あ可よろし

「あきらかによきこと」は自分で見つける・おもしろがる
好奇心全開日記(不定期)

獅子なのだから

2019-06-11 | 本(文庫本)
浅田次郎さんの『獅子吼』を読みました。
どうやら私は長編小説が好きなようで(ようやく自覚)、短編の楽しみ方がまだわかっていないような気がします。そして本作は「絶対に長編、それも長ければ長いほど面白い!」と思っている浅田さんの、久しぶりに読んだ短編集でした。

戦時下。「けっして瞋(いか)るな」という父の教えを守り、動物園の檻の中で生きる獅子。しかし動物の世話を続けていた草野二等兵に残酷な命令が下る。(「獅子吼」)
冬の日本海沿岸を走る列車内で声をかけてきた老人。終戦目前の中国大陸で「終わらない赴任先への旅」を続けている桜井中佐と出会った昔話を語り始める。(「流離人(さすりびと)」)
他、時代に翻弄されながらも清く生きる魂を描いた全6篇。

表題作の「獅子吼」。これを読んで思い出したのは、幼いときに読んで、どこにぶつければ良いのかわからない怒りで涙が止まらなかった『かわいそうなぞう』でした。戦争のために動物園の象が殺処分されてしまう話。象は最期まで健気に愛されようとしているのに、人間が勝手に始めた戦争のために犠牲になってしまうことに、子どもの頃の私は悔しくて腹立たしくて悲しくて、声を上げることなく泣きました。
この作品は、人間目線と獅子の目線の両方から物語が進みます。
草原で生まれ育ち、人間に捕獲されて動物園の檻の中で暮らすことになった獅子の心の中には、父からの教えである「けっして瞋るな。瞋れば命を失う」が生き続けています。でも最期に彼は瞋るのです。獅子として。
こういう流れを書かせたら、浅田さんは凄いよね。巧くて巧くて、そりゃ読めばファンになるわ。
過酷な運命に、ぶれることのない矜持を持って立ち向かう……。
短編も悪くないな~と思えた一冊でした。
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