろうか。
まず、一つには十方に在す仏陀が、菩薩戒を受けた者を常に慈悲の心でもって守護してくれるという。そもそも、本経では【「我今盧舎那、方坐蓮華台」について】で示したように、盧舎那仏の在す仏土に於いて展開されているため、容易に理解出来ることだと言えよう。
そして、二つには菩薩戒を受けた者が臨終を迎えても、死の恐怖などによって混乱すること無く、正見を保つという。その結果、心が歓喜するというが、これは、正見を保つことによって、例えば、阿弥陀仏の来迎なども期待出来るからだといえよう(厳密には、「臨終正念」とはいうが)。
また、三つには菩薩戒を受けた者が生まれ変わりをしても、常に諸菩薩が友になってくれるという。これは、同行善知識などを示しているといえよう。
それから、四つには功徳が皆集まってくるとし、戒度(尸羅波羅蜜)が尽く成就するという。つまり、菩薩戒の成就がなるという。よって、菩薩戒を受ければ、自ずとその成就が達成されるという論理になる。この辺は、実はこれまで考えたことが無かった。
よって、五つに繋がるのだが、今世も後世も、性戒が具わり、福慧が満ちるという。つまり、戒だけでは無く智慧も全て具わるのである。このような五つの利点があるとすれば、やはり自ずと菩薩戒を受けることになるだろう。この記事を読まれた方にも、是非、機会があれば、菩薩戒を受けていただきたいものだ。
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