平成27年6月25日 富山新聞掲載
お祖母ちゃんとの約束
五月のある土曜日の朝会で、担任の水原先生から「突然ですが、今日の午後に、クラス対抗の野球をすることになりました。選手の人も、応援する人も、みんなで力を合わせて頑張りましょう」と告げられました。
ひろし君は、小学四年生で、一組のエースです。この日は、お正月のときに、隣り町に住んでいるお祖母ちゃんの家に、妹の明美を連れて、遊びに行く約束をしていました。
お祖母ちゃんは、ひろし君を本当に大好きで、いつもお祖父ちゃんと一緒に待っていてくれることを知っていました。
ひろし君が、お祖母ちゃんとの約束を守るために、野球の試合に参加しなければ、きっと四年一組は、負けてしまうだろうし、クラスのみんなに、なんだか迷惑を掛けるような気持ちになり、困ってしまっていました。
「どうしたらよいか」と迷っているうちに放課後になってしまいました。
それで、担任の水原先生に、どうしたらよいか、と相談しました。先生は、「ひろし君に任せるから、自分で判断しなさい」という返事でした。
次に、ひろし君は、お母さんに電話で相談しました。「野球の試合があるのなら、仕方ないから、野球をしてきなさい。お祖母ちゃんには、お母さんから、今日は、ひろしと明美が行けなくなったことを、連絡しておきますから、心配しないで大丈夫」ということでした。
四年生のクラスは、三クラスあります。一組は、見事に、ひろし君の大活躍で、優勝することができました。
ひろし君は、ちょっと疲れましたが、大得意になって、今日の自分の活躍と、優勝できた喜びを、夕食の時に、お父さんと、妹と、お母さんに、お話しました。
お父さんは、「ひろしの活躍で、優勝できたことは、嬉しいけれど、お祖母ちゃんとの約束を守れなかったことについて、ちゃんと自分で、直接謝っておくように」と注意をされました。ひろし君は、まだ、お祖母ちゃんに謝りの電話を、していなかったことに気づき、すぐに電話しました。
お祖母ちゃんは、優勝したことを報告すると、とっても喜んでくれました。でも、その時にお祖母ちゃんが、僕の大好きなおはぎをこしらえて待っていてくれたことも知りました。
「今度、いつきてくれる」と、お祖母ちゃんからの問いかけがあり、次の土曜日に約束をしました。
受話器を置いてから、考えてしまいました。
「お祖母ちゃんだから、約束を守らなくてよかったのだろうか、お祖母ちゃんでなく、よその人だったら、約束を破ってよかったのだろうか、次の土曜日は、約束をキチンと守れるだろうか、明美の気持ちも、考えてあげなくちゃ」。
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