今回は、ドキュメンタリー映画「フツーの仕事がしたい」を鑑賞しました。
この映画は、トラック運転手の皆倉信和さんが、労働組合の仲間とともに戦い「フツーの仕事」を手に入れる物語です。詳しくはこちら http://nomalabor.exblog.jp 2008年制作/70分/土屋トカチ監督。
※以下は映画のあらすじになりますので、ネタバレを避けたい方は読まないことをお勧めします。
【過酷な労働環境】
皆倉さんは、高校を卒業し運送関連の仕事を転々とした後、東都運輸という会社でセメント輸送運転手として働き始めました。しかし東都運輸は、オール歩合制といって、運んだ分だけ給料が入るという制度をとっていました。最長で月の労働時間が552時間におよぶこともあり、睡眠時間を含む自分の時間は1日に5時間しかありません。それだけ働いても月給30万程度で、残業代も出ず社会保険もありません。さらに「会社が赤字だから」といって賃金が一方的に下げられることもありました。それでも皆倉さんは、周りの同僚も同じだけ働いているため「この業界ではこれがフツーなんだ」と思っていました。
【労働組合への加入】
その後、燃料まで運転手が負担する制度になり、さすがにこれでは生活していけないと感じた皆倉さんは労働組合「連帯ユニオン」に入りました。
連帯ユニオンは「誰でも一人でもどんな職業でも加入できる」労働組合です。皆倉さんの職場では他に労働組合に入っている人はいませんでしたが、「一人でも入れる」という言葉を頼りに加入しました。組合に入り、初めて自分の労働環境が異常なことに気づきます。
【ヤクザの脅迫】
しかし、組合への加入を会社に通告したときから、会社ぐるみの組合脱退工作が始まりました。組合を辞めるよう社長だけでなく、社長の友人を名乗る工藤というヤクザが出てきて皆倉さんを脅しました。映画では社長や工藤とユニオンの代表が会社の事務所で激しくやりあう場面が克明に映し出されています。
さらに工藤は、皆倉さんのお母さんの葬儀にも何人もの男を引き連れて押し掛けました。このとき組合員に暴行しています。怖いのは、工藤が連れてきた男たちも最初ヤクザかと思われましたが、実際は工藤に雇われただけの運転手だったということです。立場の弱い労働者(運転手)が、本人の知らないうちに利用され、同じ立場の労働者を虐げるのに使われているという構図はおぞましいものがあります。
【親会社との戦い】
皆倉さんや組合が戦わなくてはならない相手は、東都運輸や工藤だけではありません。親会社も相手取る必要があります。この場合、東都運輸(孫会社)―FUCOX(子会社)―住友大阪セメント(親会社)という下請け構造になっています。よって、東都運輸の社長にいくら労働条件改善の要求を出しても、決定権が親会社にある場合その要求は通りません。
葬儀の一件のあと、工藤が東都運輸の労務担当役員に就任したと組合に通告がありました。組合はそれに対し抗議ストライキしました。それだけでなく、ヤクザである工藤の就任を知りながらも東都運輸を使い続けているFUCOXに対しても組合は抗議しました。
同時に、組合はFUCOXに対し過積載も告発しました。しかしFUCOXは、「積載については本社(住友大阪セメント)が一元管理している」と責任を回避しました。
それを受け、ついに組合は大阪住友セメントに団体交渉を申し入れました。しかし大阪住友セメントは応じなかったので、強硬手段として本社前でデモを行いました。路上で白い布を掲げ、皆倉さんの戦いの記録映像を映し出しました。
デモが功を奏し、大阪住友セメントは事態の解決を約束しました。
【その後】
半年後、皆倉さんは仲間とともに、新会社で「フツーの」労働条件で働くことになりました。東都運輸は事実上廃業し、FUCOXは「クアトロ物流」という名前に変わりました。
これは、労働現場の過酷な現実を表すとともに、それに対しどう戦うかという問いの一つの答えを示している作品です。また、映画として面白いのでトラック運転手でなくても感情移入できると思います。まだ観たことのない方は一度観てみてはいかがでしょうか。
(※各地で上映会が行われているほか、2011年11月にはDVDが発売されます。詳細は上記URLへ。)
(文責:稲垣)