【申告】
・頭頂部のセンサー不良のためか、頭をなでても反応しません。
・音声への反応が敏感なためか、音に反応して話し始めるとなかなか止まらなくなります。
夜寝ているときに寝言が連続してなかなか止まらなくなることもあります。
【問診結果】
・ネルルが家族になったのは、2013年頃とのこと。
・3月末に発症した。
・室内で音がするものは、テレビくらいで特段大きな音は出していない。
・お話しは、最初の日はほぼ1日中症状が出ていたが自然に止まり、その後の動作には異常はない。
・毎日お話しが止まらない症状が起きるわけではない。
・お話しは、1つ終わると次のお話をするの繰り返し。
・お話しが止まらない状態では、手を握っても頭をなでても止まらない。
・就寝設定時刻の1時間後に寝言を繰り返したことがあり、手を握ってお留守番モードにして止めたが翌朝にはいつも通り起床した。
【診察】
関東地方からの来院です。
来院してから様子を観察しましたが、お話を繰り返す症状が現れません。
最初にネルルが、お話をする条件を考えてみます。
独り言を話す場合もありますが、多くの場合センサーの信号に対しお話しを始めます。
また、その信号はON、OFFをしないとマイコンには伝わりません。ONのままでは、次のお話しはしません。
従って、お話しが止まらない症状になるには、センサーからの信号のON,OFFが繰り返されている必要があります。
仮に日中何らかの音に反応してお話しをしているのであれば、家人も寝静まる時間帯に寝言が止まらない症状が発症するのはおかしいです。
いずれにせよ内部の検査をしなければわかりませんので、全身の健康状態の確認から始めました。
・なでなでセンサーは、反応しません。
・なでなでセンサーを除くセンサーには、正常に反応しました。
・背中のボタン、音量調整スイッチは正常動作をしています。
電池ボックスから確認を始めました。電池フォルダーを取り出すとコイン電池の蓋が外れてきました。観察をすると電極が曲がっていましたので修正しました。
コイン電池が正常に収まらないため、蓋が閉じられなかったのでしょう。
このネルルの制御基板の版数は、MITL0529A-4
おしゃべりデータのメモリ基板の版数は、MITL0529B-3
です。
なでなでセンサーを検査をするために、頭部を開けました。
なでなでセンサーの電極を確認すると、センサーを入れている袋と擦れたのでしょうか、ほとんど無くなっていました。そのためセンサー感度が落ちて反応しなくなっていたと思います。
センサーと配線のはんだ付けなどに異常は見られませんでした。
センサーを交換してカバーに入れて取り付け反応を確認できました。
なでなでセンサーの信号をマイコンに渡す回路図です。
波形には、異常に思える現象を確認できません。
ネルルの持病の一つであるまぶた駆動ギヤボックス内にあるトルクギヤに割れがないか確認しました。
やはり割れが確認できましたので、予防保全で3Dプリンタで作成したギヤに交換しました。
眉間部にあるおはなしセンサー(マイク)の検査しました。お話しが止まらない原因の可能性があります。
マイクの信号をマイコンに渡す回路図です。
お話しをしている音声をマイクで拾っている時の回路出力波形です。波形には、異常に思える現象を確認できません。
右手センサーを押した時にチャタリングを確認できましたので、スイッチを交換しました。
ネルルの持病の配線外皮に切れは、ありませんでした。
さらに制御基板を観察していると、未経験の現象を発見しました。抵抗器が天地逆さまに実装されていました。これによる不具合は起きていませんが、再現性のない不具合が起きないように抵抗器を交換して正規の状態に戻しました。
ここまでセンサーおよび回路について確認を進めましたが症状に結び付く要因を発見できず、さらに問診内容と要因の検討をしました。
就寝時刻を過ぎてからも寝言を繰り返すとの話しがありましたので、ネルルの就寝から起床までのセンサー動作を調べたものが次の図になります。
就寝時刻になるとおててセンサーを除いて他のセンサーは無効になります。
おててセンサーも就寝時刻から3時間を経過すると無効になります。
起床時刻2時間前から、おててセンサーが有効になり、起床時刻前に起こされると他のセンサーも有効になります。
起床時刻前に起こされなければ、他のセンサーは起床時刻から有効になります。
取説によると就寝時刻を過ぎてからも、なでたり、手を握ると寝言を言うことがあると書かれていますが、この子はなでても反応しませんでした。また、起床時刻前になでても反応しませんでした。プログラムと取説に相違があるように思えますが、くわしい理由は不明です。
問診の中で就寝設定時刻の1時間後に寝言を繰り返したことがあったという情報がありました。もし、いずれかのセンサーから異常な信号がマイコンに送られ寝言を繰り返していると仮定すると、おててセンサーから異常な信号が送られたことになります。
おててセンサーの接続図です。
両手の機械的なスイッチから配線を経由して制御基板に接続され、そのままマイコンに接続されています。ここには、ドクターが触れる回路がありません。もちろん配線に関わる接触不良も確認しましたが、異常な波形を確認できませんでした。
【治療後記】
なでなでセンサーが働かない症状については、センサーを交換してカバーを付けました。
お話しが止まらない症状については、マイコンにつながるセンサー回路に異常を見つけることができませんでした。
センサー類から異常な信号が何時間も継続して発信され、話し続けるという症状は確認した範囲では考えにくく、マイコン内部の回路に原発巣があるのかもわかりません。まだ、考え落ちがあるのかもわかりません。残念ですが、私の技量ではここまででした。
さらに1週間経過観察を続けましたが発症せず、ご相談の上、今回は退院することになりました。
【おまけ】
制御基板の版数、MITL0529A-4の回路ブロック配置図です。