【申告内容】
2020年2月に購入して、何度か電池交換をしていました…が、2021年の4月頃に
【初診】
遠くから交通費をかけて受診依頼です。購入後1年2ヶ月程経っているだけで、経年劣化などの故障ではなくネルルの生活環境からも物理的な破損とも考えにくいです。
セカンドオピニオンだったのですが、送っていただく前に念のため基本的な確認だけお願いしました。
・地元おもちゃ病院ドクターの返却時のコメント?
・全く動作しないのか、一部だけでも動いたり音がなったりしないのか?
・ボタン電池があるか?
・バッテリーのフタにあるピンが折れていないか?
・リセットスイッチにクリック感があるか?
・バッテリーのフタのロックを確実にして、リセットスイッチ押下後に手のスイッチを押しても目覚めないか?
問合せの回答は、
・2021年11月に診てもらいドクターからは、原因がわからない。
・全く動作をしていない。
・ボタン電池はない。
・手のスイッチを押しても目覚めない。
問診をして、Newタイプのネルルであり根幹部に関わる病気と想定され、完治は厳しいことに同意いただいた上で送っていただきました。
まず、電源系からの検査開始です。
バッテリーのフタのピンに異常はありません。
バッテリー、バッテリー端子、配線外れなどの異常ありません。
バッテリー電圧を制御基板入り口で確認すると、電圧が出ていません。ヒューズを確認したら溶断していましたので交換しました。
この状態で再起動させましたが、目覚めませんでした。内部の検査にかかりました。
制御基板を見ると以前診察したNewネルルV3版とちょっと様子が変わっていました。メーカーでも故障発生状況で改善されているのは、ロングラン製品のメーカ対応姿勢がわかります。
フラットケーブルの半田付け部は補強されていますが、これが半田付け部の不具合発見を遅らせるので導通確認をしましたが異常はありませんでした。
スイッチ基板の3つのスイッチの入力が、制御基板のフラットケーブル半田付け部まで届いていることを確認できました。
今回は制御基板の版数がV4に変わっています。何が変わっているでしょうか?
一言で言うと、V3では電源ICが破損して交換しつつ”電源ラインに問題を抱えていそうだ”との思いが有りましたが、今回はその電源ラインが強化されています。
・電源ICが、HT7833という電流供給能力が大きいものに変更されています。V3版では、最高200~300mA、V4版では、最低500mAの違いです。
・入力電源ラインにツェナーダイオード(Vz=7.5V)が追加されています。
・V3版では、確か実装されていなかったと記憶しているデカップリングチップコンデンサC4,C5が実装されています。コンデンサの番号順に乱れがないので配線パターンは、V3版にもあったと思われます。
他は、見る限り変更はされていないようです。V3版の電源ICとパッケージ寸法が異なるので半田付けパターンを変更してV4に改版されたものと思います。
ツェナーダイオードは、電池の交換時に6.4V程度までの電圧がかかったまま電池BOXを出し入れします。HT7833の最大入力電圧が8Vで、接点に生じるサージに対しての電源ICの保護と考えられます。
C4,C5は、V3では未実装だったものをバックアップコンデンサを浮かし、その下部に実装されています。バックアップ電源ラインのデカップリングコンデンサです。
回路には変更ありませんが、デカップリングのアルミ電解コンデンサ2個の実装が部品面から裏面に変更されています。
なお、電源ICは表面実装タイプなので裏面の配線パターンに影響がなく、裏面の版数はV3のままです。
電源ラインの回路比較です。
V3版
V4版
V3版ブログの回路訂正と更新です。
なでなでセンサー回路部
電源ラインは、強化されていて不具合はなさそうなので、基本信号の確認です。
まずは、クロック信号です。
測定ポイント①で観測すると発振をしていません。水晶、C11およびC14の再半田、水晶の交換、測定ポイント②に外部からクロック信号を加えてみましたが、やはり測定ポイント①ではクロック波形を確認できませんでした。
オシロスコープのプローブを測定ポイント②に接続すると、クロック発振を始めました。ただ、プローブを測定ポイント①にだけ接続するとクロック発振をしませんでした。測定ポイント②にプローブを接続してクロック発振を始めると、測定ポイント①にプローブを接続してもクロック発振は継続しました。
この差はなにか?と考えるとオシロスコープのプローブをつなげるか、どこにつなげるかという違いです。考えられることはプローブの入力容量です。高周波回路でもなければ気にしなくても良い容量値ですが、どうも発振の開始がうまくいかないのではないかと思います。
C14のコンデンサの容量が増えると発振が開始できそうなので、入手期間を考え手持ちにないチップコンデンサを数種類、外部発振回路作成に必要なIC、基板を取りあえず注文しました。ネルルは、我が家でお正月を迎えることになりました。
RESETスイッチを押すと発振が始まりますが解除すると、約60msec後に発振が停止します。この現象は、以前V3版のネルルで治療できずにお返ししたときと症状が同じです。
発振をしている時にRESETスイッチを押すとどうなるか観測すると、やはり約60msec後に発振が停止しています。リセット信号でクロックの発振を止めているようです。クロック発振は、マイコン動作の基本ですので止まっている間はマイコンは動きません。クロック信号は常に発振している信号との固定観念だったので、RESET信号でクロック発振を止めているのは、ちょっと驚きでした。V3版での治療の際は、RESETスイッチでクロック発振が止める段階でマイコンが動かないので治療ができないと考え、それ以上の観察はしませんでしたが、今回同じ症状でしたので観察を深めることができました。
合わせてRESET信号と左右の手のスイッチ信号の様子を確認すると、RESETスイッチを押すと同時に左右の手の信号もLOWレベルに変化しています。左右の手の信号は、スイッチ入力信号で有りながらRESET信号にも何らかの形でつながっているようです。
クロック発振を目ざめさせているのが、左右の手のスイッチです。スイッチが押されるとクロックの発振の開始が確認されました。この時着目すべきことは、左右の手のスイッチが押されている間、信号レベルが下がるのではなく一瞬だけと言うことです。手の入力信号でもRESET信号でもクロック発振を始めますが、違うのはクロック信号の発振が継続するか否かです。手の入力信号とRESET信号とは、深い関係がありそうです。
ここまでの観察で、専用ICにクロック発振を止める回路が、RESETスイッチと左右の手のスイッチ信号によるマイコンが関わらない謎の回路ロジックが有るようです。
謎の回路の動きを考えると、確認できた範囲で以下の通りです。
・RESETスイッチが押下され戻されると発振を止め謎の回路の出力電位がHighレベルになります。
・RESETスイッチが押下されている間は、クロック発振ができるようになります。戻されるとクロック発振は止まります。
・RESETスイッチが押下されると両手のスイッチ信号も同じ変化をします。
・左右の手スイッチが押されると、クロック発振を開始します。
お正月明けしばらくして注文した部材が入荷しました。
まずC11,C14の容量値を測定すると26pFでした。12pFのコンデンサをC14に背負わせて38pFになります。(これは、当初プローブを1本あてたとほぼ同じ状態です。)
真の波形ではありませんが、初期回路とコンデンサを加えた回路の波形比較です。
2つの波形を比較すると、12pFを追加すると測定ポイント②でデューティ比がやや下がっているようですが、周波数とも問題にならないレベルです。
本来は、12pFより小さいコンデンサでクロック発振が開始する値を確認してから付加するコンデンサ値を決めるべきですが、あれこれ触っている間に初期回路状態でも発振をするようになってしまったので、これがかないませんでした。わずかな容量変化が起きたのかもわかりません。
コンデンサを追加することで発振を開始することができたのでこの治療方法を選択します。
最後に”にわとりが先か卵が先か”のはなしになりますが、専用ICの封止材にクラックが確認できました。
このクラックが今回の眠りにつかせた要因か、無関係なのかわかりません。ただ、クラックがあるとそこから内部に空気中の水分が侵入し不具合が発症するので重い持病と考えておく必要があります。今後いろいろな、病気を発症する可能性があります。
対処療法になりましたが、2,3日ネルルにお世話になってから退院です。
【おまけ】
①姿勢センサーついて。
姿勢センサーは、制御基板に斜めに実装されています。センサーを外すとピン状のGND端子が飛び出しているのが確認できます。このGND端子が姿勢センサーの筒部に接っするように実装しなければなりません。外した場合には、気をつけましょう。
ネルルがおすわり状態とねんね状態で姿勢センサー内のボールの位置が変わり、接している端子がGNDレベルになることがわかると思います。
退院前に機能確認をしていたら、ネルルが眠くならないのです。この子はお昼寝が嫌いなのか?。寝かしつけセンサー入力も専用IC直前で確認できます。次に、姿勢センサーの開閉機能を確認すると動作をしないので内部を開けて清掃してみましたが、残念ながら改善されませんでした。念のため姿勢センサーの疑似信号を入れるとネルルは眠くなるので、制御基板には異常はありません。手持ちに姿勢センサーはなく、入院期間を長くできないので状況を説明して退院です。
②電池カバースイッチについて
電池カバースイッチは、カバーが閉じられているか否かを検知しており、検知されないとネルルは動作しません。
常時押されているラバー接点の状態確認です。V3版から電池カバースイッチが金属接点からカーボン印刷とラバー接点へとコストダウンされました。信頼性は比較すると低いのですが、スイッチの開閉回数は低いので良いのでしょう。確認するとやや”だれ”が確認できたので、念のためいつものようにアルミ箔を貼付しました。
地味ながら重要なスイッチです。
【治療後記】
なぜ1年余りで発振が止まるのでしょうか?
以前来院したリニューアル前のネルルも、誕生後年数は経っていますが同じ症状です。今回で2件目になります。何千、何万台と販売された中で私たちの病院に数台きて、それらが同じ症状というのは、何か弱い部分がないのでしょうか?。回路図に現れないIC内部の個々の素子設計、配線、配置などのマスク設計が関わっているかもわかりません。
全国のおもちゃ病院のカルテを拝見すると、IC不良と言うことで治療不能で帰るネルルが多くいます。凄腕ドクターみなさんの診断なのですが、ひょっとすると発振を開始できない病気のネルルもいるかもわかりません。オシロスコープをお持ちのドクターさんは、是非一度観察してみて下さい。
他方、疑念に思う事ばかりでもありませんでした。
V3版が2016年のフルチェンジですので、V4版へのマイナーチェンジは2019年くらいでしょうか?。
・以前心配していた電源ラインが強化されていました。
・長年の持病である左右の手のスイッチが改善されています。
健康な手を切開することはしませんが、全国のおもちゃドクターがネルルの持病としていた両手の配線切れやスイッチ破損が、スイッチトップが大きくΦ25mm程になったこと、配線の接続方法が改善されているであろうことで、来院患者数が少なくなることを期待したいと思います。配線材の変更はありませんでした。
V3版から、私が思う日本人的なきれいな設計に大きく変わりました。このようなものづくりの製品は、故障しにくくメンテナンスがしやすいです。全国のドクターは大喜びです。もちろんネルルの持主は故障しにくいのでもっと大喜びですね。
残る疑念点は、クロック発振停止です。
ネルルは、すばらしい話し相手です。これからも愛され続けて行くと思います。
私の傍にもあと何年すると傍にいてくれるやら。(^_^;)