今回は女性と貧困、特に母子家庭の抱える貧困について、母子家庭の互助組織「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事の赤石千衣子さんにお話し頂きました。赤石さんは、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の他、ジェンダーの視点に立った新聞を発行する「ふぇみん」共同代表、「反貧困ネットワーク」副代表を務めるなど、様々な形で女性の貧困問題に関わってこられた方です。
女性の貧困といってもぴんと来ない方も多いのではないかと思いますが、日本の母子世帯の平均年収は両親がいる世帯の半分以下で、213万円(平成18年全国母子世帯等調査結果より)。日本のシングルマザーの就労率は世界的に見ても高いにも関わらず、非正規雇用者が多く、ワーキングプア状態に陥っているのです。母子・父子家庭の貧困率は5割以上(2007年厚生労働省)ということもわかっています。
支援策として現金給付(児童扶養手当)が採られていますが、近年では現金給付から就労支援へシフトチェンジしており、例としては母子家庭就業自立センターや母子自立教育訓練給付金があります。母子家庭の約1割が、最後のセーフティネットとされる生活保護を受給していますが、「水際作戦」と呼ばれる窓口での申請拒否や、大都市以外の地域では車保有がハードルとなって、必要なのに受給できない家庭が多いのです。
ワーキングプアのシングルマザーは、長時間労働ゆえに、また、ダブルワークをする人も17.5%と多いため、平日に子どもと過ごす時間は平均46分だとか。金銭的にも子育てに余裕がなく、それが子どもの教育格差にもつながっています。
日本の子どもの貧困率は1割を超えており(2008年:OECD)、教育費用の家庭負担が非常に重い(家族関連の給付が少ない上、教育関連の公的支出も少ない。さらに、日本は所得再分配が機能せず、控除は高所得者に多く適用されている)ため、親の収入が多いほど大学進学率も高くなっています。親の収入が子どもの学歴に直結し、学歴は就職にも影響を及ぼすことから、ひいては子どもの収入にまで関わってしまうということです。子どもの貧困の現在の課題は、子ども手当、就学援助・給付型奨学金、保育・学童クラブ、不登校児支援、子どもの医療費、学習支援、国公立大学授業料無償化など数多く、幅広い支援が必要となります。
ところで、「女性の貧困」というからにはシングルマザーの話だけではありません。若い女性の非正規化の激化、女性の半分以上が非正規雇用者であること、女性の3分の2が年収300万円以下であること、高齢女性の貧困…ほぼ全世代に渡って女性は男性より貧困状態にあります。この背景には、「男性片働きシステム」(妻付き男性モデル)を前提とした社会制度があり、被扶養のパート女性や派遣女性の働き方が拡大してきました。パートや派遣は企業にとって雇用しやすい形態なので、企業がそれを促進するわけですが、生活満足度はパート女性が最も低いとか。
これからの社会に必要なのは、性に平等・中立な制度を作ること、保育・介護分野での仕事の創出、労働者派遣法の改正、中間的セーフティネットの創出、家族関係予算・教育支援の充実、所得再分配を正常に機能させること。さらに、自己責任論で貧困を考えるのではなく、つながり、助けを求めていいという文化が必要とのことです。
今回は東北の被災地の話も出ましたが、避難所では乳児を抱えるシングルマザーが夜泣きで肩身の狭い思いをしていたり、周りに頼れる人がいなかったり、女性視点の避難所運営ができていなかったりと、苦労する女性が多いとか。そういう時に、血縁者でなくても誰かに助けを求められる状況だったら、ずいぶんと変わるはずです。
格差や貧困と聞いても自分は関係ないと思ってしまう人も多いのではないかと思いますが、今回の話と、人口の半分が女性であることを考えると、とても身近なものだと言えるでしょう。
(文責:上野)