![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/18/f154eff0728c4b6946e96b76be833620.jpg)
焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ (47)
冬の駅から #1
永遠に降り続くんじゃないかと思うような雪が降っている。
僕は駅の待合室のストーブにあたりながら、まだ寝静まる街を眺めていた。
夜明け前の街は暗く、街灯と、商店街の歩道を覆うアーケードの蛍光灯の
明かりだけが、ひっそりと駅前通りを照らしていた。
駅のロータリーを起点として、街外れの橋まで真っ直ぐに延びる通り沿いに、
店や会社が細々と並んでいる。子供の頃から見慣れてきた光景だ。
北海道の中央に位置する小さな街。
父が逝き母が逝き、僕にとっては悲しい事も多かった街だけど、
それでも生まれてから18年間暮らした、たったひとつの故郷だ。
今日僕はこの街を離れる。おそらくもうここで暮らすことはないだろう。
この景色をしっかり目に焼き付けておきたかった。
駅前にある「パーラー美松」は、まだ子供の時に母とホットケーキを食べた店だ。
四角いバターの固まりとホイップクリームが上に乗っけられていて、
僕はそんなホットケーキを見るのは初めてだったから、テーブルに置かれた時に
「うわっ」っと声をあげたんじゃないかな。
(今でもそうだが、僕は子供の頃から何か感動したりするとすぐに、
「わっ!」とか「おっ!」とか感嘆の声を上げるクセがあるらしい。)
母が「こうするのよ」とナイフで切ってくれた一片を目を丸くして食べた。
そんな僕を、向かいに座るワンピース姿の母が微笑んで見ていたのを覚えている。
今思うと、その頃母はまだ30代半ばだったのだろうか・・。
その「パーラー美松」の隣りには、
客が10人も入れば窮屈になる小さな書店がぽつんと佇んでいる。
子供の頃から馴染みのある書店だ。
高校生の頃などは、ほとんど毎日のように学校帰りに立ち寄っては、
入口の小さなレジ机で暇そうに座っているおじさんと話をしたり、
何か面白そうな本がないか探して過ごした。
それにこの書店、高校から家までの帰り道の真ん中にあったので、
冬の時期などは、店内の石油ストーブで凍えた体を温めるにもちょうど良かった。
大抵の客は店のドアをガラガラと開けて入って来ると、真っ先にその石油ストーブで
手を温めていたものだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/61/463b5324711a2ecda50e3df70a32f451.jpg)
そして、通りの向こうには、ひと際大きな市立病院が白く浮かんで見える。
小学5年の時、僕は肺炎を患いあそこにひと月ほど入院した事があった。
入院する時は「オレ、このまま死ぬのかな」と思うほど全身が異様にだるくて
辛かったが、退院が近くなっていた頃にはすっかり元気になっていたので、
毎日が退屈で、廊下に並べてある車イスを勝手に拝借し、病院内をスイスイ乗り
まわして遊んだものだ。小児病棟に入院していたのは当時僕一人しかいなかったから、
看護婦さん達も気遣ってくれていたのだろう。「ケガしないでよー」と言われる
くらいで皆優しかった。
そうそう、思い出した。
下の階の外科病棟に足を骨折して入院していた中学生がいたんだ。
その中学生も車イスだったから、二人で病院の廊下の端っこで、ガシャン!
ガシャン!と車イスに乗ったままでぶつかり合いごっこをしたんだ。
その時は看護婦さんがすっ飛んできて思いきり叱られたなあ(そりゃそうだ)。
そうそう、そうだ。屋上の窓から身体半分を乗り出して、ぶらさがって遊んだ事もあった。
今考えたらとんでもなく危険な事をしていたなあ。
もし誰かが目撃したら、「あっ!あの子、飛び降りようとしてるんじゃない?!」
と通報されて大事件になるところだったかも知れない。
とりわけ印象深く覚えているのは、1階の待合いホールの片隅に飾られていた
病院寄贈者の上半身の銅像だ。その銅像が僕に何か話しかけているようで、
時々僕はその銅像の前に立って、いつまでもじーっと見つめていたものだ。
夕方、誰もいない薄暗いホールでテレビのアニメ番組を観たり、
レクリエーションルームで若い先生や職員さん達に混じって卓球をして遊んだり、
こうして書いていると本当に色々な事を思い出すけれど、
そのわずか数年後、母が息を引き取ったのもあの市立病院だった。
ーこの章は、時間が掛かるかも知れませんが、
しばらく続くことになると思いますー
星空Cafe、それじゃまた。
皆さん、お元気で!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/a8/a8d33f703d6a484af0df8dcc13d27ec8.jpg)
楽しみに待っておりますよ
想いの全てを呟いて下さいね。
けんすけ様も、まだまだ地震には気を付けて下さい。
本棚など紐を一本張っておくと、本が落ちなくて良いですよ。僕はそうしています。(^^)