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冬の駅から#1

2021年04月05日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ

焼き芋みたいな

エッセイ・シリーズ  (47)


冬の駅から #1


永遠に降り続くんじゃないかと思うような雪が降っている。

僕は駅の待合室のストーブにあたりながら、まだ寝静まる街を眺めていた。
夜明け前の街は暗く、街灯と、商店街の歩道を覆うアーケードの蛍光灯の
明かりだけが、ひっそりと駅前通りを照らしていた。
駅のロータリーを起点として、街外れの橋まで真っ直ぐに延びる通り沿いに、
店や会社が細々と並んでいる。子供の頃から見慣れてきた光景だ。



北海道の中央に位置する小さな街。
父が逝き母が逝き、
僕にとっては悲しい事も多かった街だけど、
それでも生まれてから18年間暮らした、たったひとつの故郷だ。
今日僕はこの街を離れる。おそらくもうここで暮らすことはないだろう。
この景色をしっかり目に焼き付けておきたかった。



駅前にある「パーラー美松」は、まだ子供の時に母とホットケーキを食べた店だ。

四角いバターの固まりとホイップクリームが上に乗っけられていて、
僕はそんなホットケーキを見るのは初めてだったから、テーブルに置かれた時に
「うわっ」っと声をあげたんじゃないかな。
(今でもそうだが、僕は子供の頃から何か感動したりするとすぐに、
「わっ!」
とか「おっ!」とか感嘆の声を上げるクセがあるらしい。)
母が「こうするのよ」とナイフで切ってくれた一片を目を丸くして食べた。
そんな僕を、向かいに座るワンピース姿の母が微笑んで見ていたのを覚えている。
今思うと、その頃母はまだ30代半ばだったのだろうか・・。


その「パーラー美松」の隣りには、
客が10人も入れば窮屈になる小さな書店がぽつんと佇んでいる。
子供の頃から馴染みのある書店だ。
高校生の頃などは、
ほとんど毎日のように学校帰りに立ち寄っては、
入口の小さなレジ机で暇そうに座っているおじさんと話をしたり、
何か面白そうな本がないか探して過ごした。
それにこの書店、高校から家までの
帰り道の真ん中にあったので、
冬の時期などは、店内の石油ストーブで
凍えた体を温めるにもちょうど良かった。
大抵の客は店のドアをガラガラと開けて入って来ると、真っ先にその石油ストーブ
手を温めていたものだ。






そして、通りの向こうには、ひと際大きな市立病院が白く浮かんで見える。
小学5年の時、僕は肺炎を患いあそこにひと月ほど入院した事があった。
入院する時は「オレ、このまま死ぬのかな」と思うほど全身が異様にだるくて
辛かったが、退院が近くなっていた頃にはすっかり元気になっていたので、
毎日が退屈で、廊下に並べてある車イスを勝手に拝借し、病院内をスイスイ乗り
まわして遊んだものだ。小児病棟に入院していたのは当時僕一人しかいなかったから、
看護婦さん達も気遣ってくれていたのだろう。「ケガしないでよー」と言われる
くらいで皆優しかった。

そうそう、思い出した。
下の階の外科病棟に足を骨折して入院していた中学生がいた
んだ。
その中学生も車イスだったから、二人で病院の廊下の端っこで、ガシャン!

ガシャン!と車イスに乗ったままでぶつかり合いごっこをしたんだ。
その時は看護婦さんがすっ飛んできて思いきり叱られたなあ(そりゃそうだ)。
そうそう、そうだ。屋上の窓から身体半分を乗り出して、ぶらさがって遊んだ事もあった。
今考えたらとんでもなく危険な事をしていたなあ。
もし誰かが目撃したら、「あっ!あの子、飛び降りようとしてるんじゃない?!」
と通報されて大事件になるところだったかも知れない。


とりわけ印象深く覚えているのは、1階の待合いホールの片隅に飾られていた
病院寄贈者の上半身の銅像だ。
その銅像が僕に何か話しかけているようで、
時々僕はその銅像の前に
立って、いつまでもじーっと見つめていたものだ。

夕方、誰もいない薄暗いホールでテレビのアニメ番組を観たり、
レクリエーションルームで若い先生や職員さん達に混じって卓球をして遊んだり、
こうして書いていると本当に色々な事を思い出すけれど、
そのわずか数年後、母が息を
引き取ったのもあの市立病院だった。





        ーこの章は、時間が掛かるかも知れませんが、
         しばらく続くことになると思いますー



           星空Cafe、それじゃまた。
             皆さん、お元気で!

  

           





 








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2 コメント

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Unknown (けんすけ)
2021-04-06 21:14:55
こんばんは
楽しみに待っておりますよ
想いの全てを呟いて下さいね。
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けんすけ様へ (S.Y)
2021-04-06 22:54:49
ありがとうございます!長編になりそうですが、やってみます。

けんすけ様も、まだまだ地震には気を付けて下さい。
本棚など紐を一本張っておくと、本が落ちなくて良いですよ。僕はそうしています。(^^)
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