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小さな恋のメロディ

2021年03月27日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ

焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ  (45)

「小さな恋のメロディ

中学2年の正月だった。北海道の小さな街の古い映画館で
「小さな恋のメロデイ」という映画が上映されていた。
全国ロードショーされた数年後に、ようやく我が街に巡って来た
リバイバル上映だったと思う。

僕は映画館入口に貼られてあるポスターの娘に強烈に惹かれ、

引き寄せられるようにチケット売り場に向かった。
その頃の映画館は通常2本立てで、併映は「おかしなおかしなおかしな世界」
いうハリウッドのドタバタコメデイーだった。最初にこれが上映され、
僕は空いた客席で大笑いしながら観た。

                      



そしていよいよ「小さな恋のメロデイ」が始まった。

オープニングは、ロンドンの薄汚れた街のビルの隙間から朝陽が上ってゆくシーンから
始まる。そのBGMが何とも言えぬ素敵な曲で(ビージーズの「イン・ザ・モーニング」)、
最初からグッとその情景に惹きこまれた。
なによりも主人公役の女の娘トレイシー・ハイドに胸がキュンとなった。
脇役のジャック・ワイルドにも好感が持てたし、劇中に流れるどの曲も素敵だった。                          

結局その日は、「おかしなおかしな・・」「小さな恋の・・」の2本立てを

閉館まで繰り返し観た。映画館を出た時にはすっかり夜になっていた。
帰り道、初めて味わうような何とも言えぬ素敵な気分で心が温かかった。

次の日、僕はまた朝から映画館へ足を運んだ。そしてまた閉館まで繰り返し観た。
そしてその次の日も。
                       

3日目には映画館の受付のお姉さんが「あらっ、また来たのね」
という顔で僕を見たので恥かしかったが、その日がこの映画の上映最終日だったから、
もしも「残念だけど3日目の人はお断りなの。理由はないけどそう決まってるの。
もう観れないんだかんね。あきらめて帰りなさいね。わかった?」なんて言われたと
しても、僕は必死にお姉さんにしがみつき、懇願し、無理やりにでも突入しただろう。
だって今日が最後なんだから。もう二度と観れないかも知れないんだから。(むはは)

そのくらいの覚悟と揺るぎない決意で料金を払うと、お姉さんはニコッと
笑い、
チケットの半券を渡してくれた。「ありがとうございます!」僕は礼儀正しく、
これぞ模範の中学生という様にぺこんとお辞儀をして、上映ホールの扉へ脱兎のごとく
駆けだした。そしてもちろんまた、閉館まで一日中観続けた。

最後の上映が終わり映画館を出ると外は雪だった。出る時、受付のお姉さんが

「遅いから気をつけて帰ってね」と声をかけてくれた。素敵なお姉さんだった。
  
                        

その日の帰り道は、もうこれで観れないんだと思い無性に悲しかった。
現在の様に、ちょっと待っていればビデオやDVDになる時代ではなかったから

(というか、そんな物はまだ無かった)、もう一生観れないと思うと悲しかった。
トレイシー・ハイドに会えなくなる事が寂しかった。(そっちか!)
その後、学校などで、どこか少しでもトレイシー・ハイドに似ている娘がいると

胸がときめいた。(むはは)

後日、僕は駅前のレコード店で「小さな恋のメロデイ」のサントラ盤を

ぎりぎり残っていたお年玉で買った。
それからは部屋でビージーズを聴くたびに、あの映画の世界に浸った。

やがて月日は流れ、僕が30歳の頃、都会の街のレンタルビデオ店で

たまたまこの映画を見つけた。「お、懐かしいな」
借りて観た。けどあの時の感動はもう沸かなかった。
あの日、僕を心底包んでくれた素敵な気分は、その映画からはもう貰えなかった。

僕は汚れてしまったんだな。大人になるというのは悲しいことだな。(ぷっ)
只、全編に次々と流れるビージーズの曲達は、相変わらず素敵だった。




        星空Cafe、それじゃまた。
          皆さん、お元気で!

  

        














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