つらつら日暮らし

敬光尊者『山家正統学則』に於ける「四箇の伝法」と達磨一心戒

この敬光尊者(1740~1795)は、天台寺門宗の学僧であり、江戸時代中期の同宗を代表する僧侶であるといって良い。ちょうど、学僧として活躍したのは、他の宗派でも学問が振るった時期であったと思われる。なお、この敬光尊者は、かの慈雲尊者飲光(1718~1805)にも師事しているという。

そこで、この敬光尊者の著作の1つに比叡山での天台宗の学びについて論じた『山家正統学則』を見てみると、尊者が同時代の他宗派について関心を持ち、様々に論じていることが分かるのだが、同宗派に於ける「四箇の伝法」を論じる項目で、気になる一節があったので、それを見ておきたい。

ところで、「四箇の伝法」であるが、本書では「北嶺両寺の四箇の伝法とは」と言うことで、以下の四つをあげている。

・第一は達磨所伝の一心戒是なり。
・第二には天台所伝の法華宗是なり。
・第三には天台所伝の梵網宗是なり。
・第四には三聖所伝の台密是なり。


当方が最近拙ブログで論じている仏教の戒律という観点からすれば、この場合は第一と第三に関心が持たれるところである。ただし、「梵網宗」の話については、また別の機会に論じたいと思っているので、まずは「達磨所伝の一心戒」について考えておきたい。この考えというか、所伝については、伝教大師最澄が『内証仏法相承血脈譜』の系譜に挙げたこともあり、後には伝教大師の門人である光定による『伝述一心戒文』の成立にまで至った。

そこで、本書では以下のような位置付けを行っている。

第一は達磨所伝の一心戒是也。是は宿植の機ありて一心に見性を求むれば、此一大事も亦遂難き事にも非ず、禅門には是を悟道と云、台門には是を開解と称す。開解なき人の用観すと言事、予未だ之を聞ず、其開解の上に達磨所伝の一心宗を伝付す。是を一箇の伝法とす。
    『山家正統学則』巻下


つまり、臨済宗などで主に説かれる「見性」については、天台宗では「開解」に当たるという。当方的には、この「開解」が何を意味するのかが理解出来ていないのだが、上記の通りであれば悟道などの意味で用いられていることだとは分かる。そして、面白いと思うのは、この「開解」に至ったと思われる人に対して、達磨所伝の「一心宗」を伝付するという。おそらくは「一心戒」と同じ意味だと思うが、広く悟道した事実の上であれば、諸宗派の奥義などを統合的に伝授し得るものであったと認識されていたのであろう。

或る意味、ユニテリアン的な要素も見て取れる気がするのだが、最澄の『内証仏法相承血脈譜』自体への評価を通して、その辺が考えられるのかもしれないな、とは思った。

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