とみしゅう日記

魔女の歌声に魅せられて

福井晴敏『終戦のローレライ』の再読を終えました。
最初に読んだときには、号泣を伴う圧倒的な感動に心身共々痺れました。
今回は格段に落ち着いた状態で読めたのですが、改めて福井晴敏という書き手の巧さに驚かされています。

『ローレライ』『戦国自衛隊1549』そして『亡国のイージス』。
今年公開される3本の映画は、いずれも福井晴敏さんの原作です(ただし『戦国自衛隊1549』は、原案が半村良さん)。
これだけ福井さんがもてはやされる理由は、何と言っても「面白い小説を書くから」なのでしょう。

福井さんの小説からは、尋常ではない“熱”を感じます。
緻密な描写という網の細かな窓から垣間見える、燃えたぎるような熱い思い。
凡庸な世界、凡庸な自分という“都合のいい殻”に閉じこもろうとする自分を思い止まらせる“何か”。
福井さんの紡ぎ出す言葉に共鳴するのは、生物的な性別を問わず、人の中にある“男”の部分ではないかと思うのです。

『終戦のローレライ』という物語の中では、多くの“死”が語られます。暴力的に、あっけなく奪い取られていく人々の命。
心がかきむしられたような痛みを、何度も感じました。
しかし、かつての日本でも現実として多くの命が奪われました。
そして今もなお、世界のどこかでは同様の“理不尽な死”が起こり続けています。
その痛みから目を逸らしてはいけない。
これが小説という虚構の中での出来事であったにしても、その傷みを感じた想像力を本当の世界に繋げていかなくてはいけない。

『終戦のローレライ』は、まず何よりも小説として面白い。
戦争冒険恋愛青春小説とでもいうべき、たくさんの要素が盛り込まれているのです。
物語の中で描かれている第二次世界大戦という戦争について、読んでいるうちに色々な思いを抱かずにはいられなくなるでしょう。
限りある時間と思考との一部を割くだけの価値はある小説です。

もし本屋で見かけることがあったら、全4巻あるうちの1巻だけでも読んでみてください。
せめて『終戦のローレライ』という、アンバランスなタイトルの意味が判明するところまででも読んでみてください。
そこまで読んでいただけたのであれば、きっと最後まで読み通さずにはいられなくなるでしょう。

今度は短編集『シックス・ステイン』を読み直そうかな。


作成日: 2005年5月31日(火) 21時39分
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