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冬の駅から#13

2021年05月21日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ

 焼き芋みたいな
 エッセイ・シリーズ  (47)

 冬の駅から #13


ここまでこうしてつれづれと、振り返り書いて来たけれど、
どうも何か大事なことを拾い落としている気もする。

それは気にするほど大した事ではないのかも知れないし、
否、それが抜けたらだめだろう的に大事なことなのかも知れない。

もしかしたら心のどこかで意図的に避けてしまっているのだろうか。
ぼんやりとした霧の塊のようなそれは、時々ふと僕の背中の後方に姿を見せては、
すぐにまた何かの陰に隠れてしまうので掴みどころがない。

「冬の駅から」・・上京するこの日の事は、
僕はこれまでに何度か歌にして
ライブなどでも歌って来た。
何度か歌にしてというのは、月日が経つ度に、
その時その時の状況や心情で
歌詞を書き変えて来たからだ。

この日のことは、ほんのつい昨日のことのようであり、
もしかすると、僕が思っている以上にとんでもなく長い時が流れ去った
遥か遠く昔のことであり、
その時間の感覚に手こずってしまっているのは確かだ。

それにしても、13~18歳の頃のことを改めて再び書き綴るなんて、
何と無謀なことを気軽に始めてしまったのだろう。
その後の人生の経緯をすっかり知っているからなのか、
青年に成りかかったばかりの頃の
過去の自分に無理やり戻り、詳しく振り返る作業など、
手を付けない方が良かったのかも知れない。そんな気にさえなる。

とにかく、あと少しでこの章を書き終えることにしよう。
そうでなければ、あれやこれやといつまでも終わらず、
途方に暮れることになりそうだから。

こんな素敵な事があって、こんな素朴な若者達があの北国の小さな街にいたのだと、
拙い筆の力ながらも、残しておきたい事だけをここにしっかり記しておければ良いのだ。


「雪止んで来たんじゃないかい」フジオが外を見て言う。
「んだな。よかったわ。凄い吹雪いてたもな」
「札幌から飛行機だっけ?」
「うん」
「飛行機乗ったことないなあ」眠そうな顔でコータが言った。
「皆ないっしょ」
「恐くない?」
「ちょっと恐いよ」
「だよなあ。飛行機恐いよなあ」とデンスケが呟くと、
「墜ちたらどうする?」とイイっちがニヤッと笑った。
「やめれ、不吉なこと言うな」
「だよな。あはは」

時間を持て余しながら談笑する僕らを、待合室の長イスに座っていた祖父ちゃんが
目を細めるようにして見ていた。
祖父ちゃんは数日前に「札幌の親戚とこへ遊びに行く」と突然言い出して、
急きょ札幌まで一緒に行く事になったのだ。僕のことが心配だったんだろう。
デンスケ達も祖父ちゃんのことはよく知っていたから、皆に話し掛けられて
祖父ちゃんもニコニコと嬉しそうだった。

その時、駅前に一台のタクシーが停まった。

降りて来たのは友人のタツヤだったので僕らは皆驚いた。



                ー続ー                


            













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