格差と貧困ゼミぶろぐ

東京大学「格差と貧困を考える」ゼミのブログです。授業やフィールドワークの内容をお伝えしていきます!

現代の奴隷制度:外国人研修、技能実習生問題

2011-05-19 23:00:00 | 活動報告

今回のテーマは「外国人研修・技能実習生問題」です。ゲストは元研修生のTさんと、この問題の第一人者である指宿弁護士です。

 外国人研修・技能実習制度は、建前上は外国人を受け入れて日本で技術や日本語などを学んでもらうという国際貢献を謳った制度です。しかし実際は日本の零細企業や農家の人手不足を補うために外国人を超長時間劣悪な環境・低賃金で働かせる制度です。日本は名目上は外国から単純労働者を受け入れていないので、「研修」や「技能実習」という形で働かせようということです。

どれほど酷い労働条件かというと、ざっとこんな感じです。
残業が月160~200時間 (ある縫製工場では、忙しいときは朝の6時まで働いてから食事 して、また8時から働く…)※過労死ラインは月80時間
・最低賃金を大きく下回る。時給300円というケースが珍しくな  い。
・しかも強制「貯金」として月数万とられることもあり(返してもらえる保証はない)、これだけ働 いて月6万程度しかもらえないこともある。
・寮は壁に穴が空いていたりしてかなり寒い。コートを着たまま食事したり、ペットボトルにお湯 を入れて抱いて寝たりしている。
※環境は仕事場によって様々なのでここまで酷くはないケースもありますが、ほとんど全ての仕事場が日本人なら許されないような劣悪な環境です。

 その結果、
・2008年の外国人研修・技能実習生の死亡者が35名。うち脳・心臓疾患での死亡16名、自殺2 名、作業中の死亡者5名。研修に来る人の多くは健康な20代前半の男女なことを考えると脳・心 臓疾患の割合が高すぎます。過労死の可能性が高いです。
・過労で体調を崩したり、作業中の事故で障害が残ってしまうことも。指宿さんが出会ったある女 性は生理が止まってしまったそうです。

 しかも、研修生はこの酷い状況から逃げられない仕組みになっています。
・来日費用として2年分の年収に匹敵する額をとられるほか、違約金・保証金として家屋を担保に 入れたりしないといけない→稼がないと帰れない
・日本人や他の研修生との交流禁止、ケータイ没収、パスポートと印鑑没収
・労働組合に訴えたりすると、帰国後違約金を請求される、脅し・嫌がらせをされる

 なぜこんな制度が維持されているかというと、以下のような理由によります。
・出稼ぎビジネスしかないような地域が中国に存在する
・外貨獲得のための国策となっている面もある
・中国は社会保障制度が遅れているため、人々は暮らしのためにお金を必要としている
・中国では成功例だけが喧伝されてる、研修生以外の出稼ぎの成功者が多数いる→日本への憧れが強い

こうした状況と、日本側の安い労働力ニーズによってこの制度は維持されています。例えば、栃木の農業はいまや研修生がいないと成り立ちません。

 この制度によって人権を踏みにじられた多くの研修生や過労死した人の遺族は、日本人全体への不信感を強めています。(今回のゲストのTさんはかなり例外的で、「日本人にも良い人と悪い人がいるし、日本のことは好きだ」と言ってくださいました。)
 国際貢献を謳っている制度のせいで日本に対する憎悪が生まれているというのはかなり皮肉なことです。この問題は日本ではあまり知られていませんが、海外ではかなり取り上げられていて、日本の恥として知られています。

 
 指宿さんは、「この制度は即刻廃止すべきだが、現在ある労働力需要をどうするかというのも考えなくてはいけない。今の政治家・官僚は、外国人をどうやって受け入れるべきか、そのための制度をどう構築するかという議論を真正面からやる力がない。けれどいずれはやらないといけない」と仰っていました。制度の廃止だけでは問題は終わらないということです。背後にある日本の労働力需要の問題まで含めて、これから私たちが考えていかなければならない課題なのではないでしょうか。


(文責:稲垣)


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