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焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ (47)
冬の駅から #12
床に座り込んでシューズを履き直しながら苦笑するデンスケの顔が遠のき、
体育館はいつの間にか、さっきまでの駅の待合室に変わっていた。
我に返ると、デンスケ達はストーブを囲み何やら談笑している。
駅長室に目をやると、駅長は奥の机で何やら書類にペンを走らせていた。
あの様子だと電車はまだしばらく来なさそうだ。
僕はあらためて皆の顔を眺めた。
あの日、デンスケを通じて出会ったフジオもイイっちもコータも、
輪になって肩をすぼめストーブに手をかざしている。
皆揃っていて、見送られるトップバッターが僕か・・そう思った。
10日ほど前、高校の卒業式を終えてからも、
僕らは度々デンスケの家に集まった。
オールナイトニッポンなどの深夜放送に大笑いしたりしながら、
結局朝まで過ごした日もあった。
もうすぐ皆、離れ離れになってしまうという思いからか、
僕らは残り僅かな時間を惜しむように過ごした。
「腹減ったなあ」
「サッポロみそあるけど作る?」
「いいね!」
夜中に腹が減ると、皆でそーっとデンスケの家の一階の台所に降りて行き、
デンスケが棚から持ってきた袋入りのインスタントラーメンを茹でた。
そう言えば一度、デンスケの親父さんがトイレに起きて来て、
僕らが台所でごそごそとやっているものだから声を掛けて来たことがあった。
「ラーメンか?」
「あ、はい」
「そこら辺の野菜使えばいいっしょ」
「あ、いえ。素ラーメンで大丈夫ですから」
「具なしだと美味くないっしょ。これ使え」
そう言って親父さんが台所の奥から野菜やコーン缶詰などを持って来てくれた。
「あ、すいません。ありがとうございます!」
「サトシくんは東京だって?」
「あ、はい」
「いつ発つのさ?」
「来週です」
「そっか。寂しくなるなあ。体に気をつけてな」
「あ、はい。ありがとうございます」
今でも親父さんの温厚な顔を思い出すな。
デンスケのお袋さんや同居していたお兄さん夫婦にも、本当に色々とお世話になった。
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デンスケの親父さんが提供してくれた野菜をみて、
「よし!俺作るわ」とコータが慣れた手つきで野菜を切り、フライパンで炒め始めた。
「上手だな」
「時々、やってるからな」
しかし僕は出来れば避けたかったピーマンをみてため息をついた。
「ピーマンかぁ」
「ん?ピーマンだめ?」
「苦手だわ」
「子供かっ!いいから食べてみ、みそラーメンにめちゃ合うから」
「そうかぁ」
ところがコータが作った具を乗せるとラーメンが格段に変身した。
特にピーマンがスープとよく合って実に美味かった。皆で夜中にデンスケの部屋で
「美味いな!」と言いながら食べたサッポロみそ。それ以来僕はピーマンが好きになった。
そうか、今こうして書いていて思い出した。僕がピーマンを好きになったのは、
コータのおかげだったんだ。そうだったなぁ。
ー続ー
星空Cafe、それじゃまた。
皆さん、お元気で!
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♪「ナチュラル」~S.Yオリジナルソング 「スタジオ弾き語り」
(詞・曲・歌:S.Y 編曲:渡辺じゅんや &インストルメンタルG:ジャック・伝ヨール )
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