但し十重禁とて、一切諸悪の根源たる十悪を禁じ戒むるなりことを、十重禁戒といふなり、其の戒相を略解すること左の如し
△十重禁戒〈これは梵網経の説相を略解す〉
第一殺戒 此は命あるものを、殺ことなかれと、戒むるなり
第二盗戒 此は主ある物を、盗ことなかれと、戒むるなり
第三婬欲戒 此は男女にかぎらす、婬することなかれと戒むるなり、出家は元より婬を断、在家正婬とて夫婦はゆるす、但し仮令夫婦なりともつヽしむべき時所あるべし
第四妄語戒 此は身心に、うそ云ことなかれと、戒むるなり、口にていふ計にもあらば、しかたにていつはるをも、戒むる也、物の命をすくふ為に、いつはるは破戒とはゐはざるなり
第五酤酒戒 此は諸の酒うることなかれと、戒むるなり、又人をむりに酔せることも制す
『浄宗円頓菩薩戒』、変体仮名は現在通用のかなに改める
まず、本書では十重禁戒の端的な意味を示しているのだが、「一切諸悪の根源たる十悪を禁じ戒むる」としている。だが、この場合の「十悪」というのは、「十善・十悪」の問題になると思われ、そのため、ここには少しく疑問点を感じるが、もちろん、「十重禁戒」で示す悪事が根源的では無いとはいえない。
さて、ここで示す戒相とは、『梵網経』に於ける十重禁戒を略説している。まずは、その前半五戒を紹介しておきたい。まずは不殺生戒である。端的に、命あるものを殺してはならないとしている。現代的な話になると、何をもって「命あるもの」と分類するのか、それが困難ではあるが、この場合は動物ということになるのだろう。
続いて不偸盗戒である。これもまた、盗んではならないということであるが、「主ある物」としている辺りに、特徴があると思う。
また、不婬欲戒についてだが、これは在家者と出家者で違う、という解釈が一般的である。何故ならば、性行為に対する態度が根本的に異なるからである。上記の通り、出家の場合は全ての婬欲を断つべきだとされているが、在家の場合は夫婦による性行為は許されるとされるので、性犯罪はもちろんのこと不倫などは認められない。また、夫婦であっても慎むべき機会があるとされるが、これは「斎日」に関わる話である。
それから、不妄語戒である。ウソをついてはならないということであるが、ウソというと口から出るものとされるが、ここでは「仕方にていつはる」事も禁止されている。よって、「身心に、うそ云ことなかれ」とされているのである。ただし、「ウソも方便」は認めていることは確認されて、興味深い。
五番目不酤酒戒であるが、これはたまに、「不飲酒戒」と混同されるところだけれども、『梵網経』の本文では「酒を売らない」という意味の戒である。酒屋さんなどは困る戒ではないかと思うのだが、本来は寺院などで酒を売ることを禁止する目的があったのではないかと思う。そのため、先ほどの不婬欲戒に同じく、これも出家・在家で分けるべきだと思うのだが、何故かこちらはそういう措置が執られていない。
なお、「又人をむりに酔せることも制す」とあるが、これは『梵網経』の本文には見られない指摘である。おそらくは本書が編まれた際に付け加えられたものかと思うが、現代では「アルコールハラスメント(アルハラ)」なんていう言葉も用いられるようになっており、かえって時代に即応する戒めであるようにも思う。
まずは、以上のように十重禁戒の前半五戒を採り上げてみたが、これらは個人で護持するべきものである。後半五戒には、個人には限定されない場合も見られるので、それはまた続編で見ていきたい。
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