焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ (47)
冬の駅から #3
街はしーんと寝静まったまま、天空から降ってくる雪だけが、
街灯の明かりに吸い込まれるように無音で舞っている。
ふいにガラガラっという音がして振り返ると、
石炭バケツと細長いトングを手にした駅長が待合室に入って来た。
「今日はどっか出かけんの?」
「東京へ」
「ありゃま、東京!そりゃ遠いとこまでなぁ。
始発はさっき旭川出たからさ、あと30分くらいで着くんじゃないかい」
「千歳発の飛行機、9時の便予約してるんですけど大丈夫ですかね?」
「まぁ、もう少ししたら雪もおさまるべさ。何とか間に合うんじゃないかい」
そう言いながら駅長は、かなり冷え込んでいた待合室のダルマストーブに石炭を
くべ始めた。
「東京は何で?」
「あ、向こうの大学に」
「あ、そっかそっか。そしたら今日は記念すべき旅立ちの日だべさ。そっか。
だけど、向こうはさ、もうあったかいんじゃないかい。羽田着いたら、
セーターだと暑いかもよ」
「そうなんですか?」
「3月半ばにもなると東京はもう暑いらしいんだわ。家の娘も東京で仕事してっから、
この前電話で言ってたわ。こっちはもう暖ったかいよーって。うん。
ま、とにかく体に気つけてさ、しっかり頑張って。電車来たら呼んでやっから」
「ありがとうございます」
この駅もずいぶんと思い出がある。
小学生の頃、この駅は絶好の遊び場だった。
駅舎の端にある鉄扉から出入りして、跨線橋の階段を駆け上がり、
向こうの線路脇にあった石炭の山で友達とよく遊んだ。
時には貨物室とか駅長室にも出入りしたが、駅員達に怒られることは一度もなかった。
「ボク、そこのたぬき食堂の子か?」
「ちがうよ。あれ、伯父さんの店」
「そっか。よくあそこにいるから息子かと思ってたわ。そうだ、ボク達ちょっと手伝えや」
駅員にそう言われて、貨物カーゴを引いてあげたりもした。
さっきの駅長はどこからか転勤して来たのだろう。知らない顔だったので
僕もそんな話はしなかった。
ー続ー
星空Cafe、それじゃまた。
皆さん、お元気で!
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