つらつら日暮らし

悉多太子の修行について2(拝啓 平田篤胤先生16)

前回の記事は、「悉多太子の修行について1」と題して、篤胤自身が釈尊の修行の様子などをどのように考えていたかを確認した。今回は、釈尊の修行について更に、どう語られていたかを概観してみたい。

 扨悉多は右の阿羅邏仙人に逢て、生老病死を断ずるの法はいかにと問ふた所が、阿羅邏が答へて、衆生之始始於冥初。従於冥初、起於我慢。従於我慢、生於痴心。従於痴心、生於染愛。従於染愛、生貪欲瞋恚等諸煩悩、於是流転生老病死憂悲苦悩といふ。
 悉多また問ふには、其説をきいて生死の根本は解し得たるが、それを断絶することはいかにといへば、仙人がこの生死の本を断ぜんと欲するならば、出家して修持戒行謙卑忍辱。住空閑処修習禅定、離欲悪不善法離於種種相、入非想非非想処。斯処名為究竟解脱是諸学者之彼岸也。汝若以断於生老病死患、まさにかくの如きの行を修学すべしと論じたでござる。
 悉多は其説を聞てまたいふには、非想非非想処為有我耶。為無我耶、若言無我、不応言非想非非想処。若言有我、我為有知。為無知。若無知則同木石。我若有知則有染著、有染著則非解脱。一切尽捨、是則名為真解脱といはれて、阿羅邏仙人もひしとつまつて黙然として居たと有ますが、よく思へばこの悉多がいつた趣は、たゞ弁才にまかせていつたことで、阿羅邏が説よりは大きに無理でござる。
    『平田先生講説 出定笑語(外三篇)』40~41頁、漢字などは現在通用のものに改め、段落を付す


以上である。これは、沙門となった悉多太子がアーラーラ・カーラーマ仙人のところに行き、生老病死を断ずる法について尋ねた様子を示している。なお、上記の文章で、漢文となっている部分の典拠は、『過去現在因果経』巻3である。ただ、各々の文章について、少しずつ略したり、主語を変えたりはしているが、ほとんど原文のまま用いている。

あくまでも、『因果経』の見解ではあるが、アーラーラ仙人の言葉に対して、釈尊が真の解脱について説いたため、アーラーラ仙人は言葉を詰まらせた、とある。しかし、その様子に対して、篤胤は非常に批判的であり、アーラーラ仙人の説の方が道理があると主張していることになる。

よって、その理由などを考えつつ、反論が可能か見ておきたい。また、この問答が実際に存在したかどうか、その検証は当方の学力などでは困難であるので、まずは、これが行われたと仮定して、あくまでも篤胤の所説への反駁を目指して検討したい。

まず、アーラーラ仙人が、生老病死を断ずる方法として示したものは、衆生の始めは冥初であり、そこから我慢が起き、更に愚かな心が起き、そこから執着心が生まれ、そして、三毒などの煩悩が起き、それによって生老病死に流転し、苦悩が起きるとしたのである。後の、釈尊の十二因縁説との関係が問われるところである。

そして、釈尊はこの説に対して、「生死の根本」については理解出来るが、その方法までは分からないではないか、と指摘する。そこで、アーラーラ仙人の答えが、戒行や、忍辱などを修行し、静かなところで禅定修行を行い、悪や不善の種種相を離れ、非想非非想処に入り、その処に至ることが、究竟解脱であり、学者の「彼岸(これを、篤胤は「ごくい(極意)」と呼んでいる)」に至るべきだという。

しかし、釈尊はそれへ反論し、そこまで意識的な働きを否定する非想非非想所まで至れば、なるほどその時だけでは木石と同じようなものであるが、もしまた意識的な働きが再開されれば立ち所に汚されてしまうので、結果として、解脱にはならない、と述べたというのである。

こういう言い方に対し、どうも、篤胤は気に入らなかったのか、「ただ弁才にまかせていつたこと」と批判していて、更には、アーラーラ仙人の説の方が良かったと述べているのだが、その詳細はまた次回の記事で見てみよう

【参考文献】
・鷲尾順敬編『平田先生講説 出定笑語(外三篇)』(東方書院・日本思想闘諍史料、昭和5[1930]年)
・宝松岩雄編『平田翁講演集』(法文館書店、大正2[1913]年)
・平田篤胤講演『出定笑語(本編4冊・附録3冊)』版本・刊記無し

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