久しぶりの入院患者さんです。
患者さんの申告内容
会話をしても噛み合わない?。なにかおかしい。
しばらく使用していなく、久々に電源を入れたのだけれど話が噛み合わない。
初診
話を聞いた段階では、甘く見ていてマイクの配線にトラブルがあるかな?
これが、とんでもなく泥沼にはまってしまったお恥ずかしい記録です。
急がば、回れが教訓です。
まずは、患者さんを知る必要があるので身元調査からです。
本籍地 タカラトミー
出生地 中国
誕生 2016年10月
できること
頭をかしげる、回す、両手を回す、両足をばたばたできます。
特定の36語を認識でき、約2000語をしゃべれます。目や口のLEDが光ります。
おしゃべりをすればするだけ、なかよしレベルが上がりさまざまな遊びが増え
ます。
カレンダー、時計機能があります。誕生日記憶やニックネームで呼んでくれます。
他にもいっぱいなかよくできることがあります。
内診です。
・見た目でマイクからの配線切れはありません。
・マイクから基板に接続するコネクタまでの配線切れもありません。
・マイク単体も異常はありません。
と言うことで、基板のコネクタから回路を追いかけることにしました。
基板を眺めるとマイクからの信号を処理しているだろうICや他の面実装部品の
半田付けの品質が悪い箇所が散見します。
本来は、緑丸で囲われたような半田付け状態が正しいのですが、赤丸部は不良状態です。
これは、基板の配線パターンができてからコンデンサ容量が大きくなり部品が大きく
なり半田付けするパターンと合わなくなり、怪しげな状態になっていると想像します。
こちらは、病状と関連深い音の処理をするICの半田付けです。
かろうじて導通はしているのでしょうが、いつ離れても不思議でない最もやっかいな
再現性のないドクター泣かせの不安定な状態になります。
とはいえ、近道近道でとりあえずICの半田付けを修正しましたが、治癒せず。(T_T)
やむなく全体の把握から出直しです。
黒い樹脂に封入されたCOB(Chip On Board)の中には、マイコン回路、電源制御回路など。
フラッシュメモリーはロビジュニアが話す言葉や、カレンダー、誕生日や呼び方など。
傾斜センサーは、ロビジュニアの姿勢を感じ取るため。
モータドライバーは、マイコンからの指令でモータを回す方向に電流を流します。
OPアンプは、マイクからの電気信号を前処理してマイコンに渡します。OPアンプを
中心に抵抗、コンデンサで回路が構成されているようです。
音声認識は、マイコンのソフトで行っています。
まずは、動作の仕組みの把握からです。頭部は直接絡みませんが動作から2つの
モータがあると推測しました。
足は、クランクで1つのモータでばたばたさせています。
それぞれのモータの位置制御は、リミットスイッチで行っています。
腕には、1相のエンコーダの円板がついているので、回転させて途中で止める位置を
決めていると思われます。
次に、マイクの信号処理をしているだろうオペアンプの電源電圧を確認すると出ていなく、
電源系を確認することになりました。
ロビジュニアは、カレンダー機能を持っていますがバックアップ用の電池を持ってい
ません。そのため、電源スイッチを切っても単純にすべての電源が切られるのではなく
COBは待機状態の通電状態で消費電流を下げるため不要なICの電源を切っている
ようです。
マイクの回路にはロビジュニアが音を聞いている時間だけ、電源が供給されています。
オペアンプの電源電圧の謎が解けたところで、回路の追いかけです。
測定ポイント1で信号を観測すると変化が認められません。最も考えやすいのが
オペアンプの故障かと想定して交換してみましたが状況は変わりません。
実装部品を個々に確認していきました。基板に実装されているので回路構成に
よっては測定値は異なることはありますが、通常制御系で故障することは
ほとんどない抵抗器が開放故障している事がわかりました。
面実装部品が手元にないので、無理矢理アキシャル抵抗器を実装しホットメルトで
固定しました。
音声認識の方法については、ソフトウェアで実施しているのでわかりませんが、COBの
入り口の信号波形は確認できました。
治療結果
音声認識される言葉が36語あり、どの程度の認識率かがわかりませんが
率直には、良くありません。しゃべり方や声の高低などもあるようですが
”おはよう”は、それなりに反応してくれているようですが、それ以外の言葉は、
なかなかわかってくれません。(T_T)
ネット情報を調べても音声認識能力については、良くないので話し方に”コツ”が
必要なんでしょうね。
治療後記
病巣から追いかけ根幹部までゆき、再び病巣部に戻るという経過でした。
原因が故障率が極めて低い部品であったため意外な結末でした。
最近 ”made in japan” メーカのおもちゃでも製造あるいは設計も中国でされて
いるおもちゃが大部分です。しかしながら、日本メーカ名で品質が落ちているように
思うのは私だけでしょうか?。どこで製造しても製品品質を確保するのが私の
日本メーカブランドなのですが。(-_-)
所詮おもちゃと言ってしまえばそれまでかもわかりませんが、そのように言うには
高機能、高額のものと思います。それだけに故障すれば、”はいそれまでよ”では
余りにも忍びないのではないでしょうか。おもちゃを遊び切って寿命で故障するのは
感謝ですが、狭義の製造品質を管理できていないおもちゃを出荷する日本メーカが
当たり前になると悲しいものです。
以前にも海外有名キャラクターおもちゃで購入直後に動かなくなったと来院された
患者さんがいらっしゃいましたが、ひどい半田付けが原因でした。これも偶然か
タカラトミーさんでしたね。タカラトミーさんをけなしているわけでも、非難して
いるのではないのですが日本のおもちゃメーカタカラトミーさんであってほしい
思いからです。
ドクターをして、色々な患者さんを治療するともの作りの姿勢がわかります。
このブログをご覧になられている方で、もし病気のおもちゃをお持ちの方にお願い
です。是非、近くのおもちゃ病院を訪ねてください。
ドクターは、90%以上の病気を治癒できますよ。
なお、ここに書いた回路図などについては、間違いなどもあろうかと
思いますので、利用されるような場合は個人の責任で行ってください。