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冬の駅から#3

2021年04月10日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ

焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ  (47)

冬の駅から #3


街はしーんと寝静まったまま、天空から降ってくる雪だけが、
街灯の明かりに吸い込まれるように無音で舞っている
ふいにガラガラっという音がして振り返ると、
石炭バケツと細長いトングを手にした駅長が待合室に入って来た。

「今日はどっか出かけんの?」
「東京へ」
「ありゃま、東京!そりゃ遠いとこまでなぁ。
 始発はさっき旭川出たからさ、あと30分くらいで着くんじゃないかい」
「千歳発の飛行機、9時の便予約してるんですけど大丈夫ですかね?」
「まぁ、もう少ししたら雪もおさまるべさ。何とか間に合うんじゃないかい」


そう言いながら駅長は、かなり冷え込んでいた待合室のダルマストーブに石炭を

くべ始めた。

「東京は何で?」
「あ、向こうの大学に」
「あ、そっかそっか。そしたら今日は記念すべき旅立ちの日だべさ。そっか。

 だけど、向こうはさ、もうあったかいんじゃないかい。羽田着いたら、

 セーターだと暑いかもよ」
「そうなんですか?」
「3月半ばにもなると東京はもう暑いらしいんだわ。家の娘も東京で仕事してっから、
 この前電話で言ってたわ。こっちはもう暖ったかいよーって。うん。
 ま、とにかく体に気つけてさ、しっかり頑張って。電車来たら呼んでやっから」
「ありがとうございます」

この駅もずいぶんと思い出がある。
小学生の頃、この駅は絶好の遊び場だった。

駅舎の端にある鉄扉から出入りして、跨線橋の階段を駆け上がり、
向こうの線路脇にあった石炭の山で友達とよく遊んだ。
時には貨物室とか駅長室
にも出入りしたが、駅員達に怒られることは一度もなかった。
「ボク、そこのたぬき食堂の子か?」
「ちがうよ。あれ、伯父さんの店」
「そっか。よくあそこにいるから息子かと思ってたわ。そうだ、ボク達ちょっと手伝えや」
駅員にそう言われて、貨物カーゴを引いてあげたりもした。

さっきの駅長はどこからか転勤して来たのだろう。知らない顔だったので
僕もそんな話はしなかった。



                  続ー




           星空Cafe、それじゃまた。
             皆さん、お元気で!

  

              












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