外観
【申告内容】
何年も遊んでいなくて、動かなくなった。
【初診】
他のドクターから開腹できないと急遽治療移管がされました。
SEGATOYSの2000年に発売され対話成長型おもちゃのはしりといえる、人気のあった犬型ロボットです。外観的には首回りの塗装が電池の液漏れにより剥がれ、シッポも折れていました。電池ボックスの端子も腐食が認められました。
とりあえず電池端子の表面のさびをこすり落とし、動作をするか確認しましたがだんまりでした。開腹しての確認です。
電池からの液漏れがかなり程度がひどく、一つ一つ潰してゆかないと、原発巣にたどり着きそうにありません。
電池BOXの端子ですが、一般販売品と形状がおなじで腐食がひどいと交換するのですが、形状が異なるのでさび落としをします。ばねのある端子には、液状のさび落とし剤は有効です。以下さび落とし前と後の一部です。
表示部基板にも電解液の付着と思われる汚れがトランジスタ表面に付着していました。
電解液の付着 目の表示部
基板を触るとべたつきを感じます。電解液が付着しているようです。無水エタノールで拭き取り4つのトランジスタが破損していないか確認しましたが、破損はしていないようです。
上あごの裏側に組み込まれている制御基板もべたついているので拭き取りしました。
電池BOXからの電源系の接続を確認しました。電池は1.5V x 3 で4.5Vなのですが、回路は3Vと4.5Vの端子から引き出されています。モータ駆動と制御系で分けているのでしょう。
電源系の部品である2個のアルミ電解コンデンサも容量は、若干減っていますが問題を起こすほどではありませんでした。複数あるトランジスタも破損はしていないようです。マイコン回りの部品に破損はないようです。
制御基板上にあるリセットスイッチと思われるパターンとラバー接点も汚れがあり清掃しました。驚いた点があります。今はよほど高価なおもちゃでしか採用されないであろう金メッキが使用されています。今では贅沢な作りですね。
配線も腐食が進んでおり、芯線が真っ黒に酸化しており半田ものらず交換しました。
配線を交換し、マイコン回りの部品の破損確認もして電源を入れましたが、だんまりのままでした。
発振回路もCOB(Chip On Board)内部に有り確認ができません。死亡宣告をする前に、マイコンの回りのラインをオシロスコープで観察しましたが、全て電源電圧かグランド電位で変化しているラインはありませんでした。リセットスイッチ、表示部、発音部、スイッチ入力のどれにも反応がないので、マイコンが動いていないと判断しました。
マイコンのCOBの外観は、目視で見る限り異常は感じませんが、20年経過していることもあり経時による寿命とするか、電解液の浸潤によるCOB内部破損とするかはわかりませんが、これ以上の治療は残念ながらできませんでした。
簡単ですが、COBの内部の構造は次のようになっています。基板にベアチップを貼り付けて、ベアチップの端子と基板のパターン端子をアルミ線で繋ぎます。これをワイヤボンディングと言います。産業用では金線を使用しますが、おもちゃは、アルミ線です。その後、樹脂でベアチップを封止します。
COBを使用する主な理由は、
- コストを安く
おもちゃが必要な機能だけあれば良いのでチップが小さくできる。
物理的に小さく、薄くできる。
- コピーされにくい
です。
【治療後記】
今回は、残念ながら治療することができませんでした。
くれぐれも、電池を入れっぱなしにはしないで下さい。液漏れして取り返しがつかなくなることがあります。
- おもちゃで指定されている場合を除き、充電式の電池は使用しないでください。充電式の電池の電圧値は、1.2Vで使い切りの一次電池は、1.5Vです。この電圧差で制御しているICが動作しなかったり、不安定な再現性のない動きをすることがあります。また、モーターなどを使用している場合は、動かなかったりします。
- 電池は、一度に全て同じ種類のできれば同じメーカーのものに入れ替えてください。アルカリ電池とマンガン電池など種類の異なった電池を混ぜて使うと寿命が短くなったり色々な不具合が発生することがあります。
- 長い期間使用しない場合は、液漏れ防止のため電池は抜いておきましょう。
- おもちゃ病院に来院される患者さんに電池BOX端子の腐食という病が多くあります。値段はそれなりですが日本の電池メーカー品の電池は液漏れもしづらく、電池の容量、形状寸法も信頼できるのでおすすめです。使い捨てで構わなければ良いのですが,高価なおもちゃを液漏れで修理不能になったり、修理代がかさむよりは良いのではないかと。。。