その中に、以下の一節があった。
○儀式
第一号〈一月四日〉
今厳改暦ニ附人日上巳端午七夕重陽ノ五節句ヲ廃シ
神武天皇即位日天長節ノ両日ヲ以テ自今祝日ト被定候事
第二十九号〈一月廿二日〉
来ル廿九日
神武天皇御即位日相当ニ付御祭典済後宴会被為行候事
第九十一号〈三月七日〉
神武天皇御即位日紀元節ト被称候事
『布告類編』巻1・42丁表~43丁表
どうも、この一連の記載が、「紀元節」を定めた経緯であるらしい。そこで、江戸時代までは、いわゆる「五節句」をそれなりに重んじていた。これは、拙僧の手元にある三田村鳶魚編『江戸年中行事』(中公文庫・1981年)に収録される享保20年の「江府年行事」を見ても明らかで、人日は「七種御祝儀」、上巳は「「上巳御祝儀」、端午は「端午の御祝儀」、七夕は「七夕祭」、重陽は「重陽の御祝儀」となっており、御祝儀とある通り、祝祭を行っていた。
ところが、この五節句を廃止してしまったのである。理由は、上記「第一号」にある通りで、「改暦」が大きかったと思われる。日本では明治5年にそれまでの天保暦(太陰太陽暦)を廃止して、グレゴリオ暦(太陽暦)へと変更した。その結果、明治5年は12月2日でもって終わり、翌日が明治6年(1873)1月1日となった。
その結果、旧暦に基づく「五節句」は、本来の暦とほぼ1ヶ月ずれることとなり、機能しなくなったのである。例えば、近年でも「上巳」を「桃の節句」とはいうが、地域によっては桃の花は4月の方が綺麗だったりする。9月の「重陽の節句」も「菊の節句」とはいうが、菊は10月の方が綺麗である。よって、これを廃止するというのは、確かに合理的ではある。その結果、神武天皇即位日と天長節(天皇誕生日)をもって、祝日にしたのであった。
さて、それで、問題は「神武天皇即位日」になるのだが、上記「第二十九号」に見る通りで、「1月29日」をそれに充てたことが分かる。これが、現在とのずれが生じてしまっている。しかも、最初の1年(明治6年)に於いては、まだ「紀元節」と呼称されていない。ただし、「第九十一号」の布告があって、「神武天皇即位日」は「紀元節」と呼称されるようになった。これが、戦後すぐまで用いられていたことになる。
で、問題は日にちのずれである。この辺、「紀元節」でネットの様々なページを見ると、必ず、「太政官布告第三百四十四号」を挙げている。そこで、それを調べてみると、先ほどと同じ明治6年『布告類編』巻2に、以下の記述を見出すことが出来た。
第三百四十四号〈十月十四日〉
年中祭日祝日等ノ休暇日左ノ通候条此旨布告候事
元始祭 一月三日
新年宴会 一月五日
孝明天皇祭 一月三十日
紀元節 二月十一日
神武天皇祭 四月三日
神嘗祭 十月十七日
天長節 十一月三日
新嘗祭 十一月廿三日
前掲同著32丁裏~33丁表
ここでは、「紀元節」が2月11日になっている。つまり、明治6年に一度、「1月29日」で神武天皇即位日についての祝日を行い、翌年から、「紀元節」として「2月11日」に行った、という理解で良いようだ。なお、変わってしまった理由だが、元々、これらの祝日は当初の旧暦から、年ごとに換算して定めるつもりだったようだが、かなり煩雑なのでそれを止めたということがあるらしい。その際、「1月29日」は、孝明天皇祭に1日違いで重なってしまうので斥け、翌年向けにまた計算し直して、「2月11日」にしたという。
この結果、「紀元節」は一般的に、以下のように広まった。
紀元節
本日は旧暦の正月元日にして 大祖神武天皇日向より兵を起し中州を平定し創て都を山との橿原に建て大位に即せ給ふ日にて即辛酉元年正月元日に当り元年を紀せし始めなり 故に紀元節といふ 今を距ること二千五百三十五年なり
城井寿章 (悔庵) 『歳時行事(上)』明治11年、19丁表~裏
「紀元節」も定着してきた明治10年代の文献には、上記のように書かれ、いわゆる神武天皇が即位した日を、1878年(明治11)から2535(+1)年とし、更に紀元0年は無いなど、諸事勘案すると、紀元前660年(辛酉)となる。そこで、同年の1月1日を明治11年に換算すると2月11日になったので、この日を「紀元節」にしたということらしい。
色々と調べてみたけど、ネットですぐに調べられるような換算ページを使っても、余り良くは分からないようだ。
そんなわけで、正直なところ、神武天皇って誰?という感じではあるが、この日が「建国記念の日」となっている由来は上の通りなのであった。
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