前の2つのBlog(なぜ第2波で重症者が少ないのか、なぜ日本で患者数が少ないのか)で述べたように、観察されるWARSの流行の有様からは、何らかの生物的要因が想像される。(https://blog.goo.ne.jp/tributary/e/2cbd5538cfc1618e2697a938e6a13a1b, https://blog.goo.ne.jp/tributary/e/a561adb9086838b57e52b1baf70da5b1)
生物的要因を、ヒトの要因かウイルスの要因に分けてみる。流行しているウイルスが異なれば、説明は容易である。確かにコロナウイルスは変異しやすい。しかし、ウイルスの遺伝型の調査に基づいて病原性が大きく異なる、という医学的な研究結果は聞こえてこない。変異は起こしても、病原性が地域間で決定的に違うということはないのだろう。
ヒトの要因には、血栓症への抵抗性、高い自然免疫能、類似ウイルスによる事前感染などがありうる。血栓症は大きな重症化要因であり、人種間で違いがある(欧米人は血栓症を起こしやすい)。しかし、流行の弱いアジア・オセアニア地域(A/O地域)のオセアニアには白人が多く、そこでも死亡率が低い。自然免疫能については、BCG接種が自然免疫能を高めるという仮説もある。A/O地域では多くの国でBCG接種が広く行われている。しかし、自然免疫能がそれほど高いならば、他のウイルスによる流行性疾患にもA/O地域が抵抗性を示すはずである(そうでもない)。残る事前感染による免疫賦活は、A/O地域は地理的に中国に近いので、その点ではありうる話である。
以上から、あくまで想像であるが、以下のような話を考えたい。まず病原性の弱いウイルス(V1)が昨年の夏から秋にかけて中国で流行していた。しかし、この流行は症状も軽く通常の風邪として特に問題とはならなかった。V1は人の往来を介して中国国内やA/O地域の住民に蔓延した。その結果、この地域住民にはV1に対する免疫能が誘導されていた。昨年12月頃に、V1が変異して強毒なウイルス(V2)となった。これが今回の武漢でのOutbreakである。ところが、中国やA/O地域ではV1への曝露が事前にあり、V1への免疫はV2とも交差するので、V2の流行は爆発的にはならなかった。一方、その他の地域はV1への曝露が不十分であったので、V2が初回感染となって大流行となった。
第1波と第2波の差については、以下のように想像される。まずウイルス(上記のV2になる)に大差はない。第2波の方で陽性者数が多いのは、PCR検査の適応を拡大したからである。実は感染者数は第1波の方が多かったので、重症者も第1波で多かった。医療体制の進歩や国民行動の改善も、第2波の重症者減少に寄与しているかもしれない。一方、第2波が衰えをみせないのは、第1波は緊急事態宣言で封じ込めたが、第2波では封じ込めが破綻しているからである。すなわち、今やウイルスが常在化している。こうなると、V1かV2に集団全体の相当数が曝露されないと、感染は収まらない。それでも、日本ではV1に曝露された人口が大きいので大流行にはならない。
想像であるが、日本を含むA/O地域で流行が弱いのは、弱毒性の類似ウイルスの感染が先行し免疫能を賦活していたからである。自然免疫能や他の社会的要因も、ある程度は影響しているかもしれない。