【申告内容】
まぶたが動かなくなりました。
まぶたは、手で動かすことが出来ます。
他には、特に異常はありません。
【初診】
四国からの来院です。
購入されて10年以上可愛がって来られたようです。
問診から、まぶたを動かすギヤボックス内のギヤが破損している事が予想されます。
手のひらスイッチを押した感触や、動作について伺いましたが異常はないとのこと。
長い間元気に過ごしているようですが、病気になりやすい他の箇所の検査も必要でしょう。
いずれにしても来院してからです。
来院したので、検査開始です。
申告通りまぶたは、動かず手で開閉できるのでギヤの破損と思われます。
手のひらスイッチのクリック感に異常はありません。ただ、まぶたが動かない関係か初期設定中にまぶたモーターが回ると、おしゃべりが止まり設定の選択が終わらないうちに確定される動作になってしまいます。この確認は、治療後に再確認です。
電池ボックス端子、ヒューズも問題ありません。
なでなでセンサー、おやすみセンサー、姿勢センサー、おはなしセンサーも機能しています。
音量調整スイッチの切替が重いです。
リセットスイッチは、正常に働きます。
アジャスタスイッチは、働きません。別途検査が必要です。
頭部の検査です。
頭を開くためには、いつものように胴体の分解から始めなければなりません。
頭部にあるまぶたを動かすギヤボックスです。
ギヤボックス内の一部のギヤがもろく崩れ落ちています。これは、初期ネルルの持病のひとつです。グリスとの相性でしょうか?。このギヤだけ樹脂が異なっているのですが、その背景はわかりません。
38歯と10歯の複合ギヤなのですが単独の38歯、10歯のギヤと念のためのスペーサで構成して治療は終了です。圧入されているので、とりあえず一体化していなくても大丈夫でしょう。
他に、過負荷によるギヤの破損を防止するためのクラッチ構造をもつピニオンギヤに、クラックがありました。
この病状は、以前治療したミルルでもありました。この時は、個体不良と思い割れが開かないようにステンレス線でしばりましたが、これも持病の1つのようです。ただ、このギヤは専用のクラッチ構造なので、外部から入手できません。
そこで今回は3Dプリンターで作れないか挑戦しました。モジュール0.5、歯数10のピニオンギヤです。立体図は作成できますが、実際歯車になるかは印刷してみないとわかりません。
プリント条件は、ノズル径0.3mmを使用しフィラメントはPETGを使用しました。形状は、強度を増すように一部変更しています。
何とかギヤの形をしていそうです。クラッチの相手の平ギヤとも噛み合わせ、クラッチ動作の際の凸部の破損がないか確認しましたが破損することもなさそうです。
熱溶解積層方式の3Dプリンタでは、10歯あたりが限界のように思います。
これでギヤの破損治療は終了ですが、ギヤボックス内のギヤかみ合せ関係に余裕がなく、挿入するギヤの位置調整が厳しいです。
もう一つまぶたの持病原因であるまぶたの開き具合を決める位置スイッチ動作の確認です。他の事例や経験からも4番スイッチの破損が多いですが、指でおしてみると1番スイッチが他と比較して反発力が弱いので予防保全として交換しました。
主訴のまぶた治療は、動作確認をして終了です。
次にアジャスタスイッチが動作しない病気の検査です。配線半田外れかとおもいましたがタクトスイッチの故障でした。交換して終了です。
音量スイッチは、接点復活剤の塗布でスムーズに動かせるようになりました。
最後に、もう一つの持病である手のひらスイッチの断線病です。クリック感はあるのですが、配線外皮の様子はわからないので腕を開いて確認しました。いつも断線する収縮チューブの端面位置が肩に近く、加えて扱い方も良かったと思うのですが配線外皮の切れもありませんでした。
【治療後記】
いつもドクターを泣かせてくれる初期のネルルですが、治療は予測通りのギヤ崩壊でした。おまけで10歯のピニオンを3Dプリンタで作成するという挑戦もできました。今後同様な病状の患者さんが来られても対応が出来ます。小さいですが、確かなステップアップです。
来院時の初期設定中にまぶたモーターが回ると、おしゃべりが止まり設定の選択が終わらないうちに確定される現象は、まぶた治療が済むとなくなりました。
元気に退院です。
【おまけ】
ギヤの挿入の方法です。他の病院で紹介があった治具が役立ちました。クランプに穴あけ加工をするだけなのですが。